ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

宮部みゆき「希望荘」/道尾秀介「staph(スタフ)」

いやー、暑い!本格的な夏が始まった感じがしますねぇ。
みなさま、夏バテなどされてませんでしょうか。

昨日からオリンピックが始まりましたね。柔道、体操は若干先行きが不安なものの、
競泳はばっちり、萩野・瀬戸両選手がやってくれましたね~。
サッカーでがっかりしていたところだったので、今日の嬉しいニュースには
テンション上がりました。まだまだこれから期待できそうな競技が目白押しなので、
メダルラッシュに期待したいところです。

そうそう、前置きながくて申し訳ないのですが、嬉しいニュースといえば、
もう一つありまして。
我が家のお庭のレモンの木に、三年目にして、ついに実がついたんですーーーっ!!
しかも、もう相当の大きさになっているのに、昨日まで相方ともども全く気付いて
なかったという・・・^^;表面から見てると、葉っぱの影に隠れて完全に死角になって
いるところに生っていたので、気づかなかったんです。ちょっと斜め方向から見ると、
ひょっこり姿が見えるという。いやー、嬉しかったです。だって、植えてから三年、
毎年一応花は咲くけど、実は一度も生ったことがなかったんですもの。
たった一つですけど、こんなに嬉しいものだとは。収穫は秋頃になると思うので、
それまで大切に見守ろうと思っております。食べるの楽しみだなぁ。台風とかで
実が落っこちなければよいのだけれど・・・^^;


・・・前置き長くてすみません^^;


読了本は二冊。


宮部みゆき「希望荘」(小学館
待望の、杉村シリーズ第四弾。ついに、杉村が探偵になりました。ま、といっても、
まだ新米のせいか、探偵の仕事よりも調査会社の調査員としての仕事の方が主流の
ようですが。
今回は、初の短編集。短編といっても、四作すべてが中編と言っていいくらいの
長さなので、中編集の方が正しいのかな。
どれもさすがの完成度。今までの三作と違って、少し作風は軽めかもしれません。
独身になった杉村が、背負うものが少なくなって、気楽に仕事を進められるように
なったからかも。あれだけ他人の悪意に触れても、杉村の持っている本来の人の好さが
全く失われていないところが、彼の良いところですね。いまだに、元妻のことを決して
悪く言わないし、元義父に対する尊敬の念も忘れていない。愛娘に対する愛情の深さも
全く変わらない。娘との関係が未だに良好なようなので、少しほっとしました。
うち一作は、杉村がいかにして現在の仕事に就いたのか、その経緯が語られています。
一度実家に帰っていたとは。出戻り状態で帰ったことで、一部の親族からは冷たい態度を
取られたり、姉夫婦の元で同居させてもらっていたりと、なかなか肩身の狭い思いをしながら
生活していたようです。でも、本来の性格の良さと誠実な人柄が幸いして、理解者を
次々と得て、自分の地位を確立させて行く辺りは杉村らしい。そのおかげで、東京に
移り住んで探偵活動もできるようになったのだし。一度は逆玉の輿に乗って贅沢な暮らしを
していて、そこから真逆の貧乏暮らしになったのに、そちらの方が生き生きとして見える
から不思議。妻子との別れについては、時折思い出して寂しい気持ちを覗かせているけれども。
愛娘の桃子とスカイプで嬉しそうにやり取りする姿が微笑ましかったです。こういうツールが
出来て、今は便利な世の中になりましたよねー。特に、姉夫婦の飼い犬を通したやり取りに
ほっこりしました。会話した後の寂しさに胸が痛みもしましたが・・・。
東京で探偵活動ができるようになって、杉村が一番うれしかったのは、桃子と会いやすくなった
ことだったのじゃないでしょうか。やっぱり、実家にいる限り、何かあったときすぐに
駆け付けたりは出来ないでしょうからね。


