ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

町田そのこ「夜明けのはざま」(ポプラ社)

町田さん最新作。地方の家族葬専門の葬儀社『芥子実庵』を舞台にした連作短編集。

町田さんって、こういう生と死を扱ったテーマを描くのがお好きですよね。今まで

読んだ限り、ほとんどの登場人物が『大切な人を失った』人ばかりという気がする。

今回もその例に漏れず。何せ、舞台が葬儀会社ですから。みんな、大事な人を

失っている。その死によって、残された人がどう考え、今後どう行きて行くのか、

をテーマにしている分、内容は重め。誰しもが死というものに向き合わなければ

いけない瞬間があるのは間違いない訳で、いろんなことを読者に感じさせる作品

だと思います。昨日まで元気だった人が、いなくなってしまう喪失感や、やりきれ

なさに伴う後悔。大事な人を失った時、それをどう乗り越えて行くのか。親友を

失った葬祭ディレクター、元夫の恋人の葬儀の花祭壇を作ることになった花屋、

かつていじめられた同級生の親の葬儀を担当することになった新入社員、元恋人

の突然の死を知らされたが、束縛の強い夫から葬儀の出席を止められた主婦。

そして、ラスト一作は一話目の主人公が再び登場します。どのお話も、出て来る

脇役キャラに必ず悪意のある人物がいるので、毎回めちゃくちゃムカムカさせられ

ながら読んでました。世の中、こんなに嫌な人間だらけなの?と若干人間不信に

なりそうでした・・・。ただ、一話目と最終話の主人公・真奈の家族(母親と姉)

に関しては、一話目と最終話では大分印象が変わりましたけどね(一話目では、

単なる毒親・毒姉だとしか思えなかった^^;)。今彼があれほど真奈の仕事を

嫌がっていた理由も最終話ではわかりましたし。その人の事情を知ることで、

多少見る目が変わる場合もありました。ただ、大部分は最初の嫌な印象の

ままでしたけどね(真奈の友達・楓子の夫とか義母なんかは最後まで最悪の印象の

ままだった)。真奈の仕事に対する真摯な姿勢は、とても尊敬できるものでした。

それを理解できない彼氏の言動は許しがたいものだったので、二人が最後に

ああいう結論を出したのは、当然の帰結だったのかなと思いましたね。彼氏の

お姉さんがまともま考えの人だったので、もしかしたら弟を説得して、上手く行く

道もあるかもな、と途中では思ったのだけど・・・。

真奈の周囲の人間の、葬儀社で働くということに対する理解のなさに、何度もげんなり

させられました。こういう仕事に就いてくれる人たちがいるから、自分の身内が

亡くなった時にちゃんと見送ってあげられるというのに。なぜ、あんなに見下した

態度が取れるのか、まったく理解不能でした。とても神聖で、大事な職業だと思うの

ですが。昔、友人の親族が亡くなられた時、手伝いを頼まれたことがあり、受付

を担当したことがあります。その時、葬儀会社の従業員の方々の働きを間近で見て、

尊敬の念を抱くことはあっても、見下そうなんて気持ちには全くなれなかった。

みなさん、故人に敬意を払って、神聖な気持ちで参列者が見送れるよう、手を

尽くしておられるのがわかりましたから。

この作品には、価値観の違いがたくさん出て来ます。なぜ自分の考えが理解して

もらえないのか、自分の仕事を理解してもらえないのか。根本的な考え方が

違うと、どれだけ相手に説明しても、わかり合えないんだな、というのがよく

わかって、忸怩たる思いがしました。まぁ、そういう人間とは、考え方が違うと

諦めて、付き合わないのが一番なんでしょうけど・・・それが、親族だったり

配偶者だったりする場合があるから、悲劇なんですよねー・・・。どうしたって、

簡単に切り捨てられるものではないですからね。楓子のケースが一番気の毒だった

かな。親友が亡くなったのに、夫や義母から故人を非難するような罵詈雑言が

飛び出して。ほんと、人間の心があるのか、と言ってやりたくなりましたね。

でも、最後に楓子が下した決断に快哉を叫びたくなりました。よし、よく決意した!

