恩田さんの最新短編集。こういうノンシリーズの短編集は久しぶりですね。
相変わらずの恩田ワールド全開。万華鏡のように、いろんなタイプのお話が出現
する。ほんと、イマジネーションの天才だと思う。
あとがきでご自身も触れてらっしゃいますが、全体的にホラーよりのものが多かった
です。ほんの掌編も入れて、全部で18編が収録されています。一見ホラーには
思えないのだけど、最後まで読むとぞっと背筋が寒くなるようなタイプの作品が
多かったですね。得体の知れない怖さがあるというか。こういう世界観を描かせたら
ほんとに上手いと思う。まぁ、出来にはばらつきがあって、何だかよくわからない
お話もありましたけど(苦笑)。
あとがきですべての作品について作者ご自身が解説してくださっているので、
そこはちょっとありがたかった(それでもわからないものはわからなかったの
だけど^^;)。
既存の作品のスピンオフなんかも混ざっているので、そこはファンには嬉しい
とこでした。ただ、『消滅』のスピンオフといわれても、正直全然本編を覚えて
いなくって・・・あとがきでスピンオフだと知ったという体たらく^^;
今度図書館で本編確認して来ようっと。
では、各作品の感想をちょっとづつ。
『線路脇の家』
線路脇の家で、いつ見ても同じ部屋にいる三人の人物。彼らは一体何をやって
いるのか?こういう職業があるのはなんとなく知ってましたけど、高齢の女性
も入っているのが驚きでした。
『球根』
これは怖かったですね~~。ホラーとしての出来は一番じゃないでしょうか。
球根がなんかエロいという恩田さんのご意見、なんだか頷けます。これは短編で
読むのは勿体ないなぁ。長編でもっと膨らませた話が読みたいです。学園ホラー
としていい作品が出来そうだ。
『逍遥』
『消滅』のスピンオフだそうで。確かに、十時って名前は覚えがあって、どこかで
読んだかな?と思ったのですけど。近い将来、本当にこういう技術が開発されたら
面白いだろうなぁ。日本にいながらにして、他の国に行った気になれる。懐中時計
が失くなった真相も、なるほど、と思えました。
『あまりりす』
ほとんどが発見された音声テープの声だけで構成された作品ですが、これも何が
起きたのか類推するとぞーっとする話ですね。っていうか、ほんとに何が起きて
いたんだろうか。あまりりすって何なのーーー^^;;
『コボレヒ』
木漏れ日を避けて歩くって、夏の暑い日は非常に不便じゃないでしょうか。だって、
絶対木の下とか、日陰の下を歩きたいよね。一生これが続くのだとしたら・・・ぞぞ。
『悪い春』
これはちょっと意味がよくわかんなかった。職業吸血鬼って何なんだ^^;でも、
この吸血鬼のくだりって、どこかで読んだ気がするなぁと思っていたら、あとがき
で『EPITAPH東京』のスピンオフだということが判明。なるほど。作中に出てきた
ウメクロは、当然ながらモモクロのパロディなんでしょうね。
『皇居前広場の回転』
これは、タイトルそのまんま。皇居前広場で一人の少年が回転するっていう。
だから何?って感じもしますけど、恩田さんが実際見たその光景を作品に写し取り
たかったんでしょうね。
『麦の海に浮かぶ檻』
タイトルからもわかるように、『麦の海に沈む果実』のスピンオフ。理瀬は直接
出てきませんけど。これはアンソロジーで既読。ミステリとしても、作品自体の
完成度としても、やっぱりピカ一じゃないでしょうか。ああ、本編の続編が
読みたいよぅ(涙)。
『風鈴』
これも印象的な一作。南部風鈴の音、私は大好きなんですけど、こういう状況で
鳴ったら、そりゃー怖いでしょうね。冒頭の、週刊新潮の表紙が怖いっていうのは
なんでかよくわかんなかったけど(苦笑)。
『トワイライト』
なんか、この流れってもしかして・・・と思ったら、やっぱりあのお話のことでした。
こんな風に扉を開けさせたのかもしれないと思ったら、ちょっと可笑しくなりました。
『惻隠』
猫視点で語られるお話。『吾輩は猫である』のオマージュ作品だそうな。尻尾が増えて
行くところで、もしかして九尾の猫?と思ったら、その通りでした。
『楽譜を売る男』
恩田さんが実際目にした光景をお話にしたものだそう。楽譜を売る男の顛末には
脱力。そんなオチかい^^;
『柊と太陽』
クリスマスのびっくり別解釈。冬至とクリスマスをこういう風に結びつけるとは
(絶句)。※『悪面!悪面!』『三田』、極めつけが『滅理、来衆益し!』・・・
お、恩田さ~~~~ん^^;;(『』内の読みは後述します。なんて読むのか
当ててみて下さいw)
『はつゆめ』
『ゆめ』で繋がった二人が、どうやって出会ったのか、そこが知りたいです。
これは横浜を舞台にした幻想小説になる予定だそうで、執筆されるのが楽しみです。
『降っても晴れても』
いつも同じ曜日の同じ時間にカフェの前を通る日傘王子が、なぜ事故の日に
限って違う道を歩いていたのか。ミステリとしても面白かったです。まぁ、
実際こんな方法で人を殺せるかどうかは疑問を覚えますけども。
『ありふれた事件』
小さく新聞記事に載る程度の、ありふれた事件の真相には、恐るべき真実が
隠されていた――これ、実際その場にいた人は絶対その後かごめかごめに
拒否反応が起きそうですね・・・。その場にいた証言者の子供がトラウマに
なってなきゃいいけど・・・。てか、その瞬間の映像を想像すると、完全に
例のホラー映画のアノ場面ですね・・・ひぃぃぃ。
『春の祭典』
現在準備中のバレエ小説の習作として書かれたものだそう。恩田さんのバレエ
小説!楽しみ過ぎる!!ここに出て来た『彼』が出て来るのかな?すごくオーラが
ありそうなキャラなので、そうだと嬉しい。
『歩道橋シネマ』
こんな奇跡が起きる場所があったら、私も行ってみたいです。歩道橋シネマって
言葉の響きがすごくセンスがあって好きだなぁ。私ならどんな映像が観られる
だろうか。
『柊と太陽』の※部分の読み方
『悪面』→アーメン
『三田』→サンタ
『滅理、来衆益し』→めり、くるしゅまし(く、苦しい・・・)