ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

越谷オサム「四角い光の連なりが」(新潮社)

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人生の大切な場面に登場する列車にまつわるお話を集めた短編集。5作が収録

されています。どれも心に沁みる心温まる作品ばかりでした。最初はタイトルに

ピンと来てなかったのですが、途中でその意味がわかります。どのお話にも

通づるタイトルではありますよね。

 

では、各作品の感想を。

『やまびこ』

生命保険会社に勤める主人公が一関の実家に帰る新幹線に乗っている間の出来事を

綴ったお話。隣に座る家族を眺めているうちに、実家の父親と仲違いした過去を

思い出す・・・。親は、どんな時でも自分の子供を想っているものですよね。

最後、主人公がアルバムをめくって行くシーンにジーンとしました。

『タイガースはとっても強いんだ』

タイガースの熱狂的ファンであるおれは、観戦前には様々なルーティンがある。

当然、憧れの中井さんを誘って観戦に行く今日も同じようにルーティンをこなす

予定だった。しかし、電車に乗ろうとホームで待っていると、懐かしいポーランド

語が耳に入って来た。おれは父親の仕事の都合で四歳から一二歳までポーランド

住んでいたのだ。彼らの会話が理解出来るだけに、その日のルーティンが少しづつ

狂って行く羽目に・・・。

主人公のお人好しキャラにとても好感が持てました。ポーランド夫婦との交流が

とても良かったですね。道案内していて待ち合わせに遅れたことを中井さんが

信じてくれないのが可哀想でしたが、その後夫婦との奇跡の再会で誤解が解けて

良かったです。ポーランド人夫婦が帰国してからのタイガースの成績がどうだった

のか、ちょっと気になります(おそらく結果は・・・^^;)。

『二十歳のおばあちゃん』

母親に頼まれて、祖母と共に愛知県の豊橋まで旅行に行くことになった美羽。

祖母は、昔乗った路面電車に乗りたいのだという。面倒だと思いながらも

しぶしぶ承知する美羽だったが・・・。

昔の電車が塗装を変えて違う場所で走っているというのはよくあることですよね。

それが海外にまで持って行かれて走っている場合もありますし。最初は自分の

ことばかり気にしていた美羽が、途中から祖母の為の旅行だったと思い出して

行動するところは偉かったと思います。新幹線は、乗り遅れてもその日中の

自由席なら振替が出来る、という伏線が、最後に効いてくるところは上手いな、と

思いました。

『名島橋貨物列車クラブ』

僕と松尾君は、放課後鉄橋を渡る貨物列車を見るのが日課だった。卒業論文

その話を書いた後も、僕は原稿用紙に続きを書き続けていた。卒業論文に載せた

話には、嘘がいくつか含まれていたからだ。その嘘の内容をきちんと書きた

かった。その嘘には、同じクラスの伊藤さんが関わっていた――。

松尾君が、貨物列車に乗った理由に胸を打たれました。主人公は良い友だちに

恵まれましたね。ぼっちの伊藤さんも、貨物列車クラブに入れて楽しかった

んじゃないかな。中学に入っても、三人の付き合いが続けばいいな、と思いました。

『海を渡れば』

5月、川崎市民会館で勾梅亭一六は独演会のまくらで、自身が過去に一度だけ

落語家を辞めて夜逃げした時のことを語り初めた――。

師匠の粋な計らいが素敵でしたね~。あとおかみさんも。一人前になる為には、

どんな職業でも厳しい修行を経験するものです。兄弟子の仕打ちは酷いもの

でしたが。あの師匠からの電話で一六が心を改めて戻れて良かったです。待って

いてくれた師匠夫婦の器の大きさが身にしみたでしょうね。子への親心を描いた

一昇師匠の『藪入り』、完全版が聞いてみたくなりました。