刀城言耶シリーズ最新刊。3つの短編+中編一編が収録されています。どれも
さすがのクオリティ。しっかりミステリとホラーテイストを融合して、読み応え
あり、技ありの良作揃いでした。相変わらず二転三転四転する言耶の推理には
若干イラっとさせられましたけども(苦笑)。特に表題作である最後の一編なんか、
その場にいた全員が一通り容疑者として挙げられる始末。最後に残った一人が
まさかの人物で、しかもそこにもきちんと仕掛けが施されていたので、驚かされ
ましたけれども。何となく違和感は覚えていたし、言われてみれば・・・って
感じではあるんですけど、まんまと騙されてしまったなぁ・・・。やっぱり、
ミステリ読みとして、年に一度はこのシリーズを読みたいところですね。がっつり
長編もいいのだけど、こういうクオリティの高い短編集も好きだなーと思いました。
では、各作品の感想を。
『妖服の如き切るもの』
二軒離れた二つの家でほぼ同時に起きた二つの殺人事件。なぜか同じ凶器が使われて
いた。二人の容疑者はほぼ断定されているが、どうやって犯人は凶器を移動させた
のか?
妖服の怪異がいい具合に作品に不気味さをプラスさせていますね。こういう雰囲気
作りが本当に上手い作家さんだなぁと感心します。凶器の移動に関して、最初は
絶対誰かに気づかれるだろう、と思ったのですが、中身のアレだけなら確かに
薄いし、隠せそうではあるな、と思い直しました。しっかり○○○の中身を確認
する人がいたらアウトですけどねぇ。私が真ん中の家の人間だったら、まんまと
騙されたかも(普段大して確認しないで回すんでw)。まぁ、大胆な方法なのは
間違いないですね。
『巫死の如き甦るもの』
フシが多い村の中で、5人の女と共同生活を送っていた男が突然消えた。男の妹
は、刀城言耶に調査を依頼するが。
フシとかフジとかやたらにいっぱい出て来るので、ちょっと混乱したところは
ありました。よく、これだけのフシを集めたなぁって感じ。
男が消えた真相には戦慄。でも、言耶の推理を読むと、たしかにそうとしか
思えないかも、と納得しました。く、狂ってる・・・。ラストの余韻がまた、
とんでもなく、怖い。言耶が最後に推理した通りだったとしたら・・・復活した
ソレは、一体どこへ行ったのか。背筋が凍りました。
『獣家の如き吸うもの』
大歩危山の山中に現れた不気味な家。シャム双生児のように、二体が身体の半分
で繋がって一体になっている動物の像があちこちに装飾されている。この獣家に
迷い込んだ二人の人物による体験談では、同じ家に迷い込んだと思われるのに、
なぜか片方の人物はその家を平屋だったといい、もう片方の人物は2階建て
だったと話していた。一体なぜなのか。
平屋建てが二階建てになった理由には、なるほどーと思わされました。図が挿入
されているので、わかりやすいといえばわかりやすいのでしょうが、頭の中で
しっかりそれが理解出来たかと言われると・・・ちょっと自信ないかも^^;
本格ミステリらしいミステリトリックかもしれませんね。
『魔偶の如き齎すもの』
手にしたものに少しの福とそれを上回る禍いを齎すと言われる魔の土偶、『魔偶』
を手に入れた骨董収集家の宝亀幹侍郎を訪問することになった刀城言耶と怪想舎の
祖父江偲。骨董を展示してある卍型の卍堂で、主人の亡き友人の甥・吾良が殴られ
て倒れていた。その場には、魔偶をひとめ見ようと訪れた骨董商や、近頃世間を
騒がせている『色物団』と呼ばれる窃盗団を追う言耶の顔馴染みの小間井刑事など
が集まっていた。誰が吾良を襲ったのだろうか――。
作家三年目の若き言耶と怪想舎の祖父江偲さんとの出会いを描いた、ファンには
嬉しい一作――かと思ったのですが、ラスト読んで唖然。冒頭でも述べましたけれど、
言耶の翻りまくりの推理には、さすがに少々イラッとさせられました。言耶って、
その場で考えられる推理の可能性を挙げて行って、自分ないし周りの人間がそれを
否定することによって、また別の可能性を考えて・・・を繰り返して、最後に
残った可能性が正しい推理になる、っていう推理方法を取るんですよね。はっきり
いえば、周りくどいことこの上もない探偵役ではありますね。まぁ、それが言耶の
推理方法なのだから、仕方がないのかもしれませんが。翻弄される読者のことを
考えて欲しい・・・とちょっと愚痴りたくなってしまった(苦笑)。ドンデン返しも
一度や二度ならば驚けるのだけど、あんまりやり過ぎると、最後の推理すら信憑性
がなくなるような気がして驚きが半減する気がするんですけど。
まぁ、さすがに今回の最後の真相には驚きましたけどね。こういう手法は一度しか
使えないですけど。ちゃんと冒頭から読み返すと、確かにいろいろ怪しかった
んですよねー。きっちり伏線が張ってあるところはさすがだと思いました。
ところで、一作目に出て来た強盗連続殺人事件の解決はどうなったんでしょうか。
この話である人物を犯人だと指定することで解決したかに思えたけれど、結局
その推理は間違っていた訳で。また改めてどこかのお話で出て来るのかな。