ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

三津田信三「忌名の如き贄るもの」(講談社)

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刀城言耶シリーズ(如きシリーズ?)最新作。今回も、旧家の因習やらしきたりやら、

横溝風ガジェットてんこ盛りで面白かったです。でも、既存のシリーズの焼き直し

感もあって、どこかで読んだような既視感が半端なかったです。さすがに、ネタ切れ

気味になってきたのかなぁ。生名鳴地方の忌名の儀礼(七歳、十四歳、二十一歳で

行わなければならない)なんかも、三津田さんの過去の短編にこういうのあった

ような・・・と思わされる内容でしたし。まぁ、その地方の因習なんて、みんな

似たようなものになってしまうのかもしれないですけれども。

今回は、言耶が、大学時代の先輩・発条福太に頼まれ、福太の婚約者・尼耳李千子

の故郷、生名鳴地方の虫くびり村に、結婚の挨拶に行くのに同行するというお話。

奇しくも、彼らが虫くびり村を訪れた時、尼耳家では李千子の弟・市糸郎が、

忌名の儀礼を行うところだった。しかし、儀礼の最中に市糸郎が何者かに殺されて

しまう。地元の警察と協力し、言耶はこの殺人事件の謎に挑むことに――。

今回、いつも以上に謎がシンプルで、読みやすかったです。ただ、それだけに、

このシリーズの濃密で重厚な謎解きの部分では、ちょっと食い足りなさを感じた

のも事実。わかりやすくて良かったのだけど。言耶のいつもの二転三転を超える、

四転五転六転する謎解き部分も、今回は普通に二転三転くらいで終わったし。

確かに、最後の最後で大きな反転があったので、ある程度の溜飲は下がりましたが。

その前の、現地での謎解きに終わっていたら、大いに不満が残っていたところ

でした。市糸郎の血液型のくだりなんて、もっと早くに気づいてしかるべきだと

思うし。一番最初に確認しておくべきことではないの?土砂に巻き込まれた筈の

祇作がああいう状態で何年間も・・・というのもいくら何でも無理があると思いました

し。祇作に関しては、結局本当のところはどうだったのかは最後までわからないまま

でしたが。

それにしても、現地でちゃんと言耶が連続殺人の真相に気づいていたら、東京に

戻った福太たちの人生も全く変わっていたのではないかと思えて仕方なかったです。

ただ、現地で言耶が推理した真犯人とは違い、東京に戻った後の推理の方は、細かい

伏線の部分もきちんと回収されていて、こちらの方が遥かに納得が行く真犯人

でした。角が取れた理由も、きちんと説明されてますし。なんとなく、この人物が

犯人なんじゃないか、とは途中でちらっと思っていたのですけれどね。

真犯人の動機は、言耶が言うように、確かに狂ってるし、悍ましい。自分の利益の

ために、何の罪もない、少年二人が犠牲になってしまったのだから。あまりの

身勝手さに、辟易しました。言耶が真犯人と指摘した時の変貌っぷりも凄まじ

かったですが。そして、姿を消す直前に、真犯人から最後の最後で突きつけられた

事実に背筋が凍りました。もしかして、冒頭のあの場面で、すでに入れ替わって

いたのかも・・・ひぃぃ。