ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

西澤保彦「逢魔が刻 腕貫探偵リブート」(実業之日本社)

f:id:belarbre820:20200208212542j:plain

久しぶりの腕貫探偵シリーズ。リブートってついてるけど、どういう意味が

あるのかな、と調べてみると、パソコン用語で再起動って意味だそう。

コンセプトや解釈を変えて作品を作るって意味があるらしい。ってことは、最初の

シリーズとは微妙に設定が変わってるってことなんですかね。読んだ限り、どこが

どう変わっているのかよくわからなかったけど。そもそも、腕貫探偵自体の

出番がおそろしく少ない。収録四作中、本人が登場したのは最終話のみな上、

それも本当にちょこっと最後に登場するくらい。そういう扱いにするって

意味のリブートなのか?^^;どちらかというと、スピンオフとかって言われた

方がわかりやすい気もするんですけどね。ほとんど名前(というか、ユリエの

愛しのだーりんという呼び方で)しか出て来ないのだし。

今回も予想を裏切らず(^^;)、当然の如くにビアンやらゲイ要素は入って

おりました。ユリエがノーマルなセクシュアリティを持っているのだけが救い

ですかね。ただ、愛しのだーりんとは全然進展もなさそうですけど。

作品としては、やっぱり表題作が一番意外性のあるラストで面白かったかな。

ユリエに恋する同じ大学の講師の男が、なぜか外食先でユリエたちのグループ

と遭遇することが続いてしまい、ストーカーだと思われないか案じる。この

講師は二十年以上前に両親が離婚し、複雑な家庭環境で育っていた。そんな中、

両親が離婚して以来一度も会ったことがなかった父が亡くなり、通夜と葬儀に

出るため故郷を訪れることに。すると、父の実家を警察が取り囲んでいて――。

なかなかに複雑なからくりなんですが、よくできていると思います。主人公の

伯母の殺害事件の真相にも驚いたけど、ラストで判明する、主人公の幼少時の、

子供の連続事故死の真相には更に驚かされました。特にその動機。無邪気ゆえに

恐ろしい。その事実を忘れちゃってたのにも驚きましたけどね。

ミステリとしては面白いのだけど、どうしてもちょこちょこ出て来るセクシュアル

問題が邪魔をして、なかなか作品の正当な評価が下せない。西澤作品はそんなの

ばっかりなんですよね・・・。

あと、三作目の『マインド・ファック・キラー』は、どうしてこれをこの

作品集に入れたのか疑問を覚えるくらい、腕貫さんどころかユリエすら出て

来ない。ただ、舞台が櫃洗市ってだけでシリーズにされても。真弓の正体には

びっくりしたけどさ。

やっぱり腕貫さんをもう少し生かして欲しいなぁ。スピンオフとかなら

これでいいのだろうけど、リブートってつけたのであれば。ユリエとその仲間

とかはどうでも良い。腕貫さんとユリエの物語の方が読みたいです。何なら

ユリエもいなくてもいいくらい。本来の腕貫シリーズがどんなだったかも

もうあんまり覚えていないのだけれど。もうちょっと腕貫さんが推理してたと

思うのよね。できればそっちよりの作品をお願いしたいです。