ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

伊岡瞬「冷たい檻」/碧野圭「菜の花食堂のささやかな事件簿 金柑はひそやかに香る」

こんばんは。またしても週末に台風ですね。今回関東の方にはあまり影響なさそうでは
ありますが。今年はほんとに台風が多いですね。しかも、ひとつひとつがやたらに
でかい。北海道はまだ余震がやまないし、日本は大丈夫なんですかね・・・。


今回も二冊ご紹介~。現在図書館には予約本が8冊たまっております・・・どうすんだ^^;


伊岡瞬「冷たい檻」(中央公論新社
伊岡さんの最新長編。最近、新刊が出るとつい手が伸びてしまう。リーダビリティが
あるのでぐいぐい読めるところがいいですね。ただ、本書は思ったよりも時間がかかって
しまった。後半は一気にいけましたけど。前半はなかなか物語が動かなくて、ちょっと
中だるみした印象がありました。いくつかの事件が重なって、登場人物も多いので、
なかなか頭の中で整理しきれなくって。でも、最後まで読むとちゃんと繋がっている
ことがわかりました。
介護施設の老人転落死と駐在所の警官失踪事件がああいう風に繋がって行くとは。
地方の村に出来た複合医療福祉施設(老人ホーム、児童養護施設、軽微な犯罪を行った
青少年対象の更生施設)『岩森の丘』を巡る様々な事件や事故の背景には、製薬会社や
政治家たちの私利私欲が関わっており、真相を知れば知る程、やりきれない気持ちに
なりました。
ただ、アル=ゴル神の正体に、一番やりきれない気持ちになったかな・・・。マモル
殺害や警官襲撃事件の犯人って意味だけど。こういう真相は、個人的には一番好きじゃ
ないんだよね・・・。まぁ、この犯人もある意味、『岩森の丘』に隠された黒い思惑
の犠牲者な訳で。知らずにこんな動物実験みたいなことをされているとしたらと思うと、
ぞっとします。でも、現実に有り得そうなのが、余計に怖かった。お金や利権が絡むと、
人間何をしでかすかわからないですからね・・・。
駐在失踪事件を調べに派遣された元警察官の樋口のキャラが良かったですね。最初は
いまひとつ性格が掴めずにいたのですが、失踪した駐在の代わりに派遣された島崎巡査
とのやり取りの中で、だんだんとその人となりがわかり、好感が持てるようになりました。
特に、島崎巡査の妻や娘に対する優しい気遣いにぐっときました。自分自身が理不尽に息子を
失い、妻とも離婚しているからこそ、家族の大切さが身にしみてわかるのでしょうね。
終盤、樋口が島崎を入院先から連れ出すシーンが好きでした。二人ともかっこよかったです。
樋口の連れ去られた子供に関しては、途中からかなりあからさまにある人物と重なる
描写が出て来ていたので、ああ、やっぱり、って感じでした。多少ご都合主義的に感じ
なくもなかったけど、よく考えると、誘拐事件から17年も経っているんですよね。
その間、樋口はずっと息子のことを生きていると信じて捜し続けていた訳で。17年も
捜していたのだから、見つかるべくして見つかったとも云えるのかもしれません。
これから、二人がどんな会話を交わして、どんな関係になっていくのか、すごく気に
なります。確執もあるだろうけど、樋口がどれだけの思いを抱えて生きてきたのか、
きちんと話せばわかってもらえると信じたい。気が滅入るような事件でしたが、最後は
希望の持てる終わり方で良かったです。島崎巡査の新しい生活も、幸せがたくさん
待っているといいな、と思う。この村にいるよりは、穏やかな生活が出来るのでは
ないかな。
いくつか気になる点がないわけでもないけど、まぁ、いいか。『岩森の丘』みたいな
施設は、今後現実に出来てもいいのかもしれない。変な製薬会社や政治家が関わって
いないクリーンな施設ならばね。


