ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

東野圭吾「透明な螺旋」(文藝春秋)

f:id:belarbre820:20211014195108j:plain

東野さん最新作。ガリレオシリーズ最新作にして、第十弾になるようです。シリーズ

の中では、ちょっと異色の一作と云えるのじゃないでしょうか。まず、いつもの

ような物理や科学を使ったトリックが出て来ない。どちらかといえば、人間

心理の方に寄せた物語と云えると思います。それに、何より、湯川先生の知られ

ざるプライベートがかなり赤裸々に明かされている。初めて、湯川先生のご両親

が登場しているし、その上、隠されていた(?)その出自も明らかになります。

まさか、こんな生い立ちがあったとは・・・(絶句)。しかも、しかも!湯川先生の

過去の彼女話までも・・・!いやぁ、正直、あんまり知りたくなかったような気

もするんですけどね。別れちゃった理由にも驚いたし。え、そっちなの!?って

思いましたねぇ。湯川先生側の問題なら納得も出来たでしょうが。あの湯川先生を

○る女がいるなんて!もっと詳しく知りたい気もするし、知りたくないような気も

するし。ファンならではの微妙な心理で頭ぐるぐる状態ですよ、もう。東野さんも

人が悪いったら。いままで、どこまでもクールでカッコいいという印象の湯川先生の

意外な一面がたくさん伺い知れた、という意味では、ファンにとっても特別な一冊

と云えるんじゃないでしょうかね。まぁ、湯川先生が親の○○をする姿はあんまり

見たくなかったというのも正直なところではありますけれど。若かりし准教授も、

渡米を経て教授になり、もういい年になっているということなのでしょう。年を

取ってしまった湯川先生のプライベートなアレコレを知って、がっかりする人も

多いとは思いますが、湯川先生だって人間なのです。年取って親の面倒みなきゃ

いけなくなる時だって来るだろうし、物理一辺倒で尖っていたところが丸く

なることもあるでしょうし。ある意味、とてもリアルな物語とも云えるかと。

アマゾンレビュー読んでたら、かなり酷評してる人も多くて、ちょっと悲しい気持ち

になってしまった。私は、より人間味が感じられて、もっと湯川学という人間が

好きになったけどな。確かに、物理科学ミステリーじゃなかったところは若干

マイナスをつけたいところではありますけれど(そこがこのシリーズ一番のキモ

だとは思うので)。

でも、人情ミステリとしては十分面白かったですし、最後の最後まで読ませる工夫も

してありますし、水準以上の作品だったと思います。特に終盤の、松永奈江さん

と湯川先生とのやり取りには胸が熱くなったな。お互いに、いろんな思いを抱えて

いただろうけれど、ちゃんと話が出来てわだかまりも解けて良かったと思う。松永

さんに関しては、今更って思いも確かに過りますけれど、今更だからこそ、こんな

風にお互い接することが出来たのだろうとも思いました。

そして、ラストの草薙さんと拳を交わす場面も好きだった。この二人は、やっぱり

いくつになっても戦友なんでしょう。お互いに、お互いの戦場で戦って行く。

親友の筈なのに、草薙さんがずっと湯川先生の元カノの話を知らなかったのには

ちょっとずっこけましたけどね。どこまで秘密主義なのやら^^;

タイトルの透明な螺旋の螺旋は、もちろんDNAのことなんでしょうね。園香の螺旋と、

湯川先生の螺旋と、二重の意味が込められているのでしょう。血の繋がりなんか

あってもなくても、心がつながっていればそれでいいのかな、と思わせてくれる

作品でした。