って感じ。目標までの障害は多そうですけど・・・。

二話目の主人公・千和子のケースもイラッとさせられましたけどね。自分と娘を

捨てて逃げたくせに、今さら千和子を頼る元夫にも、何の相談もなしに大学を

辞めて家を出て彼氏を支えると言い放って、やりたい放題の娘にも。母親がどれだけ

苦労して一人娘を育てて来たのか、全くわかってなくて。でも、終盤で、娘が元夫に

対して千和子の為に啖呵を切ったシーンはスカッとしました。なんだ、ほんとは

いい娘なんじゃん、とほっとしましたね。

共感を覚えるところもなくはないけど、それよりも反発を覚えるシーンが多くて、

感情の振り幅がすごかったな。町田さんの作品は、いつもこんな感じ。作品への

没入感があるって意味では、すごい作家だなぁと思いますけどね。

ただ、さすがに毎回このテーマだと、若干食傷気味になって来た感じはあるかなぁ。

『死』を扱うと、それだけで重みのある作品になるのはわかるのだけど・・・

毎回、誰かが死ぬ作品じゃなくてもいいのに、って気持ちにはなるかな。

読み応えのある、良い作品なのは間違いないのだけどね。

次は、もう少し明るめのテーマのものも読んでみたいかな。

 

櫻田智也「蟬かえる」(創元推理文庫)

昆虫マニアの魞沢泉が活躍する連作ミステリー第二弾。前作がなかなか良かったのと、

二作目は前作以上に良作との情報を得ていたので、読むのを楽しみにしていました。

文庫化されたばかりで予約がいなかったので、すぐ回って来てよかったです。

いやー、これは良かったですね。ほんと、前作以上の良作揃いだと思いました。

ミステリ的な質も向上しているのですが、それ以上に、あとがきの法月(綸太郎)

さんもおっしゃっているように、昆虫マニアで探偵役の魞沢のキャラが立っていて、

物語に深みが増したように思います。前作では昆虫好きの変人で、飄々とした

無機質なタイプって印象でしたが、本書に出て来る魞沢は、その飄々としたキャラ

は見た目だけのことで、実はとても情に脆く、他人に優しい性格であることが

伝わってきました。そうした魞沢というキャラクターへの肉付けによって、

ひとつひとつの事件の抒情性がはるかに上がり、余韻の残る作品になっている

ように感じました。

昆虫蘊蓄もうるさいほどではないですし、作品に必要不可欠な要素であるため、昆虫

嫌いの私でもさほど抵抗なく読めましたしね。ミステリ要素に上手く昆虫の性質を当て

はめていて、無理がない。まぁ、映像だったらどうかわからないですけど・・・^^;

作者のレベルが一段階上がった感じがしましたね。本書を読んで、魞沢という

キャラクターがより好きになりました。

 

では、各作品の感想を。

※一部ネタバレ気味感想あります。未読の方はご注意を。

 

『蟬かえる』

蟬を食べるって、クワコ―シリーズ(by奥泉光さん)でクワコ―もやってたなぁ

と思い出しました。香ばしくて美味しいとか言ってたような・・・(おえ)。

16年前に失踪した少女が再び出現した真相は、盲点をついた、とても上手いトリック

だと思いましたね。昆虫食の専門家の鶴宮さんはキャラが立っていて好感持てた

だけに、彼女の正体には驚かされました。昆虫つながりで、またで登場することが

あるといいのだけれど・・・。

 

『コマチグモ』

コマチグモの生態にはゾッとしました。自らを食料として差し出すことで、我が子

を育てる・・・究極の子育てですね・・・。ネグレクトする人間たちにも見習って

欲しいと思ってしまいます。自分が与えた情報が犯罪の引き金になってしまったかも

しれないと悔やむ魞沢の後悔が伝わって来て、やりきれない気持ちになりました。

 

『彼方の甲虫』

ペンションオーナーの丸江ちゃんは、前作でも登場したようですが、読んだの

そんなに前じゃないのにもう忘れてた(こら)。明るい丸江ちゃんと魞沢は

いいコンビですね。魞沢のことを『友人』だと言ってくれたアサル。そのことが、

事件を通して、魞沢の心に深い影を落とすことになったことが悲しかった(その後

の話に言及があるので)。友達のいない魞沢にとって、その言葉は何よりも

嬉しかったんだろうな、と思えて。犯人の身勝手な動機には腹が立って仕方

なかったです。

 

