ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

原田ひ香「古本食堂」(角川春樹事務所)

最近人気のある原田さんに初挑戦。新着図書案内でタイトルを見かけて、面白そう

だと思って予約しました。早めに予約しておいたので、比較的早く回って来て

良かったです。話題になっている『三千円の使い方』は、いろんなメディアで

紹介されているせいか、気になりつつも、予約がエライことになっていて

諦めたので^^;

タイトルから、古本屋と食堂が一緒になったお店のお話なんだろうな、と思ったの

ですが、ちょっと違ってました。古本屋のお話なのは間違いないのですが、食堂

はついていません。では、なぜタイトルが古本食堂なのか?それには二重の意味が

込められていると思われます。それはまぁ、読んでからのお楽しみということで。

美味しいものがたくさん出て来るのは間違いないです。あと、舞台になる街が、

あの古本屋の街、神保町というのも大きなポイントの一つでしょうかね。

神保町は、大学時代やフランス語の語学学校に通っていた二十代半ばの頃には、

ちょくちょく行っていました。あの古本屋街を歩く時の興奮は、今でもよく覚えて

いますね。本好きなら、誰でもあの街の雰囲気が好きになると思うな。もう二十年

近く行っていないけど、今はどうなっているのかな。書店がどんどんなくなって

いる今、古本屋だって同じように閉店の嵐になっていたりするのだろうか。それは

ちょっと切ないけれど。

今回の主人公は世代の違う二人の女性。一人は急逝した兄・滋郎の古書店

引き継ぐ為、北海道から上京した鷹島珊瑚。古本の知識はほぼゼロだが、兄が

大事にしていた神保町の鷹島古書店をそのままにすることはできず、取り敢えず

見よう見まねで店主としてお店を開くことに。

もう一人は、滋郎の義理の姪に当たる母親から、鷹島古書店の様子を見て来いと

言われ、古書店を訪れるようになった国文科の大学院生・美希喜。実は、滋郎の

生前、美希喜は何度か鷹島古書店を訪れ、会話を交わしていた。美希喜にとっても、

鷹島古書店と滋郎は特別な存在だったのだ。

珊瑚と美希喜、二人の視点から物語は交互に語られます。なぜか、六十歳を超えた

珊瑚の一人称が『あたし』で、大学生の美希喜の一人称が『私』という。こういう

ところに、二人の性格が出ているように思う。還暦を過ぎた年齢だけど、北海道

から出て来て、どこか世間知らずな、のほほんとした性格の珊瑚さんと、大学院生

ながら、将来のことに悩むしっかり者の美希喜ちゃん。

二人が鷹島古書店で店番をしていると、なぜか個性溢れる客が本を探しに訪れる。

そこで、二人は知恵を絞って、その客に合いそうな本を考える。出て来る本も

食べ物も、バラエティ豊かで、読んでいてワクワクしました。

出て来る登場人物もちょっと癖があるけど良い人ばかりで、読んでいてほっこり

しました。美希喜の母親の欲深さというか、計算高さには辟易したところもあり

ましたけど。あの母親から、よく美希喜のようなまともな子が育ったなぁ。まぁ、

美希喜も若干計算高い所がなきにしもあらずだったりするから、血は争えない

とも云えるけれども。でも、それは自分のやりたいことに対しての計算高さだから、

母親とは全く種類の違うものですけどね。

ちょっと世間ずれしているところもあるけど、珊瑚さんの育ちが良さそうなおっとり

した性格は好感持てました。両親の介護をたった一人でやり遂げて、きっとたくさん

苦労も辛い思いもしてきたと思うけれど、全くそういう空気を見せないところは、

意外と芯の強いところがあるんだろうな、と思えましたし。珊瑚さんの恋の顛末

にはドキドキさせられましたけど、奥手な珊瑚さんが最後に幸せになれてほっと

しました。相当な遠距離になるけど、今後はどうするつもりなのかなぁ、とも

思ったりするけれど、あの二人のことだから、遠距離でも文通とかメールとかで

心を通わせて行くのだろうな。いづれは珊瑚さんは北海道に帰りそうな気も

するしね(お店は後継者ができましたからね)。

美希喜の三角関係の方にも、やきもきさせられましたけど、こちらはまだまだ

結論は出そうにないのかな。まぁ、どちらが優勢かは明らかな気もするけれど。

ラストは、鷹島古書店にとっても、珊瑚さんにとっても、もちろん美希喜にとっても、

幸せな結末になって良かったです。

神保町の雰囲気も良かったな。久しぶりに神保町をそぞろ歩きたくなりました。

本好きにとっても、美食好きにとっても、お仕事小説好きにとっても楽しめる

お得な一冊でした。オススメです。