ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

水生大海「お客さまのご要望は 設楽不動産営業日誌」(朝日文庫)

久々水生さん。不動産ものの作品が好きなので、タイトル見て面白そうだな、と

思って予約してみました。

小学3年の時に不可思議な誘拐事件に巻き込まれた設楽真輝。何者かに突然

連れ去られたが、その後なぜか無事に解放された。誰が何の目的でやったこと

なのか、大人になった今でも謎のままだ。そんな真輝は、祖母が営む設楽不動産

に就職し、将来は祖母の後を継ぐつもりで仕事に励んでいるが、なかなか祖母

からは認めてもらえず、厳しい言葉をかけられてばかりだ。ある日、真輝は

カーサホリディ雅というマンションの一室から引っ越す夫婦の退室に立ち会った。

その際に、妻の紬さんが、結婚指輪を無くて見つからないままなのだと話していた。

夫婦は諦めていたようだが、二人が引っ越した後で担当したクリーニング業者から、

結婚指輪らしき指輪が見つかったという報告を受けた真輝は、早速紬さんに

見つかった指輪の写真を送った。すると、紬さんから自分のものだとの返信が

あり、意気揚々と二人の新しい新居の郵便ポストに届けて来た。しかし、これが

トラブルの発端となってしまい――。

家族経営の地域密着型不動産屋さんを舞台に、4つの物語が収録されています。

どのお話に登場する客も、わがままで困った人揃い。それ、不動産屋に言うこと

じゃなくない?ってことばかり、真輝に訴えて来て、読んでいてかなりイラっと

させられました。まぁ、実際こういう困ったお客がたくさんいるんだろうなぁ。

不動産屋あるある満載って感じ。うちの相方は結構いろんな仕事を転々として来た

人なんですが、その中に不動産関係にいた時期もあって、ちょいちょいその当時の

経験を振り返って、やっぱりいろいろ大変だったと言っていたのを思い出し

ました。

一話目の『その残置物はわたしのじゃありません』は、退去した部屋から見つかった

指輪にまつわるトラブル。妻のものではない指輪が見つかったことで、夫婦仲に

亀裂が入るきっかけになってしまう。知らない指輪が部屋に持ち込まれた真相は

ちょっと拍子抜けだったかな。こういうことってあるものなんですかねぇ。

二話目の『騒音を訴える俺がそんなに悪いのか』は、タイトル通り、騒音に纏わる

住民トラブル。この手の騒音トラブルも、あるあるですよねぇ。私もお隣さんの

子供が小さい頃に、お隣さんが昼から夜にかけてお友達をたくさん読んでバーベキュー

したことがあって、さすがにちょっと辟易した経験がありますからね。まぁ、お隣

さんの場合は、年に2,3回レベルでしたし、それくらいなら全然我慢出来る

程度でしたけどね。これが頻繁にあったら、さすがにちょっとノイローゼになる

かもしれないなぁと思いましたっけ。

三話目の『事故物件なんて冗談じゃない』は、霊感の強い顧客から、事故物件だけは

紹介しないでくれと頼まれ、ある物件を紹介した真輝。もちろん、過去に事故など

一度も起きていない物件を紹介して、本人にも気に入ってもらえたのだが、後日、

金縛りに遭った、どういうことだ、というクレームが入り――というお話。

クレーム客の言動がどんどんエスカレートして行くところにぞっとしました。

思い込みが激しい客にも困ったもんだ。挙げ句の果てに失火騒ぎとは。でも、無人

部屋から物音が聞こえた原因は、他の店子の困った行動が原因だった訳で。身勝手な

住民ばっかりでうんざりしました。

四話目の相続税そんなの払えねえんだよ』は、自分の息子が相続したマンションの

相続税が払えないから売却したいという母親からの依頼にまつわる顛末を描いたお話。

この作品が、冒頭に出て来た真輝の子供の頃の誘拐事件に繋がって行きます。三話

目まで読んだ時点で、冒頭の誘拐事件の話が全く出て来ておらず、一体どうなって

いるのかな、と思っていたので、ラストでちゃんと繋がって溜飲が下がりました。

いろいろツッコミ所もありましたけども。読書メーターの感想読んでいたら、

どなたかが、あだ名の『しーま』、普通被らないだろ、とツッコんでいましたが、

確かにその通り、と思いました(苦笑)。どっちかの名字が島とか、どっちかの

名前が椎真(馬)とかならまだリアリティあったかもしれませんけどねぇ。名字と

名前の字一字づつとって『しーま』が被るってのは、さすがにちょっとご都合主義的

すぎるかな、と思いました。

迷惑な客ばかりが出て来るので、かなりイラッとさせられる場面が多かったけど、

不動産あるあるものとしては興味深かったし、面白かったです。