『ホタル計画』

作者のミスリードに引っかかることなく、バッタ君の正体には早い段階で気づいて

しまいました。まぁ、ほとんどの人が気づくと思いますが。時代設定とかの

ヒントもちょいちょい出て来てましたしね。遺伝子組み換えで発光する魚、少し前に

中国かどっかの記事で実際読んだことがあったので、すごくリアルだなぁと思い

ました。世界では倫理に反するこういう研究がいたるところで行われているの

だろうなぁ・・・。魞沢という人間がどのように形成されてきたのか、その片鱗が

少し伺える作品でした。オダマンナ斉藤さんとの関係が良かったです。いまでも

交流はあるのかなぁ。

 

サブサハラの蠅』

こんなものが簡単に検疫を通って日本国内に持ち込まれてしまうなんて・・・

いくら、法に引っかからないからといって。現実にこんなことがまかり通った

としたらと考えるとぞっとします。まぁ、コロナだって海外から持ち込まれた

ものな訳だし、鎖国でもしない限り、常にこういう危険は排除できないとわかって

はいるのですけども。魞沢が計画を止めてくれてよかったです。アサルについて

話す魞沢が切なかった。たった一日の友達。それでも、魞沢にとってはかげがえ

のない人だったんだろうなと思えました。でも、その後悔があるから、今回は

大事な人を失わないで済んだ。魞沢がこれ以上傷つかないで良かったです。

 

 

秋川滝美「深夜カフェ・ポラリス」(アルファポリス)

