ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

石持浅海/「アイルランドの薔薇」/光文社 カッパノベルス刊

本格ミステリ驚異の成長株、石持浅海さんのデビュー作「アイルランドの薔薇」。

アイルランド武装勢力、NCFの副議長が、スライゴーの宿屋「レイクサイド・ハウス」で何者かに殺された。詩人イェイツが薔薇に例えたアイルランドの自由。その悲願のアイルランド和平実現を目前に控えた最も大事な時期だけに、事を公に出来ない。外部犯の可能性が否定され、宿屋にいる宿泊客たちはNCFに拘束された。たまたま宿屋に居合わせた日本人科学者・フジは、事を内密に処理したいNCFのメンバーと事件を調べ始める。誰が何の為に?フジが事件の謎に迫る。

舞台が外国、しかも政治がらみというので、結構お堅い内容なのかと身構えたのですが、正統派の本格ミステリでとても面白かったです。いわゆるクローズドサークルもので、展開も2転3転して緊迫感のある構成。デビュー作としては、非常にいい出来だと思います。トリックや犯人はそこまで仰天というものではないにしても、なかなか上手く出来ていましたし。不思議な存在感を感じさせるフジのキャラクターもいい。謎の日本人という設定は、笠井潔さんの矢吹駆シリーズを彷彿とさせましたが、フジは駆よりはよっぽど人間味がありますね。ラストシーンでもそう感じさせるエピソードがあるし。しかし、この挿話を入れたことによって、今後フジの続編が書かれることはないだろうと感じました。

一説によると、石持さんはシリーズキャラクターを作らない主義だとか。本当かどうかはともかく、今の所続編ものを書かれた形跡はないですよね。
フジはシリーズキャラクターになりそうな雰囲気を持っているだけに残念。
でも、その後も質の高い作品を出し続けておられるので、キャラクターよりもトリックやロジック重視で勝負という気構えを感じて、それはそれでいいのかな、とも思いますが。

今後も正統派本格ミステリの王道を行くような作品をどんどん書いて行って欲しいものです。
あまり量産型にはなって欲しくないのですけれどね。