ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

鯨統一郎「ただいま家事見習中 ハウスワーク代行・亜美の日記」/板倉俊之「月の炎」

こんばんは。今日は久しぶりに猛暑から解放されて、湿度が低くて比較的過ごしやすい
一日でした。空が真っ青でなんだか感動しちゃった。でも、来週からまた暑さが
ぶり返してくるらしいですね。まだまだ熱中症にはご注意を!


今回も二冊ご紹介~。最近、午後は家でゆっくり読書に勤しんでおります。外に
いても暑いだけなんだもの^^;


鯨統一郎「ただいま家事見習中 ハウスワーク代行・亜美の日記」(中公文庫)
ちょっと楽しそうなタイトルだし文庫で読みやすそうだったので手にとってみました。
想像通り、めっちゃ読みやすかった(笑)。ま、鯨さんの作品はいつもそうだけど。
祖母と二人暮らしの大学生・亜美が、ひょんなことから始めた家事代行のアルバイト先で
出会う様々なトラブルの顛末を綴ったユーモアミステリ。
まぁ、ミステリって言っても、ちょっとした日常のトラブルって感じのものばかり
なので、ミステリ度は低めですが。経験のない大学生の亜美が、いきなり家事代行
って大丈夫なのかよ、と思いましたが、会社のコンセプトがあくまで『家事代行=
その家の人がやってる家事を代行する』というものなので、素人でも大丈夫、というのが
社長の言い分。まぁ、お金をもらう分、丁寧にしっかりやる、というのがウリらしい
けれど。1時間単位で頼めるというのもお手軽でいいところ。最近、カリスマ家政婦とかも、
3時間いくらとかで雇われてるらしいですもんね。
亜美が雇われて最初にやった仕事は、早朝の犬の散歩。ただ、初日から寝坊して遅刻
という、最悪の状況からスタートするんですが・・・。散歩自体は滞りなく終わった
ものの、後日、亜美の元にとんでもないクレームが入ります。亜美が散歩させた犬が、
散歩中に子どもを噛んでしまったというのです。でも、亜美自身はそんな出来事は起きて
いないと知っている。この矛盾は一体どこからくるのか――とまぁ、こんな感じ。
2話目は、画家志望の家に行って、描いた絵が紛失してしまうトラブルに巻き込まれたお話、
3話目は70を超えた父親と同居する夫婦の家で、父親の言動がおかしくなったのは
認知症だからではないかと疑う夫婦に、亜美が真実を解き明かすお話が描かれます。
亜美がいつでも前向きで、一生懸命なところがいいですね。今どき、こんなに裏表が
なくて正直ないい子いないですよ。やっぱり、一緒に暮らしているおばあちゃんの
育て方がいいんでしょうね。バイト初日に遅刻はどうかと思いましたが、その時も
誠心誠意謝って、相手から呆れられつつ、許してもらっているしね。亜美の正直さと
真面目さが伝わったからだと思います。バイトするまで家事は苦手だったのに、教わった
ことはきちんと吸収して上達していくバイタリティにも感心しました。絶対嘘は
つかないという信念も素晴らしいですし。なんか、鯨さんの人柄がそのまま亜美に
反映されているような感じがしました。おばあちゃん想いなのも良かったですね。
おばあちゃんの教えをきちんと守っていて。料理のかきくけこの発想は面白いなーと
思いました。キャノーラ油はなんで?って思いましたけど(笑)。西洋料理なら、
普通はバターかオリーブオイルとかだと思うけどね。きに当てはまる調味料が他に
なかったんでしょうね(苦笑)。でも、うまいこと考えるなーと感心しちゃいました。
亜美のキャラがとても気に入ったので、ぜひシリーズ化して頂きたいですね。


板倉俊之「月の炎」(新潮社)
インパルスの板倉さんの新作。といっても、私自身は板倉さんの本を読むのは初めて
なのですが。今回は、三作目に当たるようです。実は、一作目の時も読みたいなーと
思いつつ結局読み逃し、二作目はミステリーと聞いて再び読みたいなーと思いながらも
やっぱり読む機会がないまま今に至っていて、ずっと気になってる存在ではあったの
ですよね。で、今回は図書館の新着情報に載っていて、あらすじ読んだら面白そう
だったので、予約してみました。結構予約入ってたんで待たされましたね。
いやいや、なかなかどうして。良い作品じゃないですか。思った以上にしっかりした
文章ですし、ミステリとしての構成も巧い。主人公が少年なんで、青春小説としても
読ませる部分があるし。日食や炎といった小道具の使い方も効いている。普通に小説家
が書いた作品として読んでも違和感なかったと思います。やっぱり、お笑いの人って
基本的に頭が良いんでしょうね。回転が早いというか。アイデアがあるというか。
板倉さんって、お笑いの時はクールな印象があって、そんなにいい人って感じしない
んだけど、作品はとても温かかった。いや、途中の展開は、とても辛いし悲しい。
痛ましい出来事もあるし、子どもが経験するにはハードな展開だと思う。でも、
その裏にあるのはひとつの優しい気持ちだけ。ある人を守りたいという主人公の想いに
胸が締め付けられる気持ちになりました。
正直、途中から事件のからくりにはほとんど予想がついてしまった。それは私が
ミステリを読み慣れているせいだと思うんですけど。もちろん、騙されたところも
あります。三件目の放火の犯人がわかった辺りは驚かされましたし。ただ、犯人が
その人物だとわかった時点で、だいたいのからくりが見えてしまった。なぜ放火
したのかも。最初から、ある人物の家庭での様子については見当がついていたので。
でも、からくりが見えたとしても、その後の犯人の告白に心を打たれました。
なんて、強いんだろうか。日食の比喩の使い方も素敵だった。ラストシーンで、
帽子を取って行くところがとても好き。いつか取り返しに行くという約束も。
それが果たされる日がいつか来るといいと思う。二人がずっと繋がっていると
思えるラストが嬉しかったです。
切ないけれど、光の見える終わり方で良かったです。
何より、主人公の弦太のキャラがほんとに良かった。亡き父親の『何かを迷ったときは、
損得勘定を捨てて一番正しいと思うことを選べ』という教えをしっかり守っている
ところも良かったです。『嘘にはいくつかある。自分を守るためにつく卑怯な嘘と、
誰かを守る為につく優しい嘘。男が使っていいのは2つ目だけだ』という言葉にも
ぐっと来たな。弦太のお父さんは、本当に正しくて立派なひとだったんだと思う。
弦太の友だちの涼介や隼、ミニ四駆の師匠といった脇役キャラも光ってましたね。
師匠の言動がやたら怪しかったから、いろいろ勘繰ったりもしたんだけど。その
辺りは、作者の思惑通り、うまいことミスリードされてたなぁ。
又吉さんが絶賛していたらしいですね。納得。読み逃している前二作も機会が
あったら読んでみたくなりました。