ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

米澤穂信「黒牢城」(KADOKAWA)

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米澤さんの最新長編。時代物が大の苦手の私が読み通せるのか非常に不安でした。 

いや~、ブロ友さんから京極さんがイケるなら大丈夫ではとおっしゃって頂いてたの

ですが、非常に苦戦しました。時代背景について行くのも大変だったし。名前が

覚えられないわ、人間関係がわからないわ、その時代の言葉遣いに慣れないわで、

なかなか先に進まなくて。読み始めて集中しようとしても、文章が頭に入って

来なくてすぐ眠たくなっちゃって。結局一週間くらいかかったかもしれない。最後の

200ページくらいは意地でほぼ一気読みしたけれども。

ただ、ミステリ部分が出て来ると俄然面白くなって、謎解きまではすいすい読み進め

られました。時代ものを見事にミステリーと融合させたという意味では、さすが

米澤さん、と言うしかないと思う。

大河ドラマ黒田官兵衛を観たこともなかったので、黒田が荒木村重に囚えられた

史実も初めて知りました。というか、荒木村重という人物自体、初めて知りました。

日本史の授業でやったかどうかも全く覚えていない・・・。日本史、好きじゃなかった

んだよねぇ。

織田信長に反旗を翻した村木が有岡城に立てこもり、毛利からの援軍を待つ間に、

城内ではいくつもの不穏な事件が起きる。密室状態の中で殺された人質の下手人は?

夜討ちで挙げた敵大将の首を取ったのは、二人の武士のうちどちらなのか。又、翌日

討ち取った武士の首がすげ替えられたのはなぜなのか?毛利への献上品と密書を

託した廻国僧が殺されたのはなぜなのか――?村重は独自でそれぞれの事件を解決

しようと試みるが、謎を解明することが出来ない。切羽詰まった村重は、織田の使者

として有岡城にやって来て以来、殺さずに囚えたままの軍師・黒田官兵衛智慧

借りるべく、地下牢へと赴いて行く――。

安楽椅子探偵として暗躍する黒田官兵衛のキャラクターが効いてますね。織田の

使者としてやってきた黒田を地下牢に囚えたというのは史実そのままだとか。智慧

の黒田を探偵役にするという発想が面白いなぁと思いました。ただ、使者として

やってきた黒田を村重が頑として殺さなかった理由には唖然としましたが。そんな

理由かよ、みたいな。まぁ、この時代の殿様なんて、みんなプライドの塊みたいな

ものなんだろうけれど。戦国時代の武士の考え方には、さっぱり理解出来るところが

ないなぁ。家臣の武士たちとのやり取りも、黒田とのやり取りも、禅問答みたいに

しか感じられなくって。そういう心理描写に共感出来ないところも、時代ものが

苦手な理由のひとつなのかもしれない。全く理解し難い理由で簡単に人を斬ったり

するしね。ミステリーでばんばん人が殺されるのは平気なのに、なんでなんだか。

ただ、先にも述べたように、ミステリー部分は非常にうまく出来ていると思う。

一話ごとの謎解きもさることながら、全体通してある人物が影で暗躍していたことが

わかったり、終盤で黒田の隠れた思惑が明らかになったり。時代背景を見事に

ミステリーに落とし込んでいて、さすがでした。最後の最後、黒田がある人物と

再会するシーンは感動的でした。でも、その史実があったとしたら、有岡城

地下で黒田が画策していた計画は一体何だったんだろう・・・と思わなくもない

ですけどね。知らなかったんだから仕方ないけどさ。まぁ、悲惨な囚人生活が

報われる日が来て良かったのかな。勘兵衛の晩年は穏やかなものであったのだろうか。

そうだといいなと思いました(史実を知らない発言ですみません^^;)。

終章でそれぞれの人物のその後があっさりと記されているけれど、千代保のその後が

一番切なかった。でも彼女にとっては本望だったのかもしれないな。

苦戦したけれど、作品としては読み応えのある良作なのは間違いないと思います。

でも、やっぱり私には時代物は合わないなぁとしみじみ痛感させられた作品でも

ありました・・・(京極さんの作品は読みやすいので不思議と平気なんだけどね)。