天才囲碁棋士・牧場智久シリーズというので、借りてみました。竹本さんといえば、
ちょっと前に出した『涙香迷宮』で再評価され、話題になりましたね。ミステリ
大賞なんかも獲りましたし。ただ、あの作品のような重厚さを期待して本書を
読むと、かなり食い足りなさを感じるかもしれません。さらに、私のように
牧場シリーズだと思って手に取った人間は、牧場君の登場シーンのあまりの
少なさにがっかりしてしまうこと必至。ただ、『涙香迷宮』で読みにくさに
挫折した方だったら、こんな軽めの作品も書けるんだ、というプラスの評価に
転化する可能性はありそう。一見何の脈絡も関係もなさそうな、いくつかの
怪談話や都市伝説が、最後にきっちり一つにつながって行くところはさすがだと
思いましたしね。
でも、前半の展開がだらだらしているので、途中ちょっと中だるみする感じは
否めない。牧場シリーズと銘打っている割に、牧場君は対局の準備で忙しくて
ほとんど出て来ないので、牧場君の見せ場もないし。あくまでメインで捜査
するのは小田原署交通課の楢津木に、同僚の岩淵と北条(薫子)の三人。
居酒屋で飲み食いしながら捜査情報をやり取りするので、居酒屋探偵団と
名付けて捜査して行くところは面白かったけど。牧場君は、楢津木の顔馴染み
だった為、アドバイザー役として登場。楢津木は、牧場君のちょっとした
アドバイスをすべて鵜呑みにして、その通りに捜査を進めて行くので、相当
牧場君に心酔している感じがしました。まぁ、結果すべてが上手く行く訳
なので、やっぱり牧場君さすが!みたいな感じにはなるんですけど(苦笑)。
電話で話を聞いただけでほとんどすべてを見通してしまう牧場君は、やっぱり
天才だと思いました。ほんとに18歳か・・・。牧場君の出番がほぼないので、
当然ながらガールフレンドの類子ちゃんも出て来ないのが残念だった。美少女
剣士と美少年棋士という、見目麗しいお似合いのカップルなので、出て来ると
絵面も華やかになるのにねぇ。
前半のホラーテイストが、後半一気にミステリに変化して行くところは良かった
です。でも、やっぱり『涙香~』と比べちゃうと、ちょっと読み応えがなかった
かな。