ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

彩坂美月/「夏の王国で目覚めない」/早川書房刊

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彩坂美月さんの「夏の王国で目覚めない」。

父が再婚し、新しい家族になじめない高校生の美咲。だから、幻想的なミステリ作家、三島加深の
ファンサイトで加深が好きな仲間を知ったことは大きな喜びだった。だが、ジョーカーという人物
から「架空遊戯」なるイベントに誘われ、すべてが一変した。役を演じながらミステリツアーに
参加し、劇中の謎を解けば、加深の未発表作がもらえる。集まったのは7人の参加者。しかし架空
のはずの推理劇で次々と人が消え……(あらすじ抜粋)。


新刊時に、有栖川有栖さんの推薦文に惹かれて、読みたいと思ってた一作。デビュー作なのかと
思ってたら、他にも作品出されてる方なんですね。メルヘンチックな表紙とタイトルから、
爽やかな青春ミステリなのかな、と思ってたんですが、ちょっと違いました。高校生の美咲が
主人公なので、青春ミステリと言えなくもないかもしれませんが、内容は、ネット上のある
サイトで知り合った7人の男女が、ある報酬目当てに二泊三日のミステリツアーに参加し、
与えられた推理劇を演じる中で、一人づつ参加者が消えて行く・・・という、生き残りを
かけたゼロサムゲーム劇。

うん、なかなか面白かったです。生き残りをかけての参加型推理ゲームで、仲間が一人また
一人と消えて行く・・・という形は、本格ミステリではかなり使い古された設定なので、
あまり目新しさというものはなかったですけど。ただ、仕掛け人の『ジョーカー』は誰なのか、
劇中劇の殺人の真相は何なのか、列車の中で消えた男はどこへ行ったのか、『ジョーカー』が
なぜこんな推理ゲームを企画したのか・・・いくつもの謎が複雑にからみ合って、終盤の
真相に繋がるところは、ミステリ好きとしてはなかなかにワクワクさせられる展開でした。
ただ、初対面同士でいきなり集合して、推理劇のセリフを言い合ったりするところは、違和感
ありまくりで全くリアリティはなかったですけど・・・^^;
あと、一つ一つの真相は、残念ながらそれほど瞠目するほどのものはなかったんですよね。
列車の消失事件の真相も、やっぱりなーって真相でしたし、ジョーカーの正体もね~・・・
もう一捻り欲しかったかなぁ。割と、伏線かなって思うところがそのまま伏線だから、
真相で驚きっていうのはあんまりなかったですね^^;本格ミステリのセオリーを生真面目に
踏襲してる感じで、一つ一つ丁寧に描かれているところは好感持てたのですが。劇中劇に
沿って、仕掛け人のジョーカーによって予め決められた展開で物語が進んで行くので、演劇を
観ているような気分になりました。もちろんそれを狙って書かれているところもあるので
しょうけど。寝台列車の中でのくだりなんて、まさにオリエント急行そのままでしたし、
登場人物が一人づつ消えて行くところはそして誰もいなくなったですしね。

ただ、ミステリツアーに参加して身の危険を感じるに連れて、家族の問題を抱えていた美咲自身
が家族の大事さに気付いて行ったり、参加者のある人物とのちょっとした恋愛模様が絡んで来たりと、
十代の女の子の青春小説としての面白さも加味されてるところが良かったです。エピローグの
終わり方も好きでした。どっちかっていうと、この続きが読みたいって感じでしたけど(笑)。

ちょこちょこと設定にはツッコミたくなる部分もあったんですけど、トータルでは面白く読めた
一作でした。

ただ、ジョーカーが参加者たちの家庭環境をどうやって調べたのかは気になりましたが。
別荘持ってることから考えても、家が相当金持ちなんだろうなーっていうのはわかるんですけど。
お金で探偵雇って調べさせたとか?でも、ネットでの繋がりしかないのに、そこまでわかる
ものなのかなぁ・・・。まぁ。それぞれの素性を調べられたからこそ、劇中劇の役割をふることが
出来たんでしょうけどね(ネット上のやり取りだけでは、ネカマの場合だってあるんだから、
正確に男女の区別なんてつけられないですからねぇ)。