秋川さん新作(去年の11月発売みたいだから、もう新刊じゃない?^^;)。

大病院の近くに店を構える、深夜営業のカフェ『ポラリス』には、様々な事情を

抱えた客がやってくる。そうした悩みを抱える客たちに、明るく察しの良い店主は、

その人に合わせた料理をそっと差し出す――。

深夜だけ営業するカフェにやってくる客と、その客の見た目や雰囲気からズバリと

その人が抱える悩みや状況を言い当ててしまう店主とのやり取りを綴ったハートフル

小説・・・なのだけど、うーん。店主のテンションの高さが、ちょっと正直

深夜向きじゃないなぁと思ってしまった。タメ語が悪いとは言わないけど、いきなり

初対面の客に対してこのテンションで来られてしまうと、私だったら引いてしまう

かも・・・。客に出す料理にしても、状況から察せられるとしても、一応まずは

どんなものが食べたいか聞いて欲しい・・・というか、とりあえずメニューくらい

見せて欲しい、って思ってしまった。悪い人じゃないというか、良い人なのは

わかってるんですけどね。なんか、いろいろ決めつけてる感じがコミュ障寄りの

私のような人間にはちょっと苦手に感じてしまいました。深夜のカフェに行く人

なんて、静かに過ごしたい人が行くような気もするしね。まぁ、本書に出て来る

お客さんたちは、彼女の明るさや察しの良さに救われて、新たな道が拓けたり

しているのだから、そういうのが良いという人もたくさんいるとは思いますけどね。

出て来る彼女のお料理は美味しそうでしたしね。

しかし、座席が4席くらいしかなくて、深夜しかやってなくて、良くこれで営業

して行けるなぁ。満席になることもほとんどないみたいだし・・・。道楽でやってる

としか思えない^^;とても採算取れるとは思えないのですが、どうやってやりくり

しているんだろう、と不思議になりました。深夜だけやってること自体には、彼女

なりのポリシーがあるようですが。近くが病院だし、親友がその病院に勤めている

ことも理由のひとつでしょうし。夜勤業務に従事している人には、こういう、夜中に

やっている飲食店って貴重でしょうね。私自身は、深夜に物が食べたくなること

自体がまずないので(あったとしても我慢するし)、絶対に行く機会はなさそう

ですけどね・・・(しーん)。

ラストの、店主と病院に勤めている親友との関係は素敵でしたね。こういう形で

友達関係が続いているっていいなぁと思いました。医療関係に従事する人の

大変さは、コロナ禍で痛感させられましたからね。こんな、心を癒せる深夜カフェ

があったら、心強いだろうな、と思いました。

秋川さんの作品の登場人物って、ちょいちょい引っかかる性格の人が出て来る

ことが多い気がするなぁ。基本的にはみんな良い人なんだけど、どこかで言動に

違和感を覚えるところがあるというか。心温まる作品なのは間違いないのだけど、

そういう違和感が心に残って、素直に称賛する気になれなかったりして。私が

ひねくれているのだろうか・・・。読みやすいからついつい読んでしまうのだけどね。

本書も、設定は面白かったのだけど、店主のキャラ設定は好き嫌い分かれるかも

しれないなぁと思いました。

 

 

 

 

友井羊「100年のレシピ」(双葉社)

