ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

三浦しをん「むかしのはなし」(幻冬舎文庫)

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はるか昔に買った積ん読書庫の一冊。ヤフーブログ時代にやり取りさせて頂いて

いたブログのお仲間さんがとても好きだと言っていたので、買ってあった作品。

その方、途中からコメント欄を閉じてしまわれたので、全然交流がなくなって

しまっていたのですけれど(当然ヤフブロがなくなった後どうされているのかは

不明)、どうされているかなぁ。

自分でも買ったことすら忘れていたのですが、読む本を探して本棚を物色して

いたら見つけたので、この機に読んでみることに。

しかし、思っていた内容とは全く違っていましたねぇ。日本昔話を現代風にアレンジ

したら?をコンセプトにした7作の短編集。各作品の冒頭に下敷きにした昔話の

さわりが載っていますが、これはほぼ元ネタとは違うものと思った方がいいですね。

ちなみに元ネタ作品は以下。

『ラブレス』→『かぐや姫

『ロケットの思い出』→『花咲か爺』

『ディスタンス』→『天女の羽衣』

『入江は緑』→『浦島太郎』

『たどりつくまで』→『鉢かづき

『花』→『猿婿入り』

『懐かしき川べりの物語せよ』→『桃太郎』

 

最初の三つぐらいを読んでいる時は、全くばらばらの作品だと思ってたんですが、

四作目の『入江は緑』を読んで、微妙なリンクに気づき始めました。なかなか

トリッキーなリンクの付け方だなぁと思いました。普通に短編としても読むことが

できるけれど、一冊読むとそれぞれの話が一つの方向性に向かっているのがわかる。

根底にあるのは、あと数ヶ月で地球に隕石が衝突し、人類が滅亡する予定だが、

選ばれた1000万人だけはロケットに乗って火星や木星に逃げることができる、

というもの。衝突の前に死んでしまう運命の人間もいれば、幸運にもロケットに

乗るチケットを入手した人間もいる。でも、大部分はそのまま地球に残って隕石

衝突と共に地球滅亡の巻き添えになる。それぞれの作品は、地球が滅亡した後で

それぞれの話がどんな風に『昔話』として語られるのか、という体裁を取っている。

それぞれの話はそれほど強く印象に残るようなものはないのだけど、壮大な

テーマが隠された連作短編集として読むと、なかなか面白い。各作品の微妙な

リンクを探すのも楽しいですし。一作目に出て来たヤクザの情婦の子供がラスト

の作品で高校生となって登場したり、二作目の、川から流されて来た子犬(ロケット)

を流した犯人がラストの作品に出て来た主人公の高校生であることが判明したり。

私が気づいていないリンクもちょこちょこありそう。相関図作りたいくらい(笑)。

読んでいて楽しいお話はほとんどありません。どちらかというと、救いのない

オチの作品の方が多い。なんせ、もうすぐ地球が滅亡しちゃうって設定なのです

から。結局、実際隕石が衝突したのかどうかはわからないけれど、ロケットに

乗って地球から脱出した人によって、これらの話が『むかしのはなし』として

誰かに伝わって行くのは間違いないのかもしれません。

荒唐無稽な設定なので、ちょっと物語に入って行けないところもあったけど、

試みとしては面白い作品だな、と思いました。