ミステリ読書録

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秋吉理香子「灼熱」(PHP研究所)

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秋吉さんの最新作。夫を殺された女性が、犯人への復讐に燃える話。
主人公の絵里は、医師の夫と結婚したばかり。忙しい夫の為に手の込んだ
食事を作り、家事も完璧にこなす。一見幸せいっぱいの新婚家庭に
見えるが、絵里には裏の顔があり、ある目的を持ってこの新婚生活を
続けているのだ。それは、元夫の為の復讐――。
途中までは、主人公の絵里に全く共感出来ず、むしろ嫌悪しか覚え
なかったです。元夫を殺された女の復讐ってことですけど、元夫は
生前、主人公も知らなかった詐欺行為を働き、多額のお金を得ていた
ことがわかります。だからって殺されていいとは思わないのですが、
生前の夫が詐欺を働いていたことに対しての負い目とかが全くなく、
それが何だと言わんばかりの開き直った態度に呆れました。もうちょっと
彼女が謙虚な性格だったらもう少し印象も違っていたと思うのですが。
それに、今の夫の英雄に対する冷酷な言動にも辟易しましたし。まぁ、
目的があって結婚してる訳だから当たり前なんですけども。それにしても、
夫が視界にいなくなった後の豹変ぶりが凄かった^^;自分の配偶者が、
自分がいる時とそうでない時にこれほど人格が変わっていたら、もう
人間が信じられなくなりそうですよ・・・。
ただ、ひたすら絵里が復讐に燃える話なのかと思いきや、途中から
風向きが変わって来ます。最初はあれほど自分の夫を毛嫌いしていた
絵里ですが、あるきっかけで、彼に対する想いに変化が訪れるのです。
そこからの彼女の動揺とか戸惑いで揺れる女心の機微に、こちらまで
ドキドキしてしまいました。そのまま自分に正直になれば幸せに
なれるのに・・・と応援する気持ちで読みましたが、当然ながらそんな
展開になるはずもなく。今度は夫の方に裏の顔があることが明らかに
なって行く。一度は本当の新婚夫婦さながらにラブラブな夫婦に
なれたかに思えた二人だったのに、ささいなきっかけからお互いに
疑心暗鬼になり、相手の一挙手一投足を疑い始めるようになってしまう。
夫の英雄が隠していた秘密は意外なものでした。確かに、はじめの方に
伏線は出て来ていたのだけれど。絵里とそんなつながりがあったとは
・・・あまりにも皮肉な結末で胸が痛かったです。
しかし、今回一番怖かったのは、英雄の妹・亜希子の最後の豹変
ですね。素直で心優しい子だと思っていたのに・・・ある意味ホラー
かと思いましたよ。こんな顔を持っていたとは・・・^^;
絵里と英雄、お互いに胸の裡を話し合って、わだかまりを解いて
いたら、どういう結末になったのかな。結局、悲劇的な結末でしか
なかったんだろうか。憎しみからは何も生まれないというのを
痛感するようなお話でした。