ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

青山美智子「猫のお告げは樹の下で」(宝島社文庫)

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最近お気に入りの青山さん。とても気に入った『お探し物は図書室まで』に出て来る

小町さんが出て来ると聴いて読んでみたいと思っていた作品。確かに小町さんらしき

人は出て来ましたが、図書室に勤める前の前職での登場でした。『お探し物~』の

中でも、前職のことはちらっと出て来ていたから、ああ、このことか、と思いました。

こちらの職業はこちらの職業で、天職であるかのように似合っていましたね。結婚前

なので名字も違いますけど、言動は小町さんそのもの(当たり前か)。てっきり

結婚のきっかけのお話とが読めると思っていたので、全然違っていて、そこはちょっと

残念だった。旦那さんの小町さんと出会うきっかけのお話とかもいつか書いて欲しい

なぁ。

基本的な作風は他の青山さんの作品とあまり変わらないです。悩みや憂いを抱えた

人が、あることをきっかけに自分を見つめ直し、新たな第一歩を踏み出して行く、

という。『お探し物~』ではそれが図書室の小町さんであり、『木曜日にはココアを』

ではある喫茶店であり、『鎌倉うずまき案内所』では鎌倉のうずまき案内所にいる

双子のおじさんとアンモナイト所長であった訳ですけれど、今回の場合の『きっかけ』

は、小さな神社にいるハチワレ猫ちゃんとの出会いです。この不思議な猫ちゃん(

名前はミクジ)は、この神社の飼い猫というわけではありません。タラヨウという樹

のある神社に出没して、木の葉を一枚落とすことで迷える人に『お告げ』を与える

ことが出来る、神職の間では有名な猫ちゃんなのです。失恋のショックから立ち

直れない美容師、中学生の娘との会話が噛み合わず悩む父親、なりたい職業が見つ

からずに就活がうまくいかない就活生、プラモ作りのせいで家族がうまくいかなく

なってしまった老人、苔好きだとクラスメイトに知られたことでクラスから浮いて

しまった小学生、漫画家の夢を諦められない主婦、自分の人生に迷う女性占い師

――それぞれの悩める登場人物たちがたまたま立ち寄った神社でミクジに出会い、

タラヨウの葉に書かれた『お告げ』を授かり、人生を切り開いて行く。人生の壁に

ぶつかった時、ミクジみたいな存在に出会えるって羨ましいなぁ。ミクジは妙に

ツンデレなところがあって、ツンなところもデレなところも愛らしかったな。

それぞれに受け取った、お告げが書かれたタラヨウの葉は、きっとどの人物にとっても

一生の宝になるんだろうな、と思いました。そこに書かれた文字は、当人にしか

見えないから、本当にその人にとってだけの宝物。そこに書かれたたった一言の

言葉もしかり。神様の使いのようなミクジは、『ただいま神様当番』の神様と

知り合いだったりするのかな。青山ワールドはいろいろと繋がっているから、

ありえそうでワクワクしますね。ミクジを愛でる神様。想像するだけでほんわか

微笑ましい(笑)。

どのお話も、どこか身近で共感出来るところがあって、主人公の悩みが少しづつ

晴れて行くところは読んでいて爽やかでした。青山さんの作品は、どれも読後感が

良くていいですね。最近は鬱々としたニュースばかりだし、天気も悪いしで、

心が塞がりがちだったんですが、読み終えて、ほんわか優しい気持ちになれました。

何より、鍵しっぽでお尻に星型の模様のあるハチワレ猫、ミクジに癒やされた~~。

私もいつかミクジに出会えたらいいのになぁ。悩める私めに、お告げのタラヨウの

葉っぱを授けて欲しいものです。

優しい神社の宮司さんもいい味出してて良かったです。宮司さん視点のエピローグも、

それぞれの主人公のその後が知れて嬉しかった。宮司さん自身もミクジと出会えて

良かったなぁと思いました。

とっても素敵な物語でした。青山さん、やっぱり好きだなぁ。