友井さん最新刊。料理が下手なことが理由で彼氏に振られた理央は、料理上手に

なれれば彼の気持ちが戻って来るかもしれないと考え、有名な料理研究家

大河弘子が創設した料理学校に通うことに。そこで理央は、大河弘子の曾孫である

翔吾と出会う。高校を卒業してプラプラしていた翔吾は、大河料理学校の

現校長である父親から、学校の雑務係として放り込まれたものの、なかなかやる気

になれず、度々サボったりしているらしい。年が近い理央は、食べ物の好みが合う

翔吾と次第に仲良くなって行った。そんなある日、自宅で、少しづつ楽しみに

食べていたお菓子が消えた。それだけではなく、キッチンから砂糖やはちみつや

ジャムなど、甘いものがすべてなくなっていた。理由がわからないまま翌日に

なったが、なぜか次の日にはすべてのものが元に戻っていた。また別の日、理央は

ケーキ屋さんでショートケーキとガトーショコラを買って食べたところ、味覚が

おかしい。大好きな甘いものが美味しく感じないことにショックを受けた理央は、

自分がコロナに感染したのではないかと焦る。そうした出来事を翔吾に電話で

話すと、彼はある人物を紹介するという。その人は、身の回りで起きる不思議な

出来事を解決に導く能力があるというのだが――。

大河弘子という偉大な料理研究家を巡る、壮大なミステリー短編集。一作ごとに

時が遡り、大河さんが解決した様々な事件を振り返りながら、彼女の人生や彼女

の人となりが彼女の料理と共に丁寧に描かれます。最後の一作以外は、彼女以外

の人物からの視点で描かれ、最終話のみ、彼女自身の視点から秘密にしていた

彼女の過去が語られます。なぜ、昔のことを誰にも打ち明けたがらなかったのか。

その理由を知り、胸が苦しくなりました。親友を捜し出し、救う為に行動した弘子

さんの行動力と勇気に胸を打たれました。親友が姿を消した理由がわかり、やり

きれない気持ちにもなりました。あれだけ想い合っていた親友同士が再び出会う

ことができなかった運命の皮肉にも。

それでも、最悪の結末ではなかったことにほっとしましたし、時を超えた二人の

繋がりに胸が熱くなりました。理央の存在が、すべてを繋げてくれていたのです

ね・・・。

さすがに人間関係繋がりすぎでは?とツッコミたくはなったものの、幼い頃から

大河弘子の料理本で学んだ料理を食べて来たことが、理央が大河料理学校に

通うきっかけになったのだし、一応必然性はあるのかな、と思えました。

理央と翔吾もいい雰囲気になりそうだし、今後も、二人は大河料理学校を通して

繋がって行けそうですね。

弘子さんの作るお料理も美味しそうでした。千切りジャガイモで作るジャガイモ

サラダはお目にかかったことがないけど、ちょっと食べてみたいと思いました。

千切りジャガイモで炒め物とかはしたことあるんだけど、サラダにする発想は

なかったな~。

しかし、冒頭で理央は料理が下手で彼氏に振られる訳ですけれど、そんな理由で

気持ちが覚めるような人間、私だったらその時点でこっちが冷めると思うんだけど。

彼の気持ちを取り戻す為に料理学校に通うまでしちゃう理央のことは、正直理解

不能でした・・・。まぁ、翔吾と出会って、元彼のことなんかすっぱり忘れて

しまえたのは良かったですけれど。ただ、料理上手になった理央が元彼をぎゃふんと

言わせる展開があってもスカッとしたでしょうけどね(苦笑)。

弘子さんを巡る人間関係の部分では、いろいろ驚かされる仕掛けがあって、ミステリ

的な面白さも十分ありました。料理にまつわるミステリ部分は、少し強引な印象の

ものもありましたけれど。牛肉の偽装問題を扱った作品などは、実際の事件も

あったので、説得力ありましたけどね。提供する側は、そういう部分では常に

誠実であってほしいと消費者の立場では思いましたね。

時代を遡る構成がとても作品に深みを与えていると思いました。弘子さんの人生が

素晴らしいものであったことは間違いないですね。余韻の残るラストシーンに

胸がいっぱいになりました。

 

 

加納朋子「1(ONE)」(東京創元社)

加納さん最新作。出る情報全く知らなかったので、図書館の新着図書コーナーで

見かけて即予約。わーい、加納さんだー、と喜んでいたところに、内容紹介で

駒子シリーズの文字が・・・!!!えぇぇっ、あの駒子シリーズ!?今になって!?

とびっくりしました。めちゃくちゃ大好きなシリーズだったので、そりゃもう、

読むのを楽しみにしていましたよ。とはいえ、読んだのは昔過ぎて、細かいことは

当然ながら全然覚えていなかったのですが・・・^^;;

んで、読み始めて、加納さんからのまえがきを読んで、『同じ世界の話ではある

けれど、ストレートな続きではない』とのこと。んん、微妙な書き方・・・と

思いつつ、読み始めると、確かに、主人公は人付き合いが苦手で、他人と上手く

向き合えない大学生の玲奈ちゃん。この子が一体どう駒子たちとつながって行く

のか、一話目の『ゼロ』を読んだ時点では(なんとなく「こうかな?」と想像

するところはあったけど)、全然わかりませんでした。レイちゃんこと玲奈ちゃん

の物語は、彼女のわんこ『ゼロ』との出会いと、彼女が遭遇したストーカー事件を、

いかにして家族総出で解決したのか、その顛末が描かれます。その時点で、駒子や

瀬尾さんの名前は一切出て来ません。ただ、レイちゃんの家族が、いかに彼女

のことを大事に思っているかは(多少・・・というか、かなり過保護気味ですがw)、

伺えて、素敵な家族だなぁと思わされましたけれどね。

玲奈ちゃんと駒子シリーズの接点が明らかになるのは、その次から始まる1(ONE)

の物語で。なるほど、こういうことだったのね~!って感じです。まぁ、最初の

予想がほぼ当たっていたのですけれどね。1(ONE)は、前編・中編・後編の

三部作。前編のラスト一行で、主人公の名前が明かされ、おおー!と思いました。

スピンオフ的に出版された、童話の『ななつのこものがたり』を読んでいれば、

この名前にピンと来る人は多いはず。私自身、この名前にはとても思い入れが

あるので、よく覚えていました。

そして、中編のラスト一行でも、シリーズファンには嬉しい文言が。この一言から

最後の後編部分は、もう純粋な駒子シリーズの続編と言っても差し支えないのでは?

とはいえ、前の作品の内容をもはや全く覚えていないので、もう一度読み返したく

なりましたけどね。実家に本があるから、今度引き取って来ようかな(『ななつのこ

と『魔法飛行』)。

レイちゃんのわんこ『ゼロ』はちょっとおバカっぽいけど愛らしいし、その前に

家族で飼っていた『1(ONE)』はスマートで賢くて、とてもかっこいい。全編

に亘って、わんこへの愛に溢れた内容になっていて、加納さんは犬がお好きなんだ

ろうな~と思いましたね。それだけに、1(ONE)の最期のシーンは辛かったな

ぁ・・・。

ミステリ色がほぼなかったのはちょっと残念でしたが、わんこ愛と家族愛に溢れた

作品で、加納さんらしい優しい物語でした。

次はもっとレイちゃんのナイト・ゼロが活躍する物語が読みたいですね。

大好きなシリーズなので、更なる続編を期待したいです。

 

 

伊坂幸太郎「777 トリプルセブン」(角川書店)

伊坂さん最新刊・・・とはもう、言えないかな^^;昨年の9月に出た作品なので。

予約に乗り遅れてしまって、結構待たされました。久しぶりの殺し屋シリーズ!

