ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

坂木司「ショートケーキ。」(文藝春秋)

ショートケーキに纏わる短編集。5作の短編が収録されています。前半の三つは

はっきり関連性のわかる連作になっていて、後半二つはリンクはあるものの、

単独でも読める作品。全部の作品にショートケーキが出て来ることも共通して

いますけれどね。

私は甘いものが大好きで、もちろんケーキも大好きですが、ケーキ屋さんでケーキ

を買う時にショートケーキってほとんど買ったことがないです。おみやげで持って

行く時は入れますけども。嫌いとかでは全くないですが、なんとなく、苺と生クリーム

とスポンジのシンプルなショートケーキよりは、チョコレートやフルーツや栗など

を使った、ちょっと凝ったケーキの方に惹かれてしまうので。でも、世間的には

ショートケーキってそんなに人気あるんですかね、やっぱり。まぁ、苺を嫌いな人

って探す方が難しいでしょうけど。生クリームは好き嫌い分かれる食材って気も。

でも、大人から子供までみんなが楽しめるケーキは、やっぱりショートケーキ

なんでしょうね。

 

では、各作品の感想を。

『ホール』

家庭環境が似ている女子大学生二人の友情を描いた作品。母子家庭で育った二人は、

父親が出て行ってから食べられなくなったホールケーキを食べる為、二人で<ホール

ケーキの会>を作り、定期的にホールケーキを食べていた。ある日、同じ時期に

お互いの父親から「話がある」と呼び出される。二人の父親は何を語るのか――。

二人の年齢から、父親が告げるだろう内容は予測できました。離婚原因を考えれば、

二人とも父親に対していろいろと思うこともあるだろうけど、やっぱり離婚して

何年経とうが、父親は父親なんですよね。

 

『ショートケーキ。』

俺のバイトするケーキ屋では、残りがちなホールケーキを予約なしに買ってくれる

客のことを『天使』と読んでいる。そして、そんな天使の中に、1、2ヶ月に

一度の頻度で来る二人組の女の子たちがいる。ある日、その二人組の天使の様子に

異変を感じた俺は、ある行動に出ることに――。

店員さんから、こういうサービスをしてもらえるのは嬉しいでしょうね。ゼロの

ローソクに関しては、意味がわからないでしょうけど^^;二人の天使の異変にいち

早く気付ける主人公は、根がとても優しいのでしょう。様子のおかしい姉のことを

心から心配してるのもわかりましたし。良い子だなぁと思いました。

 

『追いイチゴ』

バイトのカジモトくんが二人組の天使に恋をしている。どちらがターゲットかは

わからないけれど。ある日、そんなカジモトくんがある行動に出るのを目撃し、

私は胸がときめいた。嬉しい場面に立ち会えた私は、今夜、ショートケーキに

アレをすることにする。私だけの秘かな楽しみなのだ――。

イチゴが高い時だと、なかなかこれするのは躊躇するでしょうねぇ。主人公が、

他人の恋にうきうきしている様子が可愛らしかったです。

 

『ままならない』

子供が出来て、いろいろなことがままならなくなった。大好きなショートケーキを

思う存分味わうことすら出来なくなるなんて。あつこは、同じようにままならない

ことがあるというママ友二人と<互助会>を作ることを思いつくのだが――。

これは、子供がいる人にはすごく共感を得られる作品じゃないのかな。自由に

何でも出来た頃を懐かしむ気持ちも、いざやれる状況を作られても、結局その間

子供のことが気になって、ずっとそわそわした気持ちになってしまうことも。

きっと子供が出来るってそういうことなんだろうなって思いました。

 

『騎士と狩人』

何事においても主体性のない央介は、『嫁に行きてぇ』が口癖だ。人生の重要事項の

決定を夫に任せ、決められたレールの上を進めばいい嫁の立場が羨ましくて仕方が

ないのだ。そんな央介だったが、あることをきっかけに、経理の女性のことが

気になって仕方なくなるように。普段無愛想で厳しいその女性は、弟の学費の為に

倹約しているようなのだが、実はショートケーキが好きらしいのだ――。

経理の女性の正体、実は名前が出るまでピンと来てなかったです。そういえば、

前の話で家が貧乏って出て来ていたっけ。央介の恋(?)はうまくいかなかった

けど、ちゃんと央介を見てくれている人もいて良かったです。

 

普段はショートケーキそんなに食べない私でも、これだけショートケーキが出て

来るお話を読んだら、やっぱりショートケーキが食べたくなりました(笑)。

坂木さんのお菓子関係のお話はやっぱりハズレがないですね。

さらっと読めて、面白かったです。