ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

青山美智子「ただいま神様当番」(宝島社)

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少し前に読んだ『お探し物は図書室まで』がとても良かったので、出版当時

評判良さそうだったこちらも借りてみました。

うん、うん。良かった。めっちゃ癒やされ系のお話でしたね~。ある日突然腕に

『神様当番』という文字が記され、神様のお願いを叶えてあげる当番に任命されて

しまう人々の物語。心に憂いや悩みを抱えた人々が、神様のお願いを叶えようと

行動していくうちに、次第に心の憂いが払われて行く、という。この感じは、

『お探し~』の時と似ていますね。青山さんの作風はどれもこんな感じなのかな?

一人づつ主人公は変わるのですが、本書の中で選ばれた5人の人物たちには、ある

共通点があります。老若男女バラバラの彼らの共通点とは、毎朝同じバスの停留所

に並んでバスを待っていること。神様当番をするまでは、彼らはお互いにお互いを

意識することもなかった筈ですが、神様当番を通じてお互いの存在を意識するように

なっていき、終盤ではそれぞれが神様当番をやったことを知って、かなりの仲間意識

が芽生えて行くように。この辺りの、人と人との繋がりが出来て行く様子にも心が

温かくなりました。

何より、神様のキャラクターが最高ですね。全然神様っぽくない(笑)。ほんわか

したおじいさんってビジュアル。喋り方も全然威厳とかないし。話す内容も

子供みたいだし。でも言動は子供みたいだけど、ちゃんと神様はその人のことを

わかった上でお願いをしていて、主人公たちがそのお願いを叶えられた時には、

大事なことを教えてくれていたことがわかる。さすが神様!って思えました。

一人目の神様当番は、OLの水原咲良。神様のお願いは『わしのこと、楽しませて』

神様を楽しませるにはどうしたらいいのか悩む咲良。結局、自分が人生を楽しめ

なければ他人も楽しませることは出来ないってことなんですよね。

二人目の神様当番は、小学六年生の松坂千帆。神様のお願いは『最高の弟が欲しい』

千帆には三つ下の弟・スグルがいる。スグルは言動が下品で、千帆は常々こんな弟は

いらないと思って来たのだが・・・。結局、品行方正な完璧の弟よりも、本当の

血の繋がった弟の方がずっとずっと大事ってことですね。学校のうさぎの異変に

いち早く気づけたスグルは、本当によい子だと思いました。最高の弟ですよね。

三人目の神様当番は、高校生の新島直樹。神様のお願いはリア充になりたい』

直樹は、ツイッターでアザミという女の子とやり取りをしていた。ある日一瞬だけ

アザミが顔写真を投稿した。写真のアザミはすごい美少女だったのだが・・・。

アザミと直樹のやり取りが微笑ましかったです。青春だなぁ・・・。

四人目の神様当番は、大学の英語非常勤講師リチャード・ブランソン。神様の

お願いは『美しい言葉でお話がしたい』。リチャードは、大学の教え子たちが

自分の授業をつまらないと評していることを気にしていた・・・。神様が、美しい

言葉でお話したいと言った意味が最後に良くわかりました。リチャードとハヤトが

本音を話し合って理解し合えたシーンにぐっときました。若者だろうが誰だろうが、

ちゃんと自分の本音を話せばわかってもらえるってことですよね。

五人目の神様当番は、零細企業会社の社長・福永武志。神様のお願いは『わしの

こと、えらくして』。これまた抽象的なお願いですよねぇ。神様当番に任命された

ことで、自分を神だと勘違いしてしまう福永。社長として会社を引っ張って来た

自負があるだけに、ちょっと天狗になっている感はあります。そのせいで酷い

しっぺ返しを受けることに。これは、でも、さすがに福永が可哀想になりましたよ。

社員結託して退職までは仕方ないとしても、顧客の件はやりすぎ。退職した彼らが

その後どうなったのかがわからないままだったのは、ちょっと腑に落ちなかった。

というか、酷いことをした奴らに一矢報いるエピソードとかあったらもっと良かった

なぁ。でも、その裏切りがあったからこそ、福永は自分の奢りに気づけたし、また

一からやり直そうという気持ちになれたのだから、それはそれで良かったのかな。

事務の喜多川さんが、一話目で出て来た葵さんで、彼女がぷんぷくちゃんと言って

いた社長が福永だと気づいた時は、目からウロコが落ちた気持ちになりました。

しっかり伏線が回収されていますね。こういう繋がりが嬉しいな、と思いました。

葵さんの未来の夢は意外でしたけど。社長の片腕となって、叶えて欲しいな。

 

心温まる優しい物語集でした。青山さんの作品、どんどん読んで行こうっと。