読むのを楽しみにしていました。前作では新幹線から降りられなかった不運な

殺し屋・七尾(天道虫)でしたが、今回はホテルから出られなくなってしまうお話。

相変わらずテンポが良くて、ぐいぐい引き込まれてしまいました。面白かったー。

今回、七尾に持ち込まれたのは、高級ホテルに宿泊している<客>に、娘からの

プレゼントを届ける<だけ>の超・簡単で安全な仕事・・・のはずだった。しかし、

七尾が訪れたのと時を同じくして、同ホテルの別の部屋に、見たものをすべて記憶

出来る能力を持つ、紙野結花が滞在していたことが、七尾の悲劇の始まりだった

――。

同時期に、これだけ七尾と同じ仕事の同業者がやって来る、というのは正直

非現実的過ぎないか、と思わなくもないけれども、そこがこのシリーズの面白い

ところであって、それをツッコむのは野暮というものですよね。七尾って、

嫌だ嫌だと思っていることが、その通り自分の身に降り掛かって来るタイプで、

ちょっと気の毒になってしまいます(苦笑)。ただまぁ、こういう世界で周りの

同業者たちがばんばん殺されてしまう中、しぶとく生き残っていけるのだから、

相当な強運の持ち主でもあるんだろうなぁとは思いますね。本人はひたすら運が

悪いと嘆いているようですが(苦笑)。そして、なんだかんだで、お人好し。

七尾には、紙野結花を助ける義理なんか全くないし、本人もそんなことに手を

出さずに、自分の任務を遂行してさっさと帰りたいと思っているにも関わらず、

結局最後には手を差し伸べてしまう。まぁ、状況的に、そうせずにはいられなくなっ

ちゃうってのもあるんだけども。でも、そこを割り切って見捨てることも出来る訳で。

それができないところが、七尾の七尾たる所以かな、と思って微笑ましくなっちゃう。

紙野結花がトラブルに巻き込まれた諸悪の根源・乾に関しては、最後まで悪人なのか

そうでないのか判断できず、ハラハラさせられましたね。噂通りだったら、人間を

解剖して喜ぶサイコパスな訳ですから。伊坂さんなら、平気でそういうキャラを

登場させかねないですからね(苦笑)。ただ、紙野さんの記憶にいる乾は、あまり

そんなことをしそうなタイプに見えなかったので、混乱したところはありましたね。

今回、『マリアビートル』の時の王子ほどではないにしても、やっぱりとんでもない

嫌悪感満載のキャラたちが登場しました。乾のことはまぁ、置いておいて、

明らかに七尾たちの敵である、六人組に関しては、もう、どのキャラクターも

おぞましい人物造形でしたね。ただ、六人もいるし、つけられた名前(コード

ネーム?)がそれぞれに日本の時代の名前なので、誰が誰だか全然理解出来な

かったです^^;しかも、この時代の名前も、カタカナ表記だったので、最初全然

気づいてなかったんですよ(アホ)。勝手に、違う漢字をイメージしちゃってたり

して(センゴク→千石とか、アスカ→明日香とか。ヘイアンに関しては、外人の

名前をイメージしてたり。名前っていう先入観のせいでしょうね^^;これが

最初から漢字表記だったら、さすがに一発でわかったと思いますけどね)。

こいつらの倫理観、一体どうなってるんだ、と出て来る度に悍ましい気持ちに

なりました。伊坂さんって、ほんと、生理的嫌悪を覚えさせるキャラ作るの

上手いよなぁ・・・本人、あんなに虫も殺せないようなタイプの怖がりさんなのに

ねw)。

でも、一番のサイコパスはやっぱり、あの政治家でしょうね。見た目と中身の

ギャップは、王子と張るかもね・・・。

マクラとモウフの二人に関しても、途中までどういう立ち位置のキャラなのか

わからなかったですが、最終的にはこの二人の活躍で救われたところが大きかった

ですね。いいコンビですよね。物騒な職業なのは間違いないんですけどね^^;

