ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

坂井希久子「雨の日は、一回休み」(PHP研究所)

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『妻の終活』がなかなか面白かったので、図書館の新刊情報で見かけて予約して

みました。中年以上の社畜おじさんたちの悲哀を描いた短編集。バブルを経験した

おじさんサラリーマンならではの、今の時代の生きにくさがリアルに描かれていて、

時にイラっと、時に哀れに思いながら楽しく読めました。『24時間戦えますか』

の、あの○ゲインのCM全盛期に働き盛りだったおじさんたちは、今の若い世代とは

仕事や女性や権利に対する考え方が全然違うので、そりゃー、会社や家庭の中で

肩身の狭い思いをしても仕方がない。凝り固まった考えを改めずに今まで来てしまった

がゆえに、会社でも家庭でも、人間関係において様々な弊害が出て来てしまう。

けれども、そうした痛く苦い経験を経て、おじさんたちは少し今の世の中で生き

抜いて行くヒントを学び、明日への一歩を踏み出すのです。悪気なく自分が正義だと

信じて疑わないおじさんたちの言動に始めは辟易したものの、痛い目に遭って自分を

省みる素直さを持っているところは好感持てました。世の中には、痛い目に遭おうが

周りを傷つけようが、お構いなしに我が道を行くタイプの老害おじさんもたくさん

いますからねぇ・・・。先日の、女性ボクサーを貶めるようなことをテレビで

しゃべったおじさんとか、いつまでも利権にしがみつく老害幹事長とかね。

仕事第一で頑張って来たおじさんたちには、今の世の中はさぞかし生き辛いこと

でしょう。それでも、その時代に合わせて考え方も変えて行かないと、最後には

家族すらもそっぽを向かれる寂しい人生になってしまう可能性が高いわけで。

おじさんたちもいろいろと大変だなぁと思わされる一冊でした。

それぞれのタイトルはすべて雨にちなんだものになっています。おじさんたちの

心模様をいろんな雨で象徴しているところも上手いな、と思いました。

 

では、軽く一作づつの感想を。

第一話『スコール』

上司から、「君に、セクハラの訴えが上がって来ている」と身に覚えのない

注意を受けた進。進の部下には四人の女性がいるが、どの部下が訴えたのか。

セクハラの定義って難しいですよね。相手が不快に思ったら、どんな些細なこと

でもセクハラ認定されちゃうし。進を訴えた人物に関しては、かなり早い段階で

見当がついてしまいました。悪気なく余計な言動を繰り返す進にはイラッとしたな。

大雨被害のベトナムには絶対行きたくないと思いました^^;

 

第二話『時雨雲』

もうすぐ定年の獅子堂は、定年後の自分の生き方が見いだせずにいた。お弁当屋

営む妻は生き生きと働いている。自分は取り残されてしまうのか――。

最初は妻の仕事をバカにしていた獅子堂だけど、出世競争に破れた後輩女性の

仕事に対する思いを聞いて、女性の仕事自体に対する考えを改められたところは

良かったです。仕事は男だけのものじゃない。定年後は、奥さんの仕事を尊重して、

夫婦仲良く暮らせると良いな、と思います。

 

第三話『涙雨』

佐渡島は、53歳の時勤めていた不動産会社の課長職を解かれ、末端の事務所に

飛ばされた。以来、仕事に意欲がなくなり、楽しみは定期的に『薬屋』から例の

ブツを入手して例の場所に通うこと――。しかし、せっかく入手した薬のせいで、

気まずい場所で別れた妻が連れて行った娘と十年ぶりに再会する羽目に――。

佐渡島に関しては、ああいう状況に陥ったのは完全に自業自得としか思えなかった

ですね。いくら寂しいからって、ねぇ。気持ち悪い・・・。せっかく会いに来て

くれた娘に対する態度もひどいし。でも、それがいい薬になって、佐渡島の態度を

改める結果になったのだから、まぁ、良かったのかな。いつか、娘とまた会える日が

来るといいのですけどね。

 

第四話『天気雨』

四十超えても派遣社員のまま燻っている岩清水。社員にバカにされながら、細々と

日々の暮らしを営んでいた。そんな岩清水のストレス解消法が、SNSで「さなたん」

という女子高生のふりをして男たちを翻弄すること。しかし、それがアダになって、

ある日とんでもないピンチを招くことに――。

ネット上で別の人格になってストレス解消したいって気持ちはわからなくはないです。

でも、勝手に人の写真使っちゃいかんでしょう。せめてアバターとかにしとけば

こんなことにならなかったのにねぇ。使われた方はたまったもんじゃないですよ。

当のさなたん(仮)が心の広すぎる女子高生でびっくりしました。こんないい子

をネットの危険にさらしていたとは、岩清水め。今回のことはいい薬になったんじゃ

ないかな。

 

第五話『翠雨』

定年後、やることがなかった小笠原は、マナーを正す世直し男として街中を徘徊

していた。しかし、不正を正しているのに、周りからは心無い言葉を投げかけ

られて、心が折れそうになっていた。そんな時、ボルダリングジムの女性に声を

かけられて――。

定年後のおじさんがやるには、ボルダリングってかなりハードな気がするんですけど、

やってみるとハマるものなんですかねぇ。頭使うからボケ防止には良さそうですが。

仕事を辞めた後、何かしらの趣味を見つけることって大事なんだなぁと思わされ

ました。でも、小笠原は身体の心配をしてくれる優しい妻がいるんだから、

それだけでもすごく恵まれてると思うけどね。