ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

友井羊「100年のレシピ」(双葉社)

友井さん最新刊。料理が下手なことが理由で彼氏に振られた理央は、料理上手に

なれれば彼の気持ちが戻って来るかもしれないと考え、有名な料理研究家

大河弘子が創設した料理学校に通うことに。そこで理央は、大河弘子の曾孫である

翔吾と出会う。高校を卒業してプラプラしていた翔吾は、大河料理学校の

現校長である父親から、学校の雑務係として放り込まれたものの、なかなかやる気

になれず、度々サボったりしているらしい。年が近い理央は、食べ物の好みが合う

翔吾と次第に仲良くなって行った。そんなある日、自宅で、少しづつ楽しみに

食べていたお菓子が消えた。それだけではなく、キッチンから砂糖やはちみつや

ジャムなど、甘いものがすべてなくなっていた。理由がわからないまま翌日に

なったが、なぜか次の日にはすべてのものが元に戻っていた。また別の日、理央は

ケーキ屋さんでショートケーキとガトーショコラを買って食べたところ、味覚が

おかしい。大好きな甘いものが美味しく感じないことにショックを受けた理央は、

自分がコロナに感染したのではないかと焦る。そうした出来事を翔吾に電話で

話すと、彼はある人物を紹介するという。その人は、身の回りで起きる不思議な

出来事を解決に導く能力があるというのだが――。

大河弘子という偉大な料理研究家を巡る、壮大なミステリー短編集。一作ごとに

時が遡り、大河さんが解決した様々な事件を振り返りながら、彼女の人生や彼女

の人となりが彼女の料理と共に丁寧に描かれます。最後の一作以外は、彼女以外

の人物からの視点で描かれ、最終話のみ、彼女自身の視点から秘密にしていた

彼女の過去が語られます。なぜ、昔のことを誰にも打ち明けたがらなかったのか。

その理由を知り、胸が苦しくなりました。親友を捜し出し、救う為に行動した弘子

さんの行動力と勇気に胸を打たれました。親友が姿を消した理由がわかり、やり

きれない気持ちにもなりました。あれだけ想い合っていた親友同士が再び出会う

ことができなかった運命の皮肉にも。

それでも、最悪の結末ではなかったことにほっとしましたし、時を超えた二人の

繋がりに胸が熱くなりました。理央の存在が、すべてを繋げてくれていたのです

ね・・・。

さすがに人間関係繋がりすぎでは?とツッコミたくはなったものの、幼い頃から

大河弘子の料理本で学んだ料理を食べて来たことが、理央が大河料理学校に

通うきっかけになったのだし、一応必然性はあるのかな、と思えました。

理央と翔吾もいい雰囲気になりそうだし、今後も、二人は大河料理学校を通して

繋がって行けそうですね。

弘子さんの作るお料理も美味しそうでした。千切りジャガイモで作るジャガイモ

サラダはお目にかかったことがないけど、ちょっと食べてみたいと思いました。

千切りジャガイモで炒め物とかはしたことあるんだけど、サラダにする発想は

なかったな~。

しかし、冒頭で理央は料理が下手で彼氏に振られる訳ですけれど、そんな理由で

気持ちが覚めるような人間、私だったらその時点でこっちが冷めると思うんだけど。

彼の気持ちを取り戻す為に料理学校に通うまでしちゃう理央のことは、正直理解

不能でした・・・。まぁ、翔吾と出会って、元彼のことなんかすっぱり忘れて

しまえたのは良かったですけれど。ただ、料理上手になった理央が元彼をぎゃふんと

言わせる展開があってもスカッとしたでしょうけどね(苦笑)。

弘子さんを巡る人間関係の部分では、いろいろ驚かされる仕掛けがあって、ミステリ

的な面白さも十分ありました。料理にまつわるミステリ部分は、少し強引な印象の

ものもありましたけれど。牛肉の偽装問題を扱った作品などは、実際の事件も

あったので、説得力ありましたけどね。提供する側は、そういう部分では常に

誠実であってほしいと消費者の立場では思いましたね。

時代を遡る構成がとても作品に深みを与えていると思いました。弘子さんの人生が

素晴らしいものであったことは間違いないですね。余韻の残るラストシーンに

胸がいっぱいになりました。