ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

芦沢央「僕の神さま」(角川書店)

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読んだり読まなかったりの芦沢さん。これはなんとなく食指が動いたので、

借りてみました。主人公が小学生だから、ジュヴナイルと云ってもいい作品です。

タイトルといい、キャラクターといい、麻耶雄嵩氏の神様シリーズを彷彿とさせる

作品でしたね。こちらも小学生が主人公にしては、かなりブラックよりですし。

ただ、麻耶さんほど突き抜けた黒さではないですけど。あれはもう、読んだあと

しばらく引きずるくらい後味が悪かったですからね・・・。

主人公はクラスの中でも地味めな少年、僕。僕のクラスには、困ったことが

起きると何でも解決してくれる『神さま』の水谷くんがいる。ある日、僕は

亡くなったおばあさんが亡くなる前、最後に作った桜の塩漬けが入った瓶を落として、中身をぶちまけてしまう。おじいさんが春になると桜茶にして飲むのを楽しみに

しているのに。もうおばあさんはいないのに。困った僕は、頼りになる『神さま』

の、水谷くんに相談する。すると、正直に事実を告げて謝るか、買うか、おばあさんと桜の塩漬けを作った経験のある僕が、もう一度作る、の3つの選択肢を提示

してきた。僕は三番目の作るを選択した。桜の季節には少し早い気もしたが、

いつもおばあちゃんが桜の花びらをもらっていたお寺に行ってみると、一本だけ

満開の桜があり、そこから花びらを摘むことができた。家に帰って無事塩漬けを

作ることができたが、そのお茶を飲んだおじいさんに異変が起きてしまい――。

 

一話目を読んでいる時、どうもこのお話読んだ記憶があるなぁと思って、後ろの

初掲載のページを確認してみると、案の定、以前アンソロジーで読んだ作品でした。

短編として読んだ時は心温まるお話だなぁと思っていたのだけれど・・・その後で

ああいうお話に展開していくとは。帯の『一話目でやめれば良かった』と後悔

するほどじゃなかったけど、二話目の川上さんに関する二つの相談事から、物語は

一気にブラックな方向に進んで行くことになります。終盤、水谷くんの『殺していいよ』の言葉から、急に水谷くんという少年の得体の知れなさに冷水を浴びせられた

ような気持ちになりました。この少年は一体どんな本性を持っているのだろう、と

空恐ろしくなりました。その得体のしれなさが三話以降へとつながって行きます。

三話はまだ騎馬戦の戦術くらいでほのぼのしているけれど、ラスト一行で川上さん

に関する衝撃の事実を知ることになり、一気に突き落とされた気分に。そして、

川上さんに関する真実が明らかになる四話~エピローグへ。その前に、同じクラス

の黒岩くんが『呪いの本』にまつわる謎を水谷くんに持ちかけるのですが、

この呪いの本に関しても、途中で衝撃の事実が明らかになります。まぁ、ここの

仕掛けに関しては、ミステリ読みなら気づく人も多いかもしれませんが。

エピローグで川上さんに纏わる謎の伏線もほぼすべて回収されます。最悪の事態

ではなかったことにほっとしましたが、水谷くんと僕の関係が崩れてしまったのは

残念だったな。ホームズとワトソンのいい関係だと思っていたのにね。水谷くんは

どこまでもブレない少年だった。正しい道をゆこうとするが故に孤独になってしまう

辺り、どこまでも名探偵らしい子だなぁと思いました。彼がもう少し大人に

なったバージョンも読んでみたいなぁ。きっといくつになっても、彼は誰かの

神さまのままなんじゃないかな。大人になったら本当の名探偵になるのかも

しれないな。

麻耶さんのシリーズほどの強烈なインパクトはないけど、連作短編集としてしっかり

まとまっていて、良く出来ているなぁと思いました。面白かったです。