ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

窪美澄「夜に星を放つ」(文藝春秋)

第167回直木賞受賞作。実は、読んだ後で直木賞獲ってたことを知りました。

多分受賞された報道は目にしていたけれど、これがその作品だとは思ってなかった

んですよね。図書館の新着図書ページで、なんとなく見かけて、久しぶりに食指が

動いたので予約しておいたのでした。多分、受賞されてから予約してたら、とても

じゃないけど、読めるのはもっとずっと後になっていたと思う。ナイス、自分(笑)。

『星』に纏わる作品ばかりを集めた短編集。どの作品も胸にずしっと来ました。

人間のリアルな部分が、まっすぐに描かれている作品という感じ。心に傷を抱えた

人々が、もがきながら今を明日を生きて行く。何気ない日常でも、息苦しく生きづらさ

を抱えている人はいくらでもいる。文章が上手いので、ぐいぐい読まされました。

ただ、これが直木賞って言われても、正直「え、そうなの?」って感じではあった

かな。確かに上手いとは思うけど・・・短編集というのもあって、一作一作は

さらりと読めてしまうものばかりだし。でも、こういうタイプの作品が、一番

何気に人の心を揺さぶるものだったりもするのかもしれないな。

 

では、各作品の感想を。

『真夜中のアボカド』

双子の妹を亡くした私は、婚活アプリで出会った人と付き合い始めるが、相手

には隠している秘密があった――。

アボカド、私も種から水耕栽培で育てた経験あります。ほんと、びっくりするくらい

成長します。そして、今現在は庭に植わっていますが、めちゃくちゃ枝とか伸びるの

早いです。実が生るほど育てるつもりはないので、ばしばし切ってます^^;

婚活アプリの彼氏にはガッカリ。でも、実際こういう人間多いんだろうなぁと思う。

それに反して、妹の彼氏だった村瀬君の一途さが素敵だった。主人公は、こういう

タイプを好きになれば幸せになれるだろうにね。

 

『銀紙色のアンタレス

夏休みに、僕は海の近くに一人で住むばあちゃんの家に遊びに来た。後から、

幼なじみの朝日もやってくるという。そこで僕は一人の女性と出会い、恋をする

のだが――。

切ないひと夏の恋。真も朝日も、それぞれにほろ苦い夏の思い出になったと

思うけど、高校生の恋なんてきっとこういうものなんだろうと思う。

 

『真珠星スピカ』

二ヶ月前、母さんが事故で亡くなった。しかし、母さんはいつも家にいる。私には、

母さんの幽霊が見えるのだ。父さんには見えないみたいで、なぜか私にだけ――。

学校でいじめられている私は、母さんが見えることで救われて来た。でも、ある日

私をいじめている同級生が、こっくりさんをやろうと言い出して来て――。

いじめっ子を、こっくりさんで母親がやり込めるシーンはスカッとしました。どんな

時も、母親は娘を守ろうと必死になるものなんでしょうね。ユーミンの『真珠の

ピアス』は私も大好きな歌。まぁ、確かに歌詞は女の怖い部分が出ている感じが

しますね。

 

『湿りの海』

元妻は、突然僕に離婚を言い渡して、娘を連れて好きな人のいるアメリカのアリゾナ

州に行ってしまった。僕は、週一度、ズームを通してしか娘に会えなくなった。

会社の後輩は新しく恋愛をしろと勧めて来るが、気乗りはしない。しかし、そんな

ある日、僕の住むマンションの隣の部屋に、子連れの女性が引っ越して来た。僕は

二人と交流することで心の隙間を埋め始めた――。

なんか、勝手な女性たちに振り回される主人公がちょっと気の毒だった。元妻に

しても、隣の女性にしても。ま、主人公も優柔不断なところがあって、いまいち

好感持てるとも言いがたかったけれどね。

 

『星の随に』

僕が小学四年生の時に、弟の海君が生まれた。海君はとてもかわいくて、僕は大好き

だ。でも、父さんと再婚した渚さんは、海君を生んでからとても忙しくて大変で、

とても疲れているように見える。ある日、学校から帰ってドアの鍵を開けると、

ドアガードがかかっていて家に入れなかった。一度は大声で呼んで気づいてもらえ

たけれど、その日以来、僕が帰る頃にはいつもドアガードがかかっているように

なってしまった。渚さんはきっと、今、少し疲れているだけなんだ・・・。

この話は、本当に切なかった。そして、渚さんの言動はとても許せなかった。赤

ちゃんのお世話で疲れているからといって、これは絶対にやってはいけないことだ。

だって、完全に育児放棄だし。どう考えても、児童虐待だもの。

でも、そんな渚さんを必死で庇おうとする主人公の想がとても健気で、いじましくて、

胸が痛みました。本当に、良い子で、泣けた。もっと父親がしっかり渚さんも

想のことも気遣ってあげなきゃいけなかったとも思う。

佐喜子さんと想のやり取りがとても良かったですね。心の拠り所だった佐喜子さん

との別れが切なかったなぁ。でも、これからは両親共にもう少し想のことを気に

かけてくれると思いたい。想には、心の底から幸せになって欲しいと思いました。