軽く一作づつ感想を。若干ネタバレ気味の記述も入っております。ご注意を。


『聖域』
杉村が東京に戻り、探偵事務所を構えてからの記念すべき依頼人第一号は、懇意にしている
事務所の向かいのヤナギ薬局の奥さんの知り合いの女性だった。彼女が住むアパートの真下に
住んでいた老婆の幽霊を見かけたという。本当に老婆の幽霊なのか、それとも老婆が死んだと
いうのは嘘の情報だったのか――。
老婆の幽霊の真相は、なんとも後味の悪いものでした。こういうラッキーが舞い込むことは
誰にでも起こり得るのだろうけども・・・なんだかなーって感じ。特に、娘の言動がムカついて
仕方なかったです。人間、お金を目にすると人が変わるものなんですかね。それにしても
現金というか・・・呆れました。特に、一緒に暮らしていた人たちをあっさり見捨てて、
出て行っちゃう神経に。自分さえよければ、後はどうでもいいんだろうな。こういう無責任な
人間には怒りしか覚えないです。関わり合いにならないことが一番良いのかも。

『希望荘』
老人ホームで先日死亡した父親が、死ぬ間際に度々『かつて人を殺した』と告白していた。
その真相と真意を知りたいという老人の息子からの依頼を受けた杉村。昔の事件を調べ始めると、
確かに老人が告白したような死亡事件が起きていた。老人は本当に罪を犯していたのか――。
老人の発言の真相には驚かされました。ずいぶん回りくどいやり方にも思えるけれど、
老人がある人物に伝えたかった思いに暗澹たる気持ちになりました。老人が敢えて
その人物にさせようとしたこの行為、傍聞きというのですよね。長岡(弘樹)さんの
作品で出て来たやつ。結局、老人の行為だけでは翻意させられなかったけれど。
孫の幹生、最初はムカつくガキだと思いましたが、いい祖父がいたおかげで、
良い青年に育ちそうですね。いづれ、杉村の片腕になったりして。

『砂男』
離婚後、地元に戻って姉夫婦と暮らしていた杉村は、地元の観光案内所が発行している
フリーペーパーの配達の仕事を始めたが、その仕事のつてで、今後は地元の農産物直売所で
働かないかという誘いを受けた。強い勧めがあり、アルバイトだが受けることにした
杉村は、商品ポップを書いたり、お得意先に商品を届けたりと日々忙しく働くことで、
離婚後に失っていた人間らしい感情を、少しづつだが取り戻しつつあった。
そんな中、お得意先の一つである、夫婦で営む蕎麦屋の主人が、ある日突然女性と
不倫して失踪してしまう。一週間後、蕎麦屋は閉店した。しかし、その出来事には
裏があるらしい。調査会社を営む蛎殻という男と出会った杉村は、その事件の真相
解明に協力することに。
不倫失踪事件の真相は、何ともやりきれないものでした。後味も悪かったな・・・。
幸せに暮らしていた筈の夫婦だったのに。普通なら、奥さんが妊娠したら、もっと
幸せになる筈なのに。夫婦の問題は、表面からはわからないものですね・・・。

『二重身』
東日本大震災で事務所にしていた借家の古家が傾いてしまい、住むことができなく
なった杉村は、大家の竹中夫人の計らいで、竹中家の一角に間借りさせてもらえる
ことになった。心機一転、新事務所に来た依頼人一号は、黒ずくめの服を来た
女子高生だった。少女の依頼は、震災を境に行方がわからなくなった、母の交際相手
の男を捜してほしいというものだった。男は雑貨店の店長で、震災の前日に東北へ
行くと行ってでかけて行ったらしい。男の安否を探り始めた杉村だったが、意外な
事実が明らかになって行く。男は本当に東北へ行ったのだろうか――。
こちらの真相も、やるせないものでした。震災を隠れ蓑にして、こういう犯罪行為を
するというのは卑劣過ぎる。犯人の身勝手な行為に腹が立って仕方なかったです。
竹中家の三男、トニーのキャラが救いでした。これからも、杉村の味方になって
くれそうですよね。今後の活躍が楽しみ。

