ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

近藤史恵「たまごの旅人」(実業之日本社)

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近藤さん最新作。念願だった海外旅行の添乗員になれた遥が、様々な国に添乗し、

悩み迷いながら成長して行く物語。アイスランドスロベニア、パリ、西安

添乗し、最後は、当然ながら現代のコロナ禍へと繋がり、遥の仕事は急転直下を

遂げる。このコロナになって、一番打撃を受けているであろう仕事のひとつ、

海外旅行の添乗員(もちろん国内旅行も打撃は受けているだろうけど、海外の比

ではないでしょう)。コロナ以前の遥の仕事ぶりは、新米添乗員なりの悩みも

迷いもありながら、しっかりツアー客に寄り添うもので、嫌なことからも目を

そむけたりしない、堂々たるものだと思いました。壁にぶつかって凹みながらも、

ちゃんと前を向いて仕事と向き合えていたと思う。仕事に誇りも感じていたでしょう。

でも、コロナになって、それ以前の問題になってしまった。仕事自体が全くなく

なってしまう。しかも、遥は正社員ではなく、派遣社員。当然、足切りにあって

職を失って絶望の淵に立たされる。やりたい仕事を続けられない辛さ、悔しさ。

実家に戻り、無職の肩身の狭さに見の置所すらなくなってしまうやりきれなさ。

そんな遥が選んだのは、三ヶ月限定の、沖縄でのコールセンターの仕事。ラスト、

挫折の後で、生きる目標を見つけて行く主人公の前向きさに、明るい気持ちで読み

終えられました。

出て来た場所で行ったことがあるのはパリのみ。パリに関する主人公の微妙な感情は、

パリあるあるかもしれません。私はすごく好きな街ですが、私が行ったのはもう

二十年以上前ですし、パリの街も私が知っているころとは大分違うのかもしれない

なぁ。ツアーで行くと、たしかに駆け足になっちゃうし、表面的なパリしか観れ

ないかもしれないですね。でも、だからといって、ツアー旅行を否定するのは絶対

違うと思う。慣れない人は、ピンポイントで効率良く見どころを回ってくれる

ツアーを利用する方が絶対お得だと思う。行き慣れた人がツアー旅行をバカにする

って、意味がわからないな。私も治安が悪い言われるスペインは、自由旅行で

行く勇気が持てず、添乗員ツアーで行きました(かなりの弾丸ツアーでしたが)。

いろんな場所に行けたし、他のツアー客の人とも仲良くなれたし、ツアーもいいもの

だな、って思いました(初めての海外旅行はツアーでしたしね)。

今回出て来た国で、一番行ってみたいと思ったのは、スロベニア。日本人の98%が

行かない国らしいですが。確かに、クロアチアは結構テレビでも取り上げられるけど、

スロベニアってあんまり観たことないかも。イメージもあんまりない。

でも、リュブリャナ、とっても行ってみたくなった。洞窟好きとしては、トロッコ

列車に乗って、ポストイナ鍾乳洞にぜひとも行ってみたい!そして、ちびドラゴン

を観てみたい~~~。読んでる途中で、ついつい『ホライモリ』を検索してしまった。

ドラゴンの赤ちゃんと言われているそうで。なんか、見た目ウーパールーパー

長いのって感じですね。キモかわ?(笑)

7年間も全く動かずに生活するとか、10年間何も食べずに生きていられるとか、

極めつけは寿命100年超えることもあるとか!?もう、いろいろ不思議な生き物

過ぎて、気になって仕方ないです、ホライモリ!観たいぜ!!

遥の担当するツアーの客たちも、それぞれに困ったちゃんがたくさんいて、添乗員

さんも大変だなぁとしみじみ思わされました。こう考えると、私はきっと添乗員

さんにとっていい客だったに違いない(自画自賛w)。時間も守るし、無理難題

もふっかけたことないし。だいたい、海外に行っておにぎりが食べたいって、

添乗員さんに頼むことなのか!?と思いました。食べたかったら、普通自分で

日本食レストランとかスーパーとか探さないか?ちゃんと聞いてあげる遥は偉い

なぁと思いました。

旅行に来て、文句ばっかり言ってる人とかも嫌ですねぇ。でも、いるよな、こういう

人って、思うのばっかりだった(苦笑)。

それでも、自由に添乗出来ていた日々の方が、遥は幸せだったでしょうね。これからの

遥の仕事がどうなって行くのか、少し心配ですが。リモート旅行はいろんな旅行

会社が企画して成功しているから、個人でやって行けるか微妙なところでもある

でしょうし。それでも、前を向いて、いつか実際にまた海外添乗員として活躍

出来る日が来るといいなと思う。

そして、私たちも、自由に海外に行ける日が来るといいな、とも。また、いろんな

国に行って、いろんな経験したい。切実にそう願いたくなる作品でした。

こういう作品は、ほんと旅行行きたい熱が高まっちゃって辛いんだよなー。旅好き

にはたまらない内容でもありましたけどね。