ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

野村美月「むすぶと本。『さいごの本やさん』の長い長い終わり」(KADOKAWA)

f:id:belarbre820:20200920184502j:plain

文学少女シリーズを放置したまま、もう何年経ちましたでしょうか・・・。一時期

めちゃくちゃハマって、古本屋でシリーズを買い集めていたのだけれど、思う

ように手に入らないので、そのままになってしまった。買ったシリーズも、途中

までしか読めてないし。っていうか、どこまで読んだかも忘れている体たらく。

いつか再開しなければと思いながら今に至る訳ですが。そんな野村さんの最新作。

基本ラノベの野村さんの本はほとんど図書館に入ることがないので、なかなか

読めずにいたのですが、本書は単行本の為、無事入荷してくれたようです。

久々に新刊情報に載っていた上、本屋さんものと知っては手に出さない訳はなく。

即予約と相成った次第。

うんうん。良かったです。とても本に対しても本屋に対しても愛情たっぷりの

素敵な優しいお話。舞台は東北のとある街の本屋、幸本書店。優しく温かい人柄で

人々に愛されていた店長が急死して、あと一週間で閉店することになり、閉店フェア

を行うことに。別れを惜しんで、幸本書店にお世話になった客たちが次々と訪れ、

本屋での思い出と、それに纏わる思い出の本について語って行くお話。

それぞれの客たちの思い出の本(『ほろびた生き物たちの図鑑』『野菊の墓

『かもめ』『かいけつゾロリなぞのうちゅうじん』『緋文字』『幸福論』)は、

残念ながら一冊も読んでいなかったけれど、本にまつわるエピソードはどれも

胸にぐっと来ました。そのどれもが、幸本書店や店長の幸本笑門氏がいたからこそ

生まれたものだと思います。幸本さんのような書店員さんがいる本屋さんなら、

誰だって通いたくなるんじゃないでしょうか。それだけに、突然の死が悲しかった。

冒頭から笑門さんの死が出て来るので、読者は生きて笑っている彼を知らずに、

優しく温かい人柄が伺えるエピソードのみで彼を知ることになります。それが、

とても残念でした。町で唯一の本屋さんが無くなってしまう悲しさは、本好き

だったらすぐに察することができるはず。周りの数ある本屋が閉店して行っても、

幸本書店だけは開け続けてくれた人。この町の人々に、本を読む楽しさを教え

続けて、与え続けてくれた人。そんな人の死が悲しくて仕方がなかったです。

そんな幸本さんが、自分の死後の書店のすべての本を託したのが、高校生の本好き

少年、むすぶ。むすぶは、本にまつわる、ある特殊能力を持っている。むすぶと

幸本さんがどうやって知り合ったのか、なぜ幸本さんはむすぶに幸本書店の本を

託したのか。物語を読み進めて行くと、それが明らかになって行きます。私も

本大好きだけど、むすぶみたいな能力があったら、それはそれでちょっと

面倒なような気もするなぁ。でも、むすぶはその能力があるからこそ、彼女も

できたわけですもんねぇ。

本書の主役は、むすぶではなく、言ってみれば幸本書店そのものだと思う。むすぶ

本人が主役の物語も文庫で出ているみたいなので、そちらも読んでみたいなぁ。

でも、図書館には入らないだろうな・・・ラノベ系文庫で出ているらしいので。

むすぶが店長になって幸本書店を継いでくれればいいのになぁ、とも思いましたが、

東京の高校生が東北のいなかの町の本屋を継ぐのは現実的ではないですよね。

幸本書店の終わりはやっぱり覆らなかったけれど、笑門さんやお客さんたちが

愛した本との思い出は確かに残っているのだから、それでいいのかもしれないな。

長く続いて愛して来たお店がなくなってしまうのは本当に寂しい。私の町の本屋も

昔はたくさんあったけど、今はほとんど無くなってしまいましたからね・・・。

東北の町の三階建の本屋が閉店するというエピソードは、実際作者が体験したこと

だそうで。きっと幸本書店みたいにアットホームで素敵な本屋さんだったので

しょうね。

幸本書店が無くなってしまって、この町の人々は今後どうやって本を手に入れる

のかなぁと心配になってしまった。そりゃ、今はアマ○ンとかがあるから入手

自体は簡単だろうけれども。やっぱり、本屋に行って、書棚をめぐりったり

平台の本をチェックしたりする楽しみが失われるのは悲しいことだから。幸本

書店の書店員、円谷さんを始め、本を愛する住民たちの力でまた、新しい本屋が

この町に出来る日が来るといいなと思います。