ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

三津田信三「歩く亡者 怪民研に於ける記録と推理」(角川書店)

三津田さん新作。また三津田シリーズなのかな、と思いながら読み始めたのですが、

予想に反していきなり刀城言耶の名前が出て来たので、えぇ、これって刀城シリーズ

だったんだ!と嬉々としながら読み進めるも、読めども読めども言耶は出て来ない。

名前だけはちょいちょい出て来るのだけど、常に本人は不在。で、二作目読んだ

時点で、これは言耶の出て来ない、シリーズスピンオフになるのだな、と遅まき

ながら理解した次第。その代わり、瞳生愛ちゃんという女子大生と、大学講師の

言耶の代わりに、研究室の留守を任されている天弓馬人という作家が主役コンビを

務めます。ちなみに、言耶は京都の無明大学の非常勤講師という不安定な立場

ながら、特例で研究室を与えられた為、そこを『怪異民俗学研究室(通称怪民研)』

と名付け、自らの膨大な書籍や蒐集品等の保管場所にしている。ただし、本人は

ほとんど不在(フィールドワーク等で出回ってる人なんで)な為、この大学の

卒業生であり、若手小説家の天弓が、膨大な蔵書や蒐集品の管理を担う代わりに、

この部屋を自由に使っていい許可を得ている、という形。図書館の地下という

ほとんど人が来ない静かな場所なので、小説執筆にはもってこいってことなんで

しょうね。この天弓が、今回は謎解き役。大学生の愛ちゃんから持ち込まれる

怪異譚を、怖がりの天弓が、なんとか論理的な解釈で現実の事件にしようと試みる。

頭脳明晰だが極度の怖がりでビビリの天弓と、そんな天弓の様子に母性本能を

くすぐられ、ついつい意地悪してしまう天邪鬼な女子大生愛ちゃん、二人の

やり取りがなかなか面白かったです。良いコンビ!と思っていたら、ラストで

思わぬ他シリーズとのリンクが明かされて、かなり驚かされました。とはいえ、

そっちのシリーズ、私は一作か二作くらいしか読んでないので、そうなんだ~

くらいの感想だったのですが^^;そっちのシリーズ追いかけてる人にとっては、

刀城シリーズとこんな繋がりがあるんだー!と嬉しくなるんじゃないかな?

天弓による怪異譚の現実的解釈に関しては、かなり強引なところもあるけど、

なるほど!と思えるものも多かったです。絶対怪異とは認めない、という姿勢で、

怖い話を怖くなくそうと頑張る天弓の姿は、確かに、愛ちゃんじゃなくても、

嗜虐的な感情を抱いてしまうかも(笑)。なんかこう、もっと怖がらせたい、

という気持ちにさせてしまうというかね。三津田さんのキャラには今までいなかった

タイプじゃないかなぁ。刀城言耶と天弓の出会いってどこかでもう書かれている

のかな?全然覚えていないという・・・。

怪異とミステリの融合という意味では、刀城言耶シリーズほどの完成度はないものの、

さすが三津田さん、という面白さはありました。

 

軽く各作品の感想を。

第一話『歩く亡者』

亡者道(ぼうもんみち)という名前だけで通るの嫌になっちゃいますよねぇ。

愛が亡者道ですれ違った怪異(海坊主)の正体には戦慄。殺人犯の正体も。ちゃんと

伏線が張ってあって、なるほど、と腑に落ちました。それにしても、大胆な犯行

だなぁと思いましたけど。

 

第二話『近寄る首無女』

本で繋がった少年二人の爽やかな友情譚の裏で、悍ましい犯罪が行われていました。

可哀想なのは、語り手の和平少年ですね。首無女の怪異には遭うわ、せっかく

出来た親友とも切ない別れを経験するわで。真相が解明されなければ、美しい

思い出のままであったであろうその別れも、最後全く違う意味を持つことが判明

してしまったしね。それにしても、犯人の犯行、アクロバティック過ぎないか?

確かに運動神経は良いのだろうけど・・・ちょっと無理があるようなとは思いまし

たねぇ。

 

第三話『腹を裂く狐鬼と縮む蟇家』

これは、一見無関係に思える三つの怪異が、ラストで天弓によって一つに

繋がるところに驚かされました。そういうことかー!と目からウロコの気持ち

でしたね。確かに、説明されると、ちゃんと腑に落ちる。これは素直にお見事!

と思いました。子供の腹を裂いた理由には戦慄しましたけども。

 

第四話『目貼りされる座敷婆』

他の怪異譚に比べると、ちょっと怖さが控えめ。殺人も起きないしね。座敷童子

ならぬ、座敷婆というのは初めて聞いたなぁ。それはそれで怖いけど^^;

大学の『妖怪研究部』のメンバー5人で、妖怪体験旅行と称して、座敷婆が

出るという婆喰地地方の老夜温泉の大数見荘という旅館に泊まり、そこで女子

学生が奇禍に遭う話。会長でもあり、会のマドンナでもある泰加子に危害を

加えた犯人は、思った通りの人物ではありました。ただ、ラスト一行で明らかに

なる、犯人のその後にぞっとしました。妖怪好き女子の二人の会話は、京極さん

だったらニヤニヤしながら読みそうだな、と思いました(笑)。

 

第五話『佇む口食女』

市井の民俗学者、東季賀才が体験した、山路で出会った、口が耳まで裂けた

気味の悪い女の怪異とは?なぜ、その村の人々は、その存在を口にしようと

しないのか――。

この作品だけ謎解きは愛が担当。村の人が◯◯◯で死んだ人をよそ者に隠そうと

する心理はわかりますね。東季賀才の正体には、説明されるまで全然気がついて

なかったです。ちょっと考えればそれ以外ないのにねぇ。いくつ名前あるんじゃい。

先に述べましたが、ラストで他シリーズとのリンクが明らかに。愛と天弓のその後

の関係もわかって、ニンマリ。その経緯をもっと知りたい!

これはまた新たなシリーズが展開していくと思って良いのかな~。この二人の

コンビはなかなか楽しかったので、また書いて頂きたいな。