ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

西澤保彦「異分子の彼女 腕貫探偵オンライン」(実業之日本社)

腕貫探偵シリーズ最新作。不定期に出るせいなのか、毎回作風が変わる不思議な

シリーズなんですが、今回もまたちょっと趣向が変わってましたね。ついに、

腕貫探偵シリーズにもコロナ禍が反映されることになりました。神出鬼没で

どこに設置されるか予測出来ない腕貫さんの出張所でしたが、コロナ禍を受けて、

ついにモニターでのリモート出張所になりました。あとがき(これもめずらしい)

で西澤さんがおっしゃっている通り、そもそもが安楽椅子探偵的な作品なので、

リモートでも何ら問題ないんですよね。腕貫さんって、話を聞くだけで大抵の

推理が出来てしまうのですから。もともとのキャラクターも無機質な印象があります

しね。相談者は画面越しに腕貫さんに相談する訳ですが、何ら違和感なかったですね。

三作収録されていますが、1作目3作目は、最近の西澤作品の例に漏れず、随分昔

の過去の事件を、記憶を頼りに腕貫さんに話し、謎の真相を解き明かしてもらう

という体裁。2作目だけは珍しく現実に起きた殺人事件を扱っていますが。ちょい

ちょいツッコミところはあるものの、記憶を掘り起こして事件をおさらいしながら、

少しづつ真相に近づいて行く過程は、読んでいて面白い。ただ、どのお話もなかなかに

複雑な背景が絡み合っているだけに、ちょっと理解するのが大変なんですよね。登場

人物も結構多いですし。しかも、その登場人物が、結構理解できない考え方する人

が多くて。こういう時、こんな考え方になるか?ってツッコミたくなるというか。

まぁ、西澤さんのキャラって、ほとんどがそういう人物ばっかりなんだけど(苦笑)。

というか、まともな人がほとんど出てこないって言っても過言じゃないのでは。

だってさ、そもそもね、市役所の市民出張サービスの役人に、殺人の相談しよう

って、普通の人は考えないよね?どんな相談も承りますと謳っているとはいえ、

十年以上も前に起きた殺人事件の真相を相談って、あり得ないでしょう^^;

だって、役人に相談したところで解決してもらえる訳がないって思うのが普通

じゃない?

って、そこをツッコんだらもう、このシリーズ自体を否定することになるんだけどさ。

そこで相談しちゃうこと自体がもう、その人変わってるって思うのよね。

とはいえ、ミステリとしては良く出来てるのでね。まぁいいんですけどね(いいん

かい)。

特に3話目は驚かされたな。終盤読むまで、これ、腕貫探偵シリーズなの?って

疑問を覚えながら読んでたんですけど。終盤、ちゃんと出て来ます。三作の中では

一番の中編なので、中盤まで中だるみする感じがあって、なんかだらだらしてるなぁ、

どう収拾つけるんだろ、って思ってたんですが、終盤、一気にからくりがわかって、

そういうことだったのかぁ!って目からウロコの気分でしたね。ミサキちゃんの

正体にはびっくりしたなぁ。全然、そこに考えが至らなかった。とても緻密に

考えられててさすが、と思いましたね。

ひとつ、残念だったのは、リモート形式にしたことで、ユリエさんの出番が全く

なかったこと。これは作者ご自身が釈明されていたのですけれどね。やっぱり、

ユリエさんの『だーりん』がないと、このシリーズはちょっと盛り上がりに

欠けちゃいますよねぇ。次回以降はまた登場するそうなので、そちらに期待したい。

そしてそして、今回一番個人的にびっくりしたことがあります。それは・・・

 

ユリ要素が一切出て来なかった  

 

ことですっ!!!いやいや、一体いつぶり?一作読むごとに、次は出て来るのでは、

とヒヤヒヤしながら読み進めていたんですが、最後の最後まで一度も出て来なかった。

まぁ、3話目でちょっと特殊な性癖のある人物は出て来るのだけど。○ズではない。

というか、セクシャルマイノリティー要素が全くなかったんですよ。

どうしちゃったんだ、西澤さんっ!?って思ったんですが、その理由はもしかしたら、

あとがきで触れられたコロナに関する出来事に一因があるのかもしれないです。

かなり意味深な書き方されていたからなぁ。もしかしたら、西澤さんのブレーン的な

方がいらして、その方がコロナによって離れたことで、ユリ的要素が入らなく

なった・・・とか。深読みしすぎかなぁ。

まぁ、何にせよ、久しぶりにノーマルな西澤作品が読めて嬉しかった。そこが

いつも引っかかってたからさ。でもなかったらなかったで、ちょっと心配に

なったりもするんだけどね。なんか、西澤さんらしさがなくなってしまう気もして。

て、どっちなんだよw