ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

横山秀夫「ノースライト」/今村昌弘「魔眼の匣の殺人」

どもども。こんばんは。春めいて来ましたねー。今年は桜も早く咲きそうですね。
入学式まで持ちそうにないですねぇ。ちなみに4月から兄の上の子は新社会人、下の姪っ子は
短大入学が決まっています。姉の上の子は中学入学ですし。みんな新スタートだ。
頑張れ~。


読了本は二冊です。


横山秀夫ノースライト」(新潮社)
待ちに待った横山さんの新作。『64』以来ですね。発売日をしっかりチェックして
当日予約したので、無事一番手で回って来ました。
今まで警察ミステリーや法廷ミステリーなどが多かった横山さんですが、今回は
大分テーマを変えて来たなぁという感じ。主人公は一級建築士の青瀬。離婚して
独り身ですが、別れた妻が引き取った中学一年の娘がいます。多感な年頃の娘との
接し方に悩みつつ、面会日を心待ちにしています。
そんな青瀬は、友人の岡嶋が営む、岡嶋設計事務所に勤める建築士。ある日青瀬は、
ある夫婦からの依頼で建てた信濃追分の一軒家に関する奇妙な情報を耳にする。
その家は、依頼人の夫婦から『青瀬さん自身が住みたい家を建てて欲しい』と言われ、
細部にまで拘って建てただけあり、本に取り上げられる程の自信作だった。引き渡しの
際にも、依頼人夫婦は良い家だと喜んでいた筈だった。しかし、現在その家には誰も
住んでいる気配がないのだという。青瀬は、一路信濃追分に向かい、自分の目で
確かめることに。すると、確かに家には誰も住んでいる気配がない。それどころか、
引っ越しした形跡すらなかったのだ。しかし、空っぽの家には、電話機と一脚の
タウトの椅子だけが残されていた――一体、一家はどこへ消えたのか。青瀬は、
タウトの椅子を手がかりに、一家の痕跡を辿り始めるのだが――。
ぐいぐいと引き込まれて、あっという間に読了してしまいました。題材が題材な
だけに、重厚な警察ミステリの『64』よりは遥かに読みやすかったですね。住んでいる
筈の一家が忽然と消えてしまい、空っぽの家だけが残っているという謎は、最初民話の
マヨヒガみたいな印象を受けたのだけれど、その真相は全く予想外のものでした。そもそも、
建築士自身が住みたい家を建てて欲しい、という依頼人の希望自体に不自然なものを
感じてはいたのですけどね。まさか、ああいう事情があったとは。
ブルーノ・タウトという建築家のことは恥ずかしながら、今回初めて知りました。
どんな作品を作った方なのかな~。今回出て来るタウトの椅子も実物を見てみたい。
事件の背景には、青瀬自身のルーツともなっている、ダムの技術職人をしていた
父親の事故死とも深い関わりがありました。いろんな要素が積み重なって、今回の
一家消失事件に繋がっている。細かく積み上げられた伏線が繋がって行く過程の
描き方は、やっぱり巧いなぁと唸らされました。そこに、青瀬の家族の問題や、
事務所のチャンスとピンチなどを上手く絡めて、とても読み応えのある作品に仕上がって
いると思います。ストーリーの進め方がやっぱり上手だなぁと感心。メインの一家消失
に絡めて、青瀬自身の物語にもいろいろな要素を取り入れてドラマチックな展開になって
います。画家藤宮春子の美術館のコンペに関する悲喜こもごものドラマも読みごたえ
ありましたし。事務所が一丸となってコンペを目指す場面は、ちょっとした青春ドラマの
ようでもありましたしね。ただ、途中、とてもショックな出来事が起きたりもしますが。
青瀬が最後まで岡嶋事務所への恩義を忘れずに行動するところに胸が熱くなりました。
殺人事件こそ起こらないですが、ぐいぐい引き込まれ、読み応え十分のミステリーでした。
娘の日向子ちゃんもとっても良い子で良かった。きっとゆかりさんの育て方が
良いのでしょうね。ゆかりさんとは、今後復縁もあり得そうな雰囲気でしたね。
嫌いで別れた訳でもないのだから、青瀬も変なわだかまりを捨てて、素直になれば
良いのにな。Y邸でいつか、三人が一緒に暮らせる日が来るといいけれど。
ちなみに、タイトルのノースライトは、そのまま北の光、建築の世界では北からの
採光を意味するようです。個人的には、Y邸みたいな北からの採光だけの家には住みたく
ないなぁって思いましたけど。やっぱり建物は南向きの暖かい家がいいもの。多分
Y邸は北からの光でも温かいようにたくさん工夫を凝らしているのだとは思いますけどね。


今村昌弘「魔眼の匣の殺人」(東京創元社
昨年のミステリーランキングを総なめにした『屍人荘の殺人』の続編。まさか、
ああいう作品で続編が出るとは。まぁ、続編と言っても、前作の主要登場人物二人が
出ているだけで、内容的には全く重なっていませんが。もちろん、前作のネタバレ等にも
最新の注意を払って書かれているので、こちらから読んでも問題ないようになってます。
今回は、W県の人里離れた山奥の匣のような施設で、斑目機関がかつて超能力研究を行っていた、
という情報を掴んだ比留子さんが、葉村君とともに調査に赴き、殺人事件に遭遇します。
施設には、先の未来が読める『サキミ』という老女が世話人の女と共に住んでいた。
斑目機関が超能力研究をしていた頃から研究対象であった彼女だけが、老女となった
今でもこの施設に残って暮らしていた。預言者として周囲の村人からも畏れられていた彼女は、
葉村や比留子たちの前であと二日のうちに四人が死ぬという予言を告げる。施設には、
葉村たちがバスで出会った高校生の男女や、ツーリングの途中でガス欠を起こし、
ガソリンをもらおうとしていた青年、親族の葬式帰りの親子、墓参りの為里帰りした
元住人の女、雑誌記者のライターの男などが集まっていた。すると、施設と外界を
つなぐ唯一の橋が燃え落ち、外界から孤立してしまう。そんな中、サキミの予言通りに
人が死んで行き――。
前作程のインパクトはありませんが、ミステリとしてはなかなか面白かったです。
サキミの能力が真実だという前提ありきの作品なので、超能力自体を否定してしまうと
成り立たなくなってしまうと思うのですが。犯人の動機に関しても、後で思い返すと
きちんと伏線が張ってあるんですよね。まぁ、すっかり忘れてましたけど^^;
一人目の被害者の臼井の死の原因が本当に○○だとすると、ぞっとします。お守りの
伏線とか、良く考えてあるなーって思いました。
でも、一番驚いたのは、終盤で明らかになるサキミの正体かな。なるほど、
そうだったのか~って感じでした。
ラスト、比留子さんの葉村君への強い思いにぐっと来ました。二人は今後も
良い関係が続けられそうですね。お互いにお互いを思いやっているのだから。
比留子さんはもう、葉村君のホームズって言っていいんじゃないのかな。
二作目にして、本格ミステリ作家の名を不動のものにしたと云っても良いような気が
します。この水準で今後も出し続けてくれたら嬉しいなぁ。
次巻の予告のような場面で終わっているので、そんなに待たずに次が
読めそうかな。楽しみに待っていたいと思います。