ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

藤崎翔「あなたに会えて困った」(双葉社)

f:id:belarbre820:20200729194812j:plain

藤崎さん最新作。ついつい読んじゃう藤崎さん。今回もなかなかにトリッキーな

作品でしたね。空き巣で前科二犯の善人(よしと)は、二年の懲役を経て出所

したばかり。お金も帰る場所もない善人は、同じ空き巣仲間のスーさんを頼って

東中野にやって来た。スーさんのボロいアパートにまだスーさんは住んでいて、

しばらくいてもいいと言ってくれた。その上、いい『物件』まで紹介してくれた。

スーさん自身はしばらく旅行に行くから留守にするので、その物件を譲って

くれるという。とにかく生活するお金がほしい善人は、その物件に忍び込むことに。

忍び込んだ物件はかなりの大豪邸。しかもそこは幼馴染で、善人の初恋の相手、

マリアの家だった。後日、偶然を装って再びマリアの家に近づくと、二人は再会し、

旧交を温め合う仲に。しかしマリアは結婚していて、しかも相手は同じく幼馴染の

タケシだったのだ――。

中盤までは何てことのない、初恋の人との再会の物語で、過去の出来事と現在が

交互に語られます。ここがちょっと長いので中だるみする感じは否めませんが、

終盤のドンデン返しで、一気に物語が反転します。なるほど、そういうからくり

だったのかー!って感じ。マリアの言動がちょっと嘘くさい感じはしたんですよねぇ。

どこかに、何か仕掛けがあるんじゃないかとは思っていたのですけど。私は完全に

騙されていたなぁ。まぁ、オーソドックといえば、これ以上ないくらいオーソドックス

な騙しの手法ではあるので、仕掛けに気づく人はすぐ気づいてしまうのかも。前に

戻って読み返してみると、たしかに微妙な言い回しを使って巧妙に書かれているのが

わかります。単純な人なら(私です)痛快に騙されるのではないかな。なんだかんだで

藤崎さんの構成力でいつも騙されてしまう私・・・。

ラスト、思わぬ感動もありましたし。まぁ、こんな回りくどいやり方しなくても、

他にいくらでも方法があったんじゃないかとは思いましたけど・・・(苦笑)。

文章力があるとはあんまり思わないのだけど(すみません・・・)、ちょっと

おマヌケな世界観が結構好きで、ついつい新刊が出ると読んでしまう作家さんに

なりつつあります(ちょっと東川さんに対する好意と似ているかも)。

次はどんな作品で驚かせてくれるのかな。楽しみにしておこう。