ミステリ読書録

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瀬尾まいこ/「おしまいのデート」/集英社刊

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瀬尾まいこさんの「おしまいのデート」。

いろんな形の「デート」、あります。祖父と孫、元不良と老教師、特に仲良くもない同じクラスの
男子同士、協力して一緒に公園で犬を飼うOLと男子学生。何気ないのに温かい人と人のつながりを
軽やかに描く、5編収録の作品集(紹介文抜粋)。


久しぶりに瀬尾さんの新刊が出ました。毎度ながら薄いし読みやすいのであっという間に読み終えて
しまった。今回は、紹介文にもあるように、恋愛以外の、いろんな形のデートを描いた短篇集。
どのお話も瀬尾さんらしく、読み終えてほっこり出来る、心温まる作品集でした。『デート』が
テーマですが、恋人同士のデートのお話がひとつもないところが面白い。老人と子供、恩師と
元生徒、男同士、野良犬の共同飼い主、保育士と保育園児・・・一言に『デート』といっても、
いろんな関係のデートがあるものだなぁ、と一作読むごとに新鮮な気持ちになりました。
うん。久々にど真ん中の瀬尾作品が読めて、嬉しい。とっても良かった。でも、気になったのは、
巻末の初出を見ると、どの作品も随分前に書かれたもの。一番新しいのが2005年7月。
なんで今まで単行本にまとまらなかったんだろう?瀬尾さんって、まだ教師と二足のわらじ
なんでしたっけ?本業の方が忙しかったから、改稿出来なかったとか、なのかな。最近でも
ちゃんと雑誌とかに寄稿されたりしてるんでしょうか。ちょっと心配になってしまいました^^;




以下各作品の感想。若干ネタバレ気味。未読の方はご注意ください。






『おしまいのデート』
両親が離婚して、母親に引き取られた私は、定期的に父と会っていたが、父が再婚してからは、
いつからか待ち合わせ場所に祖父が現れるようになった。今では毎月第一土曜日は祖父と会う日
になっていた。しかし、母の再婚も決まり、ついに祖父とのデートも最後の一日を迎えた。

軽トラに乗っておじいちゃんと海までドライブデート。なんだかほのぼのしていていいなぁと
思いました。二人の会話がまた微笑ましくて。写真に撮られるのは魂が抜けるから嫌だとごねたり、
出来もしないのに雨を止めると言い切っちゃうおじいちゃんが可愛らしくて好きでした。おじいちゃん
の神通力は結局通じなかったけど、その分新しい家族が迎えに来て、ちょっぴり彗子はおじいちゃん
が言った通り、幸せになれたんじゃないのかな。

『ランクアップ丼』
毎月、給料日前の二十四日には必ず玉子丼を食べる。高校時代の恩師である上じいと一緒に。高校の
時は上じいに奢ってもらっていたが、高校を卒業してからは俺が奢り返していた。俺は、これからも
ずっとその関係が続いて行くと思っていたのだが――。

これは一番好きでした。恩師のアドバイスで自分の進むべき道が切り開け、恩を感じて玉子丼を
奢る三好にも好感が持てたし、二人の関係がすごく好きでした。後半の展開はなんとなく予想が
ついてしまい、読むのが辛かったところもあるのですが、上じいの代わりに現れた人物がとても
あっけらかんとしていて、悲しみを吹き飛ばしてくれたのが良かったです。上じいが、三好との
デートととても楽しみにしていたことがわかるくだりは、やっぱり泣けたけれどね。何度も登場
する玉子丼がとっても美味しそうでした。最後に食べる天丼も・・・。じゅる。

『ファーストラブ』
突然同じクラスの宝田からデートに誘われた俺。宝田とは別に特別親しくもない。しかも、宝田は
男だ。正直行きたくなんかなかったが、待ってると思うと律儀に行ってしまうのが俺の性格なのだ。
そわそわしながら当日ろくに眠れないまま待ち合わせ場所には十分前に着いた。しかし、宝田と
きたら、十分も遅れてきやがった。一体こいつは何を考えているんだ?奇妙な男二人のデートが
始まった――。

これは次点かな。いきなり男からデートに誘われて、行きたくないとか言いながらも律儀に
待ち合わせ場所に行き、なんだかんだでデートを楽しんでしまう主人公広田の心境が可笑しくて、
ニヤニヤしちゃいました。しかもお相手の宝田君、観たい映画は泣ける純愛映画だし(でも、
観た後号泣していたのは広田の方)、お昼に豪華なお弁当(しかも美味!)を作って来ちゃう
し、完全に女子力バツグンの男の子。途中、何度か男同士のデートって忘れちゃいそうになり
ましたよ(苦笑)。ラストで主人公の宝田君への宣言がいいですね。私も、彼らにはこの先も
ずっと友達(?)でいて欲しいなぁ。離れてもね。このタイトルって意味深ですねぇ。宝田君は
結局、広田君の初恋だったんでしょうかね(苦笑)。

『ドッグシェア』
離婚経験のある三十代OLの私は、仕事帰りにさびれた公園を通って近道して帰る。ある日、
いつものように公園を通ると、ダンボールに捨てられた犬と出会った。その日以来、犬にポチと
名をつけて、仕事中のおやつとして持っているビスコをあげるようになった。しかし、ある日
を境に、ポチのダンボールに知らない誰かから中華のお惣菜があげられるようになった。その
人物は、中華料理屋でバイトをしている10歳程も年下の男の子。彼も仕事帰りにポチに食事を
与えて世話をしていたのだ。彼と私はその日から、共同でポチの飼い主になることを取り決める
のだが――。

野良犬を挟んだOLと学生の関係と会話が面白かった。犬にニンニクあげるのってダメなんですね。
犬飼ったことないから知らなかったです^^;確かに、中華みたいな油っこいものをあげたら
犬の健康上良くなさそうだな~^^;ポチがあっさり死んじゃったのが悲しかったです。でも、
その後の二人が未来を感じさせる終わり方だったのが良かった。この年齢差じゃ、すぐにダメに
なっちゃいそうな気がしなくもないですけどね・・・^^;;

『デートまでの道のり』
保育所で保育士をしている私の目下の悩みは、クラスの問題児・カンちゃんとの距離をどうやって
埋めればいいのか、ということだ。カンちゃんの父親・脩平さんと付き合うようになって、余計に
カンちゃんが遠く感じるようになった。カンちゃんはなぜか私に素っ気ない気がするのだ――。

カンちゃんの主人公に対する素っ気ない態度は、きっと照れからだったのでしょうね。小さな
保育園児でも、自分の好きな人のことならわかっちゃうんでしょう。小さなカンちゃんの必死な
思いが伝わって来て、微笑ましくなりました。三人で幸せなデートが出来るといいな。




どのお話もさくさくっと読めてしまうのですが、味わい深くて、読んだ後ちょっぴり幸せな気持ち
になれました。瀬尾さんらしい、優しさが詰まった短篇集でした。オススメです。