ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

倉知淳「ドッペルゲンガーの銃」/有栖川有栖「インド倶楽部の謎」

こんばんは。今日は相方が名古屋出張。日帰りなんですが、会社の人と飲んで
帰って来るとのことで、いつ帰るのやら。のんびりブログが出来るからいいんです
けどね(苦笑)。


読了本はまた二冊。相変わらずの予約本ラッシュが続いておりまして、
血眼になって(使い方間違っている気が)、開いてる時間は必至に読んでおります。


倉知淳ドッペルゲンガーの銃」(文藝春秋
倉知さん最新作。新シリーズと言っても良いのかな?作家の卵の女子高生と、
刑事の兄がコンビを組んで事件を解決します。とはいえ、推理するのはその
どちらでもないんですよねぇ。最初は刑事の兄が推理するのだと思い込んで
いたのですけど、推理の段になってかなり意外な伏兵が出て来てビックリ。
この推理役を担う人物に関しては好印象だったんですけど、気の強い主人公の
灯里にも、警視庁捜査一課の刑事のくせにのほほんとした性格で刑事としての
自覚に欠ける兄の大介にも、いまいち好感が持てなかったです。特に、灯里が
何かにつけ兄をポンコツで役立たずとディスるところが好きじゃなかった。
実の兄なんだから、もうちょっと愛情を持って接してあげて欲しいなぁ、と。
冗談で言うならいいんだけどね(かなり本気でダメ出しするんで)。
それに、兄が担当している事件に首を突っ込んで、自分の小説のネタに
しようとするところが何かね。兄もツッコんでたけど、自分で創作して面白い
話が書けなきゃ、小説家として長くやっていける訳ないですよね。
ただ、三話の中編+エピローグで構成されていますが、トリックはどれも
なかなかおもしろかったです。確かに1話目の鍵のやつとか灯里の担当が
言うように、地味ではありますけど。でも、鍵のトリックはいろいろ読んで
来たけど、こういうアプローチのものは読んだことなかったので、なるほど、と
思いました。
二話目のドッペルゲンガーの犯罪も、ロジックはしっかりしていて感心
させられました。ほぼ同時間に同じ銃による犯罪が起きる謎に関して、細かい
部分まできっちり伏線が張ってあってさすがでした。このネタがボツになった
のはちょっと首を傾げてしまった。十分読み応えあると思うけどな。
三話目は王道の雪密室もの。うーん、これの謎解きに関しては、腑に落ちない
部分もあります。雪の積もり方が少なかったら余計に、このトリックだったら
雪の下の地面に痕跡が残ってしまうのでは、と思うのですが。下は芝生だそう
ですし。犯人がこのトリックを行う様子を想像すると、相当にシュール。あと、
トリックに使われた例のモノが壊れないのかも疑問・・・。短い距離だから
なんとかもったのだろうか・・・。
設定自体にツッコミ所は多々あるけれども、ミステリのロジックはやっぱり
正統派で読み応えありました。やっぱり好きだなー、倉知さん。最近
コンスタントに新作が出るようになったのがとても嬉しい。シリーズ化
されるのかわからないけど、新刊出るなら何でもいいや。


有栖川有栖「インド倶楽部の謎」(講談社ノベルス
社会人アリスシリーズ最新作。国名シリーズは久しぶりですね。タイトルは、
クイーンの幻の作品から取ったそう。クイーンが、構想はあったものの、書かずに
終わった作品だそうで。有栖川さんは、いつかこのタイトルで作品を書きたい
と思い続けていたのだそう。
インド好きが集まる7名のグループのメンバーたちが、インドに伝わるアガスティアの葉』
という、すべての人の運命の予言が書かれた葉の神秘を体験する為、異人館通りにある
インド亭に集められた。三名がその神秘を体験し、その日はお開きになった。しかし、
その数日後、その会に立ち会ったメンバーが相次いで死体で発見された。容疑者は
メンバーたちなのか――。
とにかく、作品のキモとなる『インド倶楽部』の設定が胡散臭い。インドに伝わる
アガスティアの葉』という予言の葉っていうのは、本当に実在するものなの
でしょうか。すべての人物の運命が運命が書かれた葉なんて、とんでもない膨大な
量になっちゃうと思うんですけど。こんな明らかにインチキ臭い予言を、真剣に
信じていそうなメンバーがいること自体に疑問を覚えたのですが。あと、真剣に
前世を信じているところにもちょっと引いてしまった。なんか、ある意味宗教めいて
いるというか。洗脳に近いものを感じて、ちょっと空恐ろしい気持ちになりました。
長編なので、火村先生とアリスの、事件の捜査の部分が若干だらだらと長くて、
中だるみする印象はありました。ただ、終盤で犯人を指摘した火村先生による
推理過程の説明を読んで、巧妙に伏線が張ってあったことがわかり、溜飲が下がり
ました。高校生の花連ちゃんの何気ない言葉が、ああいう風に推理に関わって
来るとは思わなかったです。
ただ、動機の面では、やっぱり全く理解不能でしたね。こんな理由で人を
殺す人がいるとは・・・(絶句)。しかも、一人目の被害者なんて、誤解から
殺されただけっていう。身勝手すぎて腹が立ちました。
終盤、花連ちゃんの言葉で、火村先生の心の重荷が少し軽減された感じがした
のが嬉しかったです。『来世は明日』――うん、いい言葉ですね。火村先生の
過去の暗い記憶は、前世としてさっさと忘れて、明日の来世のことだけ考えて
生きていけたらいいと思う。人を殺したいと思ったことなんて、大なり小なり
どんな人だって経験あるんじゃないのかな・・・。そりゃ、本気度の違いは
あると思うけど。そして、火村先生の場合は本気の方だったんだろうけれど。
火村先生が、悪夢を見ないで眠れる日が早く来るといいな、と願います。