そして、やっぱり言及しておくべきなのはココさんのことでしょうね。紙野結花を

助ける為にあれだけ尽くしてくれたのに・・・あの展開はショックでした。でも、

終盤で意外な事実が判明して、驚かされました。伊坂さんも人が悪いなぁ、もう。

命がけの攻防戦で、終始緊迫した空気感ではあるのですが、それぞれのキャラクター

のおかげでか、コミカルに読める部分もあって、スピード感溢れる筆致もあって、

ぐいぐい引き付けられました。伏線回収の妙もさすがでしたね。

最後は、777がばっちり決まったって感じの爽快感で読み終えられました。

不運でしかない理不尽な人生を送って来た結花ちゃんが、あの人物と幸せになった

なら良かったよ。

七尾は、お疲れさま(笑)。

 

 

 

 

東野圭吾「あなたが誰かを殺した」(講談社)

東野さん新刊・・・というには、大分出てから経っちゃいましたけど^^;東野

作品は、当日予約でも待たされるのに、今回は大分経ってからの予約になって

しまったからなぁ。回って来るまで結構かかりましたね~。

『~殺した』シリーズ(勝手に命名)久しぶりだなぁと思っていたら、加賀シリーズ

でもあり、嬉しい誤算でした。加賀シリーズって、タイトルに一貫性が全く

ないから、読むまで大抵シリーズものって気づかないで読み始めるんだよね^^;

今回は、休暇中の加賀さんが事件に巻き込まれるパターン。一ヶ月も休みが取れる

とは、一体今までどれだけ休んでなかったんだ、とツッコミたくなりましたけど

(苦笑)。それでも、やっぱり事件に遭ってしまって、探偵役を担わされるあたり、

もう宿命としか思えませんが^^;『加賀さんに嘘は通用しない』というのが

痛感出来る作品でしたね。相変わらず、些細な違和感を見逃さない慧眼っぷりは

素晴らしい。

今回は、閑静な別荘地で起きた、戦慄の連続殺人事件の犯人を加賀さんが推理

して行くお話。事件が起きた直後に犯人は捕まっているが、関係者の中に共犯者が

いると見做され、その人物を検証で炙り出して行く、という流れ。

今回加賀さんは刑事というよりは探偵って感じでしたね。最初は傍観者でしか

なかったのに、あれよあれよという間に探偵役に祀り上げられ、その通り探偵役を

全うしてしまうという。相変わらずクレバーな人だなぁ。

登場人物が結構多いので、なかなか整理しきれなかった感じ。ファミリー単位で

事件に遭うから、どの人がどのファミリーだっけ、みたいな状態になってしまった。

こういう作品こそ、映像が向いてるのかもしれないですけどね。それぞれの

キャラ造形が、ちょっと古くさい印象は否めなかったなぁ。時代設定はいつ頃

なんだろう。途中、感染症がどうとかいう描写があるから、それがコロナのこと

だったら現在の話なんだろうけど・・・。加賀さんの役職が警部だから、やっぱり

そんなに昔じゃないとは思うけど。

犯人は、意外といえば、意外だった。けど、個人的に、こういう人物が犯人って

あんまり好きな真相じゃないんですよね~・・・。ただ、動機に関しては、

こういう背景があるなら、殺意が芽生えても不思議はないかな、と思いました。

巷では、もっとどうでもいい理由で人を殺す犯罪者が後を絶たないですからね。

被害者はみんな、殺されても仕方ないかなぁと思える人ばかりだったので、

どの人物にしてもあまり同情は出来なかったですね。

そして、最後の最後にも思わぬ黒いオチが待っていました。加賀さんは、きっと

それもすべてお見通しだったのでしょうね・・・。だって、加賀さんに嘘は

通用しないのですから。

『~殺した』シリーズにしては、きっちり謎が解決されていて、もやもやも

なかったですね(今までのやつは、真相が全然わからないまま終わったり

してましたもんね。真相が袋とじになってる作品とかもありましたしね)。

見取り図なんかも出て来て、ど直球の本格ミステリーよりの加賀シリーズ

でしたね。最近は人間ドラマよりの作品が多かったと思うのですが、個人的

にはこっちよりの方がミステリの醍醐味が味わえて好きですね。

面白かったです。