小路幸也さんの「キサトア」。
12歳の少年アーチは、< 風のエキスパート >である父フウガと、双子の妹キサとトアと
4人で暮らしている。アーチは病気で物の色がわからないが、天才的な物造りの才能
を持つ。キサとトアは日の入りと日の出で交互に眠る特異体質。風変わりなこの一家が
強い風が吹き抜ける海沿いの町に越して来て5年。町の人々はみんなこの一家を愛している。
一家と町の人々の四季を綴った、優しくて心温まるファンタジー。
物語はアーチの視点で語られるので、児童書といっても良さそうな内容。ミステリランドで
出しても良かったかもしれません。少年アーチがどこまでも優しくて賢い少年なので、
とても暖かい気持ちで読めました。天才的な物造りの才能を持っているのに、全くそれを
鼻にかけることなく、自分の作品の存在価値なんかどうでもよさげ。病気で物の色がわからなく
なっても全く卑屈になることもない。ある意味、現実だったら到底いそうもないキャラクター
ともいえるかも。キサとトアに関しては、いまひとつ掴み所がないまま物語が進んで行くので、
ちょっと中ぶらりんな印象を受けてしまった。題名にもなっている位、作品の中ででは重要な
存在の筈なのに、なんとなく印象が薄かった。ラストの大団円は良かったのですが、そんなに
上手く行くかなぁ?とファンタジーの王道とはいえ、あの展開には疑問も覚えてしまいましたが
(なんて、ひねくれ者!!)。
ただ、児童書として読む分にはとても優しくて温かい読後感の良作だと思います。
町の人もみんな穏やかだし、子供たちもみんな仲がいいし、全てが温かさでくるまれている
ような町。いじめや暴力なんて絶対にあり得ない。こんな所で育ったらきっと、子供は
良い子で育つのでしょうねぇ。さすが架空の町。住んでみたいですね。
それだけに、双子岩の禍々しい伝説だけ妙に浮き上がっていたような気も・・・。
ミステリ好きとしては、そこの辺りをもうひとひねりして欲しい所でもありましたが(苦笑)。
ところで、新聞記者のY.Sさんの正体が結局よくわかりませんでした(阿呆?)。
誰か教えて下さい・・・(T_T)。