ミステリ読書録

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西澤保彦/「必然という名の偶然」/実業之日本社刊

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西澤保彦さんの「必然という名の偶然」。

この街は、なんかおかしい!今日は倉橋譲の結婚式。この男、とにかく女運が悪い。婚約しては
逃げられ、結納しては逃げられ、挙式中に逃げられ…。八年前には、控室から消えた花嫁が別の男と
無理心中。そんな中、今日の花嫁が心中した男の交際相手だったと発覚。これを単なる偶然と言える
のか?(「エスケープ・ブライダル」より)。殺人街・櫃洗市で起きる奇妙・珍妙な6つの事件を
描いた連作ミステリー(あらすじ抜粋)。


西澤さんの最新作。西澤作品にはお馴染みの、櫃洗市を舞台にした短編集。↑のあらすじでは
連作ミステリーと書かれていますが、最初と最後の作品以外は、それほどそれぞれの作品に
リンクがある訳ではありません。刑事が出て来る作品では、同じ刑事が事件を担当するという
共通点はあるんですけど(毎回出て来る訳でもない)。

どの作品もちょっとひねった設定で、西澤さんらしい黒さも出ていて面白かったです。何より、
いつものレズ要素も不毛なエロ要素もほとんど皆無。め、珍しいことですよ、これは。西澤さんに
一体どんな心境の変化があったんだ!と驚いてしまいました(苦笑)。

タイトルは三作目に収録されている作品のタイトルでもあるのですが、作品タイトルにしたのも
頷けるように、どの作品も『偶然』が作用した結果の犯罪を描いています。どれも、ほんの小さな
偶然が大きな犯罪を生むきっかけになってしまうという皮肉な結末。全部がミステリーとして綺麗な
謎解きが用意されている訳ではないのですが、どの作品も最後までどういうオチになるのかわからず、
予想外の結末に度々驚かされました。もやもやする結末も中にはありましたが、最初と最後の作品を
リンクさせることで統一感もあり、同じ櫃洗市を舞台にしながらもバラエティに富んだ犯罪を描いて
いて、一冊通して楽しめた作品でありました。


以下、各作品の感想。

エスケープ・ブライダル』
何度婚約しても女に逃げられるという、絶望的に女運の悪い倉橋譲が結婚することに。式に招待
されたケーカクは、今度こそ倉橋が無事結婚出来るよう願うのだが――。

大富豪探偵という設定は面白かったですね。何なら、このシリーズで一冊統一しても良かったかも。
仕掛けの派手さにはビックリしましたが^^;ほんとに、大富豪のパトロンがいないと、この
計画は成功しなかったでしょうね・・・。

『偸盗の家』
榎本裕子が受け取った夫宛ての宅配便。良く見ると、微妙に番地が違っている。もしや、夫と
同姓同名の人物がそこに住んでいるのではないか――裕子が試しにその番地に行ってみると、
本当に夫と同姓同名の他人が住んでいた・・・。

同姓同名の他人が、番地違いで住んでいたって、本当にすごい偶然ですよねぇ。そこから終盤の
展開は予測出来なかったですね~。ラストで娘の真意がわかって、切ない気持ちになりました。

『必然という名の偶然』
江原は、突然中高の同級生・硏野から『これから会いたい』と電話を受ける。しぶしぶ出向いて
みると、硏野は同窓会名簿を見ていてある恐るべき法則に気づき、江原に忠告する為呼び出した
というのだ。これは偶然か、必然か――。

結局、硏野が気づいた法則って、ほんとに単なる偶然だったんですかねぇ。そこが曖昧なまま
なので、ちょっと消化不良でした。最後の名前の一致も、いくらなんでもやりすぎのような
・・・ここまで行ったら、偶然も必然になっちゃいますよねぇ。この人物が他の七番目の
人物のようなことになっていたらなおさら・・・怖っ。

『突然、嵐のごとく』
嵐で国道が交通不能になり、学校から自宅への行き来が出来なくなってしまった和田。妻に対して
ほんのいたずら心を起こしたことで、とんでもない事態に――。

これだけ、ラストでちょっぴりエロ要素がありますが、お話としては非常に良く出来ていますね。
妻の行動にはただただ唖然。その皮肉すぎる結末にも暗澹たる気持ちになりました。冒頭の伏線が
こういう結末に繋がっているとは。でも、ラストの和田の独白部分は蛇足に感じました。こういう
悪いことを考えているヤツは、間違いなく、思惑とは反対の結末になって足元すくわれるんじゃ
ないかなぁ。

『鍵』
ほんの出来心で、昔住んでいたアパートの鍵を自宅で見つけ、部屋に入ってしまった萩本。部屋を
物色しているうちに、誰かがドアを開ける音が聞こえてきた。部屋の住人が戻って来たのかと
思いきや、違うらしい。慌てた萩本は、その人物を殺してしまう――。

これもほんの出来心から、最悪の事態を引き起こしてしまう男の話。しかも、男が殺した人物が
――うう、黒すぎる(><)。殺された方もトンデモないことを考えていた訳で、なんだか、
どっちもどっちって感じがなきにしもあらずですが・・・こういう関係の人物に、こういうことを
考えられているって、怖すぎですね・・・。ぞぞぞ。

エスケープ・リユニオン』
俳優の同級生から、映画の舞台挨拶で地元に帰ることになり、同級生たちを集って飲み会を
開いて欲しいと頼まれた倉橋。仲のいい岡館に相談し、更に岡館が地方テレビ局に勤める
刑事(おさかべ)に連絡すると、富豪探偵・月夜見まで話が通り、彼女が買い取ったホテル
で会を開くことに。そこで二冊の同窓会名簿を巡って奇妙な推理合戦が繰り広げられるのだが――。

最悪の女運を持っている倉橋のその後にはほっとしたものの、俳優の身の上の方の結末には
驚きました。でも、ちょっと殺人の動機には納得行かないものがありました。そんなことで
人を殺すかなぁ・・・。最後は、もっとすっきり終わる作品にして欲しかったな。





ま、もやもやした終わり方のものもありましたが、概ね面白く読みました。それにしても、櫃洗市、
殺人起き過ぎじゃないですか^^;この街に住むと、物騒な考えに捕らわれてしまうんでしょうか。
うう、怖い、怖い。こんな街には住みたくないぞ^^;