ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

加藤シゲアキ「できることならスティードで」(朝日新聞出版)

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最近いろんな賞にノミネートされている加藤シゲアキ氏のエッセイ集。できれば

先に話題の『オルタネート』を読みたかったところですが、予約中で全然回って

来そうになく、相方が予約して回って来たこちらを先に読むことになりました。

本書をなぜ相方がいきなり予約していたのかよくわからなかったのですが、読んで

納得。タイトルのスティードに反応したんだろうな。バイクの知識がない私は

知らなかったのですが、スティード400ってホンダの古いバイクのことなんだそう。

その単語が、バイクが大好きな相方の琴線に触れたんでしょう。それに、先に

読んでいた相方が『面白いよ、読みなよ』ってしきりに薦めていたのもあって、

相方が夜勤でいない間に、二時間くらいで読了。結局相方より先に読み終えて

しまった(笑)。

加藤さんは大抵の方がご存知の通り、ジャニーズグループNEWSのメンバー。

アイドルとはいえ、その小説家としての評判はかねてから聞いていたし、信頼

しているブログ友達のゆきあやさんがかなり著作を褒めていたので、彼の本は以前

から読んでみたいと思っていました。できれば小説から入りたいところでしたが、

エッセイだけでも彼の文筆能力の高さは伺い知ることが出来ました。主に旅を

テーマにしたエッセイというのも私好み。行った国もそうでない国も、どちらの

体験談もとても興味深かったです。その土地に行って体験したことや感じたことを

素直に文章にしていて、好感が持てましたし、私も行ってみたい気持ちになりました。

旅以外のテーマでも印象深いものがいくつもありました。特に、お祖父さんや

ジャニーさんの死に関する回は、こころに響くものがあったな。どちらも大好きな

人には違いないのだろうけれど、苦手な人でもあり、相手から認知されていない、

という共通点があるところが面白い。まぁ、お祖父さんに関しては、認知症

あったから仕方ない部分も大きいのだけれど。かわいがってもらっていた存在から、

『あなたは誰?』って言われるのって辛いだろうな・・・。でも、ジャニーさんの

ダメ出しの『最悪だよ』は、『最高だよ』と等価交換できる言葉なのじゃないかな、

と思いました。きっと今の加藤さんの活躍は、空から『最高だよ』って言ってくれて

いるんじゃないかな。

旅行の話は、キューバスリランカとパリの回が印象に残りました。キューバ

以前に読んだオードリーの若林さんのエッセイでも出て来て、すごく気になってる

国。キューバに行きたがる人って、大抵がチェ・ゲバラに影響受けてますよね

(苦笑)。スリランカは全然ノーマークの国だったけど、魅力的な場所がたくさん

あるんですね。世界遺産も多いみたいだし。紅茶ってイメージしかなかったけど。

すごく行ってみたくなりました。でも、加藤さんが行った後からかなり国内情勢が

悪くなっているらしく。今のコロナ禍もあるし、いつか行けるようになる日が

来るだろうか・・・。

パリの回は、自分が行った時のことを思い出して懐かしかった。私も初めてパリに

行った時、加藤さんと同じマレ地区のホテルに泊まりましたし。夜に白く浮かび

上がるサクレ・クール寺院の美しさといったら。未だに強く覚えている光景です。

そして、ノートル・ダム寺院の炎上は、私にとっても本当にショックな出来事

でした。当時一緒に旅した仏文時代の友人が、ショックで翌日朝一でメールを

くれたくらい。やっぱり、あの場所を訪れたことがある人はみんな同じように

ショックなんじゃないかな。荘厳で神聖で、独特の雰囲気のある場所だから。

きっと、沖縄の首里城もそうだと思うけど。みんなが心の拠り所にしている場所が

傷つけられたり燃えてしまったりするのは、本当に悲しいことです。時間かかっても

いいから、再建して欲しいな・・・。

感心したのは、中に収録されている三つの鍵にまつわる短編小説が、エッセイの

最後にあっと驚かせる繋がりを齎す構成になっているところ。さすがに最後の

部分は創造なんだろうけど、この繋がりには素直にびっくりした。あの鍵が

まさかここでこんな形で登場するとは!と。果たして、このマネージャーは実在

するんでしょうか?こういうトリッキーな構成ができる辺り、只者じゃない作者

だぞ、と思わされました。話題になってる『オルタネート』読むのが楽しみに

なってきました。その前に他の作品にも手をつけてみようかなぁ。