ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

下村敦史「同姓同名」(幻冬舎)

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下村さん最新作。下村さんの作品は読んだり読まなかったりで、本書も予約するか

迷っていた作品だったのですが、王様のブランチの本コーナーで紹介されていて

興味を引かれたので、予約してみました。

世間を震撼させた幼女惨殺事件が起きた。捕まった犯人は16歳。当初、犯人は

少年Aと報道されていたが、ある日週刊誌が実名の大山正紀』を報じた。すると、

犯人と同姓同名の大山正紀たちは、何も悪いことをしていなににも関わらず、

犯人と名前が同じというだけで周囲から差別的な目でみられるように。7年後、

ようやく世間が大山正紀の名前を忘れかけたと思われた時、刑期を終えて出所

した大山正紀を、被害者の父親が襲う事件が起きた。再び大山正紀の名が世間を

騒がせ、同姓同名の大山正紀たちを悪夢に陥れる。犯人の大山正紀に人生を

狂わされた同姓同名の大山正紀たちは、『”大山正紀”同姓同名被害者の会』を結成し、

意見を交換し合う。その中で、今後の対応策として、犯人と自分たちの顔が違う

ことを世間に認識させる為、犯人を捜し出してSNSで顔を晒そうという話になる

のだが――。

大山正紀』ってそんなにたくさんいそうな名前じゃないけど、ネット検索して

みると、意外といるものなんですかね。まぁ、たしかに私も自分の名前検索して

みたことはあって、同姓同名の人は何人か出て来た覚えがありますけど。ただ、

同じ学校の同じ学年に同姓同名の大山正紀がいたってのは、さすがに偶然が過ぎる

ような。まぁ、その辺りを突っ込んでしまうと、このお話自体が成立しなくなって

しまうので、そこはそういうものだと思って読むべきだとは思うのですけども。

ただ、登場人物が『大山正紀』ばっかりなので、途中でもう、誰が誰だかわからなく

なって来ちゃって。それぞれの大山正紀の転落人生なんかもひとつひとつ

追って行くので、『”大山正紀”同姓同名被害者の会』を結成するまでも長いし、

結成してからも、なかなか話が進まないから、とにかく読むのに時間がかかりました。

下村さんの作品、基本的にはいつもリーダビリティがあるので読み辛さを感じた

ことがなかったのですが、この作品に関してはすごく読みにくかった。途中で

読んでも読んでも終わらない地獄状態に・・・。前半部分なんかは、もっと省略

して、コンパクトにしても良かったんじゃないのかなぁ。なんか、無駄に長くて、

冗長にしか感じなかったな。

伏線回収とか、ミステリ部分は良くできているとは思うんですが、いかんせん、

大山正紀飽和状態で、からくりがわかりにくくて。最後は読み終わることが目的

になっちゃってました。そして、最後までなんだか読みづらかった。犯罪者と

同姓同名ってだけで迫害される人々がいるって事実を、今まで気にしたことが

なかったので、言われてみればそういうこともあるのかもしれない、という

気づきにはなりましたが。SNSというツールの恐ろしさも改めて感じましたし。

今まで愛着を持っていた自分の名前が、犯罪者と同じだったというだけで忌み嫌う

ものになってしまう、というのはとても悲しく、やりきれないものがあるな、と

思いました。

 

以下、ネタバレあります。未読の方はご注意を。

 

 

 

 

 

 

犯人がなぜ、被害者の女児をあそこまで猟奇的な殺し方で殺さなければならな

かったのか、その辺りの背景が端折られていたのはちょっと不満。幼女が好きで、

同級生の妹が可愛いという情報を得て近づこうとしただけの筈なのに、首が切断

できる程の凶器を持っていたっていうのにも首をひねらざるを得ませんし。何か

いろいろ腑に落ちなかったです。犯人自体は意外性ありましたけどね。

もうちょっとすっきり読ませてほしかったというのが正直なところでしたね。