ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

加藤シゲアキ「オルタネート」(新潮社)

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直木賞候補になり、本屋大賞候補になり、吉川英治文学新人賞を受賞したという、

華々しい経歴を更新し続けている話題の作品。

加藤さんの作品はエッセイ一冊しか読んだことがないので、ちゃんとした小説は

初めて読みました。

高校生だけが参加できるマッチングアプリ『オルタネート』を題材にした青春群像

小説。メインの登場人物は三人。一人目は円明学園高校三年で調理部部長の新見蓉

(にいみいるる)。高校生の料理コンテスト『ワンポーションで優勝するのが目標。

二人目は円明学園高校一年の伴凪津(ばんなづ)。オルタネートで運命の人と出会う

ことを夢見る。三人目は大阪の高校を中退し、バンドをやる為に上京したドラマーの

楤丘尚志(たらおかなおし)。小学生の頃に知り合ったかつてのバンド仲間、安部豊

に会いに円明学園高校までやって来るが、豊はすでにギターを辞めていた。

三人三様、それぞれの青春模様が描かれて、なかなか爽やかな作品でした。ただ、

中盤までは三人の繋がりも見えてこないし、題材となっているオルタネートが

生かされているのは凪津パートくらいだし、一体何が書きたいのかわからず、

なかなか入っていけなかったです。肝心の、高校生限定マッチングアプリ『オルタ

ネート』という設定も、遺伝子レベルの相性までが入って来て、さすがにやりすぎ

感があって引いてしまったし。特に、その遺伝子レベルでマッチした運命の相手

との出会いに振り回される凪津の言動には、全く共感出来るところがなかったです。

運命のはずの相手が好みのタイプではなかったからといって、あからさまに冷たい

態度を取るところにもムカムカしましたし。マッチングの結果が誤りだとわかり、

その相手よりも更に相性の良い相手と巡り合うと、ころっとそちらに乗り換えたり。

最初の相手が半ストーカーみたいな状態になるところは恐怖を覚えましたし(相手に

その気はないとはいえ)、その彼との結末に至る経緯もちょっと理解不能だった。

オルタネートという設定が一番効いている凪津パートが個人的には一番ハマら

なかったです。

ただ、他の二人のパートは、逆にオルタネートという設定がなくても成立する物語

ではないの?という不満も覚えました。というのも、蓉はもとからオルタネートを

やるつもりがない人物だし、尚志は高校中退したことによって、オルタネートを

やる権利を失ってしまった人物(運営側がどうやってそれを知り得るのかは謎でした

が)。二人とも、オルタネートをやっていないという設定なのです。二人それぞれの

物語はそれなりに面白く読んだのですけれども。

これなら、タイトルは『オルタネート』じゃなくてもいいんじゃないの?と終盤読む

までは思ってました。

 

以下、ラストに触れる描写があります。未読の方はご注意を!

 

 

 

 

 

 

 

ただ。最後の最後で、そこが上手くひっくり返るんですよ。オルタネートに

どっぷり嵌っていた凪津はオルタネートをやめて、オルタネートをやっていなかった

蓉と尚志は新たにオルタネートを始めることで、新たな人間関係が広がって行く。

この展開には、素直に膝を叩いて『上手い!』と言いたくなりました。最終的には、

ちゃんと三人三様、オルタネートという通信手段が彼らの人生に作用するような

展開になっている。

この辺りのテクニックはさすがだな、と思わされました。巷でこの作品が評価

されている理由も頷けました。

アマゾンのレビューは真っ二つではありましたけど、私は素直に面白いと思い

ましたし、加藤さんの作家としての力量は十分感じられる作品だと思えました。

文章も読みやすいけれど、ところどころではっとする表現がありますし、登場

人物の内面描写なんかも上手いと思います。アイドルが片手間に書いてる作品とは

一線を画す技量があるのは間違いないと思います。

ジャニーズということで、変なバイアスがかかって読まれることも多いとは思い

ますが、作家活動10年でこうしてコンスタントに作品が書き続けられるだけでも

すごいことです。しかも10年目でこうして評価される作品を出した訳ですし。

過去の作品も読んでみたいですし、これからの作家活動にも期待したいです。