ミステリ読書録

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ジャン=クリストフ・グランジェ/「クリムゾン・リバー」/創元推理文庫刊

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ジャン=クリストフ・グランジェ「クリムゾン・リバー」(平岡敦訳)。

小さな大学町周辺で、猟奇殺人が多発する。同じ頃、別の町では死んだ少年の墓荒らし事件が
起こっていた。フランス司法警察のベテラン刑事ニエマンスと、田舎町の若手刑事ライムスが
出会い、2つの異なる不可解な事件を繋ぐ意外な事実を知ることになる。同名映画の原作(あらすじ
抜粋)。


なんとかかんとか、今月中に読み終わりました。四月の翻訳小説。何年も前にフランスの
有名俳優、ジャン・レノ主演で映画化された作品の原作本です。映画化された当時に購入して
いたものの、長いこと本棚の肥やしになっておりましたものを、今回引っ張り出してきました。
なぜ当時本書を買ったかと言いますと、ジャン・レノのファンなので当時映画を観に行って、
なかなか面白かったのと、訳が平岡敦さんだったから。実を言いますと、この平岡さん、私の
大学一年の時の語学の先生でして。その頃から翻訳のお仕事をしていることは知っていたのですが、
卒業後に有名な作品をばんばん翻訳するようになりまして、今では仏語翻訳界では割と有名な方に
なっていらっしゃるご様子。教え子としては秘かに鼻高々になったりしているのです(向こうは
全く覚えていないとは思いますが^^;)。
なんて言いながら、平岡先生の訳した作品を読むのは初めてだったので、どんな感じかなぁと
思いながら読み始めたのですが、これがとても読みやすい訳で、翻訳の文章とは思えない位
すらすら読めちゃいました。原作が良いせいなのか、平岡先生の訳が上手いのか、両方なのか、
あまり翻訳ものを読まない私には判断がつきかねるところがあるのですが、何にせよ、全く
とっつきにくさを感じることなく、読み進められたのは良かったです。ありがとう、平岡先生。

とと、前置きが長くなってしまった。でもって肝心の中身なのですが、映画を観たのは相当前で
ほとんど内容を覚えていないのですが、なんとなくうろ覚えの状態でも、映画と原作が大幅に
違っているということはわかりました。そもそも、映画でジャン・レノと行動を共にする、
ヴァンサン・カッセル演じる若い刑事に相当する人物が誰なのか、中盤を超えてもわからない。
最初、主人公のニエマンスの部下のジョワスノーかな、と思ったのですが、どうも映画の時と
行動や性格が被らない。で、読み進めて行くうちに、ニエマンスとは全く違う事件を追う刑事
として出て来るアラブ系のカリム・アブドゥフが出て来て、もしかしてこっちかな、と思い
ながらも、やっぱり性格や名前が映画の時と一致しない。一体どうなってるんだろう、と疑問を
覚えていたら、どうやら映画ではカリムの人物設定をまるまる変えてしまっていたようなのです。
役名さえ違っていたみたいで、そりゃわかんないわけだ、と思ったのでした。人物設定といえば、
ニエマンスの方もかなり変わってました。原作だと、優秀だけどキレると何をするかわからない
問題アリの暴力警視正。しかも、事件に関わる関係者の美女にすぐ欲情するし。映画だともう
少しクールで渋い印象だった気がしたので、なんかキャラ違うなぁと思いながら読んでました^^;
でも、外見の雰囲気はジャン・レノにぴったりって感じでしたけどね。

ストーリーも映画とはかなり違うようで、物語の骨子が同じくらいで、あとは全く別物として
考えた方が良いようです。タイトルの意味だけはばっちり覚えていたので、終盤の真相が
わかるくだりはだいたい予想がついてしまったのですが^^;でも、全く別の場所で起きた
二つの事件が次第に繋がって、複雑に絡みあって行く過程は緊迫感があって、読み応えが
ありました。真犯人は多分読んでるほとんどの人が当てられちゃうだろうし、真犯人が○○だった
というのもちょっとガッカリの真相ではあるのですが、その先にもう一ひねりあったので、
ミステリとしてはなかなか巧く考えられているのではないでしょうか。欲をいえば、タイプの
違う二人の優秀な刑事が協力し合い、友情を結んで行く過程がもう少し掘り下げられて書かれて
いたら良かったかな。二人の出会いが遅くて、二人で行動するシーンがあまりなかったので、
せっかく気の合う相棒って感じのいい関係になれそうだったのに、そういうところまで書かれず
終わってしまった感じだったので。
でも、一番ガッカリしたのは映画とは大幅に違うラスト。ある人物の末路にショックを受けました。
まさかこういう結末だったとは・・・。映画はかなりゆるいラストになっていたのだなぁ。
映画の方は2があったと思うのですが、あれは原作があった訳ではなく、映画オリジナルの
ストーリーだったってことなんでしょうか。本書のラストを受けて続編が書かれることはまず
なさそうなんですが。
ラストのカリムの犯人に対する感情もかなり唐突な印象でした。えっ、そうだったの?と目が点に^^;
その辺りの感情の機微はもう少し作中で触れて欲しかったなぁ。

やっぱり、どうしても映画と比べてしまうところはあったのですが、映画では全く出てこない
エピソードもたくさんあって、映画よりもやっぱり物語に深みがありました。思った以上に
とても面白く読めました。何より、カタカナ名なのに、人物関係にほとんど混乱がなかった。
個性的な名前が多かったからかな。同じ人物で本名と呼び名が違うとかもなかったし(苦笑)。
ちょっと忙しくてまとまって読む時間が取れなかったので日数はかかってしまいましたが、
もっと一気に読みたかったかも。

ちなみに、原題は「LES RIVIERES POURPRES」。直訳すると「赤い(緋色の)川」。真相が
わかると、このタイトルの意味も腑に落ちるのですが。犯人の殺人の動機のきっかけとなった
被害者たちの恐るべき犯行には怖気が走りました。なんとも、許しがたい唾棄すべき犯罪行為です。
だからといって、犯人の犯罪の残虐さにも嫌悪しか覚えませんでしたが。そこまで猟奇的に
する必要があるのか、という点で多少疑問には感じましたけれど。それだけ、復讐の思いが
強かったと思うべきかもしれませんが。

何にせよ、なんとか4月も記事UP出来て良かったです・・・。なかなか図書館本との兼ね合いで、
翻訳本を読むタイミングが難しい。来月の一冊も今から計画しておかないとなぁ・・・。