藤崎さん最新作。ついつい読んじゃう藤崎さん。今回もなかなかにトリッキーな
作品でしたね。空き巣で前科二犯の善人(よしと)は、二年の懲役を経て出所
したばかり。お金も帰る場所もない善人は、同じ空き巣仲間のスーさんを頼って
東中野にやって来た。スーさんのボロいアパートにまだスーさんは住んでいて、
しばらくいてもいいと言ってくれた。その上、いい『物件』まで紹介してくれた。
スーさん自身はしばらく旅行に行くから留守にするので、その物件を譲って
くれるという。とにかく生活するお金がほしい善人は、その物件に忍び込むことに。
忍び込んだ物件はかなりの大豪邸。しかもそこは幼馴染で、善人の初恋の相手、
マリアの家だった。後日、偶然を装って再びマリアの家に近づくと、二人は再会し、
旧交を温め合う仲に。しかしマリアは結婚していて、しかも相手は同じく幼馴染の
タケシだったのだ――。
中盤までは何てことのない、初恋の人との再会の物語で、過去の出来事と現在が
交互に語られます。ここがちょっと長いので中だるみする感じは否めませんが、
終盤のドンデン返しで、一気に物語が反転します。なるほど、そういうからくり
だったのかー!って感じ。マリアの言動がちょっと嘘くさい感じはしたんですよねぇ。
どこかに、何か仕掛けがあるんじゃないかとは思っていたのですけど。私は完全に
騙されていたなぁ。まぁ、オーソドックといえば、これ以上ないくらいオーソドックス
な騙しの手法ではあるので、仕掛けに気づく人はすぐ気づいてしまうのかも。前に
戻って読み返してみると、たしかに微妙な言い回しを使って巧妙に書かれているのが
わかります。単純な人なら(私です)痛快に騙されるのではないかな。なんだかんだで
藤崎さんの構成力でいつも騙されてしまう私・・・。
ラスト、思わぬ感動もありましたし。まぁ、こんな回りくどいやり方しなくても、
他にいくらでも方法があったんじゃないかとは思いましたけど・・・(苦笑)。
文章力があるとはあんまり思わないのだけど(すみません・・・)、ちょっと
おマヌケな世界観が結構好きで、ついつい新刊が出ると読んでしまう作家さんに
なりつつあります(ちょっと東川さんに対する好意と似ているかも)。
次はどんな作品で驚かせてくれるのかな。楽しみにしておこう。