ミステリ読書録

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野村美月「むすぶと本。七冊の『神曲』が断罪する七人のダンテ」(KADOKAWA)

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去年読んだ『むすぶと本。』シリーズ(正確なシリーズ名はわからないですが^^;)、最新巻。前作(その前に文庫があるみたいだけど、そちらは未読のまま)

がとても良かったので、続編嬉しいです。

ただ、読み始めて戸惑ったのは、この作品の舞台が中学校で、むすぶも生徒として

登場するところ。これは、もしかして前作よりも前の話でシリーズの前日譚に

あたるのかな、と思いました(前作でむすぶは高校生で登場してます)。ただ、

何となく違和感もあって。むすぶが中学生には思えないくらい妙に落ち着いているし。

まぁ、見た目は中学生なんですけど。夜長姫のことも普通に恋人として出て来るし

(とはいえ、彼女との馴れ初めを知らないので、いつから恋人になったのかは

わからないのですが)。

むすぶが、図書室登校仲間の清良が発した『何年生?』という質問の答えを濁した

辺りからも、何かありそうだな、と思いましたしね。

その違和感の正体は、読んでる途中で明らかになりました。そういうことでしたか、

って感じでした。本の探偵ですね、まさしく。

ダンテの神曲の中の七つの大罪(地獄)をテーマに、中学生の少女たちの悩み

や苦しみを、むすぶが解決してゆくお話です。途中から、人と上手く交わることが

できず、図書室登校を続ける清良も、むすぶに協力して行きますが(それによって、

彼女自身の苦悩も少しづつ軽減して行くという)。

どの少女の悩みも、中学生の女の子なら大なり小なり経験しているのではと思える

ものです(ダイエットやら友情やら他人への嫉妬やら)。当人たちにとっては、

とてつもなく大きな悩みでもある訳ですけれど。

裏サイトの『辺獄(リンボ)』に書き込まれる、『ダンテ』という謎の人物による

特定人物への誹謗中傷の言葉なんかも、実際のSNSでもありそうでリアル。裏

サイトだから、匿名だからと人の悪口を好き勝手書いたりする人間ってどこにでも

いますよね。きっと、そういう人って想像力が欠けているのだと思う。自分がもし

書かれる側の人物になったら・・・という想像ができないのでしょう。こういう

いじめは陰湿で本当に嫌になります。私が学生時代に、こういうツールがなくて

本当に良かったよ・・・。

ただ、出て来る中学生の女の子がこぞって図書室を利用し、ダンテの『神曲』を

読んだことがある、というのは、いくら何でもご都合主義的過ぎないか?と

疑問に思いながら読みました。そりゃ、世の中に『神曲』読んでる中学生はいっぱい

いるでしょう。でも同じ中学校で読んでる確率ってそんなに高くないでしょう。

読書感想文の課題図書にでもなってたっていうならともかく。

・・・と、若干腑に落ちない気持ちで読み進めていたのだけれど。ラストで、

裏サイトの『ダンテ』の正体やいろいろな謎が明らかになって、そういうこと

だったのか、と目からウロコの思いでした。なるほど、これだったらみんなが

神曲』を読んでいた理由にも頷けます。ダンテの正体は完全にノーマークの

人物だったなぁ。

いろいろ混乱するところもあって、完全には理解していない気もするけれど・・・。

ダンテの標的になる人物に対して、むすぶが常に穏やかで温かい目線で接して

いるのが印象的でした。むすぶは本当に良い子ですね。嫉妬深い夜長姫を必死で

宥めるところも微笑ましかったです。

最後には清良も新たな一歩を踏み出す勇気が持てて良かったです。終始不穏な

空気が流れているお話ではありましたが、希望の持てるラストに温かい気持ちで

読み終えられました。

ダンテの『神曲』ちょっと読みたくなりました。まぁ、実際読む機会が訪れる日は

来ないと思うけど・・・^^;