第30回鮎川哲也賞受賞作。鮎哲賞は読んだり読まなかったりなんですけども、
これは内容紹介見て面白そうだと思ったので借りてみました。介護施設『あずき荘』
で介護士をしている明治瑞希(メイ)は、ある日利用者が撲殺されて倒れている
のを発見する。逃走した犯人と思しき人物を五人の人物が目撃していた。しかし、
逃走した犯人の服の色を聞いたところ、五人が五人とも違う色を答えた。一体
どういうことなのか――。
謎の提示がシンプルなので、読みやすかったです。ただ、それぞれのキャラ造形が
ちょっと薄いというか、あんまり共感出来るキャラがいなかったなぁ。メイの友人
ハルは、自分の好きな人の容疑を晴らしたいからという個人的な理由で、メイを
探偵活動に巻き込んで、嫌なことは全部メイ任せ。メイはメイで、婚約者がいる
人からの誘いに後ろめたさを感じながらも乗ってしまう流され体質。警察が容疑者
筆頭だと目したイツキ自身も、婚約者がいながらメイに気があるそぶりをしたり
する節操の無さがあるし。なんか、みんなそれぞれに好感持てないところがあるなぁ
と思って読んでました。特にイツキには、違和感しか覚えなかった。
犯人があまりにもわかり易すぎるので、まさかこのままの訳ないよなぁとは思いながら
読んだのですが・・・むむー。最後の最後で騙された!そっか、そりゃそうだよな、
なるほどー!って感じ。だからいろいろ違和感あったんだなぁ。五色の証言の違い
の謎に関しては、思った程感心出来なかったけど。でもまぁ、理由を聞けば納得は
出来ました。白に関しては反則だろー、と思わなくもなかったけど^^;五色の
証言の違いの理由が、色盲とは関係ないところにあったところは良かったですね。
赤緑色弱はミステリでは常套手段だからさ。それが出て来たらもっとガッカリしている
ところだった。
ハルのことが途中すごくショックだっただけに、ラストでほっとしました。あと、
個人的にムカムカしていた藤原との関係も。私の認識が全く違っていたことが
わかって、藤原に対する印象がガラッと変わりました。胡散臭い奴としか思って
なかったからなー^^;いくらメイが心配だからって、スタンガンまで買って
渡すって、怪しさしかないでしょ・・・。
しかし、ラスト1ページで判明する彼の本名には唖然。そりゃ、婿養子は絶対
拒否するでしょうね(苦笑)。
終盤までは読みやすいけど、ミステリとしてどうなんだろうなぁと思っていたの
だけど、ラストで一気に覆されました。そこの反転は見事でしたね。使い古された
手法だろうが、私はまんまと騙されちゃった訳ですから。鮎哲賞受賞も頷けました。
ただ、鮎哲賞受賞にしては、ちょっと全体的に小粒感も否めないですけど。
ラストに収録されている毎度お約束の選評を読むのも楽しみの一つ。今回最後に
なるという加納さんと、今回から参加の東川篤哉さんの選評が楽しかった。
辻真先さんはさすが御大だなぁというような選評で。こういう選評って、それぞれ
の好みが出ていて面白いですよね。加納さんが今回で終わりというのがちょっと
残念。加納さんらしい温かい目線の選評は、やっぱり人柄が出ていて好きだなぁ。