碧野圭「菜の花食堂のささやかな事件簿 金柑はひそやかに香る」(だいわ文庫)
料理教室の講師の先生がちょっとした日常の謎を解き明かすシリーズ第三弾。
今回も、ささいだけど、当人にとっては深刻な謎を、靖子先生が鮮やかに解き明かす
ところが痛快でした。一話目の香奈さんの謎は、結婚が決まっている彼氏が、
香奈さんがお弁当を作ることを嫌がるのはなぜかというもの。彼氏の母親が作って
いた一週間の食事メニューを見ただけで、彼氏の嗜好を言い当ててしまうところはさすが。
○○○(カタカナ三文字)が嫌いな男の人もいるんですねぇ。○○○(漢字三文字)
が苦手な人は結構いそうですけどね。
二話目は、マルシェに出店した菜の花食堂に母親とやってきた女の子が、ピクルス液を
何度も欲しがったのはなぜかという謎。ピクルス液なんか使ったら、臭いとかで
余計に母親を怒らせそうなような(苦笑)。ちなみに、私、○がついた服を洗う時は、
お湯よりも水の方がいいって聞いたことがあるんですが。どっちが正しいのかな。
三話目は、菜の花食堂に野菜を卸してくれる保田さんの自宅の野菜の無人販売所で、
なぜか売上のお金が増えている謎。増えてるならいいじゃんって思うけど、なんとなく
気味が悪いっていうのもわかりますね。結局善意の行為だったから良かったですけどね。
四話目は、優希のアパートの隣人からツンとする異臭がするのはなぜなのか、という謎。
これは、だいたい思った通りの真相だったんですが、正体がアレだとは思わなかった。
もっと違うものを想像してました。確かに、昔あのアニメでブームになりましたもんねぇ・・・。
最終話は、靖子先生が営む菜の花食堂の名前にまつわる謎。食堂の名前につけている
くらいなのに、なぜか靖子先生は菜の花が好きではないという。なぜなのか。
今回も、最後に靖子先生自身の意外な過去が明らかになります。前作では娘が出て来た
けど、今回は息子さんが出て来ます(名前だけだけど)。普段の靖子先生はほんわか
穏やかな人柄で、家族と確執があるなんて全く伺えないので、こんな過去があった
なんて、びっくりしました。娘さんの時も意外だったんだけどね。優希と出会った時、
あれだけ優しくしてくれたのは、自分の子供たちが優希と重なって見えたからなの
かもしれないですね・・・。
ラストのプレゼント、靖子先生がどれだけ喜んだかと思うと、その場面まで書いて
ほしかった気もするけれど、そこは敢えて読者の想像に委ねる形にしたんでしょうね。
立派に独り立ちした息子さんと靖子先生が再会出来る日も近そうで、嬉しくなりました。
出て来るお料理は、今回も美味しそうでした。江戸野菜ってあんまり意識して食べた
ことないけど(売ってるのもあんまり見たことない)、のらぼう菜って初めて知りました。
名前は聞いたことある気もするけど・・・。あと、小松菜が東京の野菜っていうのも
初めて知ったなー。いろいろと勉強になります。靖子先生のピクルス、私も食べて
みたいー。
優希は、三話で知り合った川島さんと今後いい感じになっていくのかな?単なる雇い主って
だけじゃない関係になって行きそう。川島さん、良い人そうだしね。優希のお料理の
腕も随分上がっていて驚きました。三時間で12品はすごい。最近流行りの伝説の
家政婦シマさんみたいだー。私は手際があんまり良くないから、手早くたくさん
作れる人は尊敬しちゃいます。私なら三時間あってもせいぜい5~6品止まりかも^^;
まぁ、何を作るかにもよりますけどね。
優希は会社を辞めて菜の花食堂メインに仕事が出来るようになったし、ピクルスや
ジャムの販売も開始されたし、夜の営業も開始されたし、これで食堂の経営も安定して
行きそうですね。
まだまだ続きが読みたいシリーズです。