あと、杉村の良き理解者である喫茶店のマスターもちょこちょこ出て来ていい味出して
ましたね。杉村の転居に合わせて、本当に喫茶店を移転させたところにびっくりしました^^;
どんだけ杉村のことを好きなんだか(笑)。
探偵として活躍し始めた杉村の今後の探偵活動も楽しみです。


道尾秀介「staph(スタフ)」(文藝春秋
ミッチー最新刊。夫の浮気が原因で離婚し、一人で移動デリを営む掛川夏都が主人公。
夫を追い出し、今は、シングルマザーで海外を飛び回って働く姉の一人息子・智弥と
一緒に暮らしている。
ある日、いつものようにキッチンワゴンで営業していると、保健所から来たという
男に話しかけられ、ワゴンの衛生状態を調べると言われて車に乗り込まれてしまう。
夏都を脅して車を走らせた男の言うまま車を運転していると、あるマンションの
一室に行き着いた。そこで待ち受けていたのは、思わぬ展開だった――。

うん、ミッチーらしいお話でしたね。カグヤの協力者、オブ、オブラージ、プー、
タカミーといった仲間たちのキャラ造形もいかにも!って感じでしたし。
カグヤの問題があっさり解決した割に、随分まだページ数が残っているな、と思って
読んでたんですが、この作品で書きたかったことは、その後の部分だということが
わかって、なるほど、と思いました。カグヤの問題は、その重要な部分を覆い隠す為の
フェイクに過ぎなかったのですね。
これは一重に、ある人物の、ある人物に対する慟哭の物語だったんですね・・・。
最後の悲痛な叫びが、胸に突き刺さりました。やりきれなかったです。
その人物がやったことは、たくさんの大人を巻き込んで、あわや犯罪に発展する
可能性もあった訳で。その理由が、あまりにも子供っぽい理由だっただけに、
その人物の心の均衡がどれだけ危ういところまで行っていたのががわかりました。
もっと素直な性格だったら、こんなことにはならなかったでしょうが・・・。
嫌悪を覚える人もいるでしょうが、私はそれだけ我慢してきたその人物が
可哀想で、逆に愛おしくなりました。それは、きっと夏都も一緒じゃないのかな・・・。
彼女は、ずっと後悔し続けるのではないでしょうか。自分がもっと早くに、
気づいていれば、もっと違った結果になったのではないかと。手遅れになる前に、
今回の事態は防げたのではないかと。今後のふたりの関係がどうなるのかが
ちょっと気になります。でも、相手は、きっと夏都のことは信頼している筈だから、
ずっと支えになってあげてほしいです。
ただ、その人物のカグヤに対する言動だけは、腹が立ちました。道具みたいに、
彼女を扱ったことを。その人物の前から去って行く彼女の姿が切なかった。

一番気になったキャラは、智弥の塾講師の菅沼。超堅物で怪しい言動ばかりだけど、
夏都に対するまっすぐな気持ちは応援したくなったし、基本はとてもいい人
なので、ズレた行動もなんだか憎めなかったです。夏都と上手くいけばいいのにな。

実は、タイトルの意味が最後までよくわからなかったのです。staphってなんだろう?
って。ネットの辞書機能で調べたら、いくつか意味はあるのだけど、どうも、この
作品と照らし合わせてみると『黄色ブドウ球菌』のことらしい。
それがわかって、ああ、そうか、と思いました。これは、読んだ方ならわかると
思います。しかし、最初か最後に、言葉の意味は載せるべきだったんじゃないのかな。
本文中に、staphという言葉は一切出てこなかったので(単なる読み逃しだったらすみません^^;)。
多分、理系の人くらいしか、この言葉の意味はわからないのでは・・・。
こはちょっと、不親切だな、と思いました。

一たび増殖してしまうと、もう元には戻れない。やってしまったことは、
もう二度と取り戻せない。夏都の後悔が、悲しい叫びになって私の心に残りました。