ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

アミの会「おいしい旅 初めて編」(角川文庫)

女性作家ばかりを集めたアミの会(今回初めて(仮)が取れたようです。正式名称

になったんですかね?)による、食と旅にまつわる文庫アンソロジー。同時発売で

『思い出編』も出ています。もちろん、そちらも予約中。

旅に出たら、やっぱりついて回るのはおいしい食べ物!旅行大好きの私には

ぴったりのアンソロジーでした。本書は、それに加えて『初めて』というテーマも

加わっています。旅行で初めて経験することってたくさんありますよね。だいたいが

初めて行く場所でしょうしねぇ。いろんな旅にまつわる『初めて』が出て来ました。

アミの会に寄稿する方は実力作家さんばかりなので、いつも読み応えがありますね。

好きな作家さんも多いので、今回も楽しめました。

 

では、各作品の感想を。

坂木司『下田にいるか』

旅行会社に勤める主人公が、思い立って下田に行くお話。コロナ禍の旅行会社は

本当に苦労されていると思います。何でも詰め込み過ぎる主人公の気持ちは

わからなくもない。せっかく旅に行くんだからあそこも行きたい、ここも行きたい

って思っちゃうのは私も共感出来ますもの。企画する側がそれやっちゃうと、

いろいろ弊害が出て来るでしょうけどね。いざ自分が旅行する側に立って、いろんな

『はじめて』にいちいち感動できる主人公の素直さに好感が持てました。いるか

ショーでその場にいる人々と感動を分かち合ったシーンが微笑ましかったです。

 

松尾由美『情熱のパイナップルケーキ』

駅ビルの福引で十万円の旅行券を当てた主人公が、台湾ひとり旅に出る話。台湾に

行く話を職場にすると、台湾支社へのお使いを頼まれる。プライベートの旅行

なのに、職場の用事を言いつけられるって、私だったら絶対イヤだなぁと思った

けど、断れない主人公は引き受けることに。台湾支社の男の言動にはムカムカ

しました。台湾は大好きなところだけど、パイナップルケーキが美味しいと思った

ことはないんですよねぇ・・・私が食べたことがあるのがたまたま美味しくなかった

だけなのかなぁ。

 

近藤史恵『遠くの縁側』

下着メーカーに勤める主人公は、仕事でアムステルダムの見本市に行った際、

カバンの盗難に遭い、パスポートや財布を盗まれてしまう。大使館で帰国の

ための渡航書を発行してもらう手続きをしたが、手元に届くのは二日後になるという。

ぽっかり開いた二日間をどうやって過ごそうか・・・。

アムステルダムはヨーロッパ旅行の乗り継ぎ地点ってイメージが強いです。私も

空港は行ったことがあるのだけど、その地に降り立ったことがなくて。観光も

してみたいなぁといつも思ってました。コロッケの自販機があるってびっくり。

海外にもいろんな自販機があるんだなぁと思いました。B級グルメ的なものが

たくさん出て来て、どれも美味しそうだった~。

 

松村比呂美『糸島の塩』

旅行会社に勤める幸は、実施しない海外旅行のパンフレットをターゲットの優子に

見せ、お得だと言ってお金を出させようとした。コロナで経営が厳しいことを

理由に、愛人関係にある社長から厳命されたからだ。しかし、優子はそれを

見抜いていた。しかし、優子はなぜか詐欺行為を働こうとした幸に、糸島旅行に

一緒に行って欲しいと言って来て――。

コロナになって、余計にこういう詐欺行為を働く旅行会社が増えたりしているの

かな。厳しいのは大手だって同じだとは思うけども。幸に詐欺めいたことをさせよう

とした社長の片桐には腹しか立たなかったです。恋愛の方もですが。幸は、優子と

出会えて道を誤らずに済んで本当に良かったと思う。これから、一緒にいろんな

場所に旅行に行ったりできるようになればいいな。糸島はすごく行ってみたくなり

ました。島系大好き。塩おにぎりも塩プリンも、とても美味しそうだった。

 

篠田真由美『もう一度花の下で』

祖母が亡くなって十年が経っていたが、ある日突然、自宅に祖母が持っていた

立派な木箱に入った銀のスプーンセットが送られて来た。その中の一本は、実は

わたしが子供の頃に盗んで手元に持っているものだ。しかし、セットはしっかり

6本揃っていた。古道具屋に見せると、一本はやはり、メッキの偽物らしい。

届いた包みの中には、奇妙な図のようなものが書かれた紙が入っていた。どうやら、

函館の地図らしい。私は地図に書かれたいくつかの場所を巡ることにした――。

お馴染みの古道具屋シリーズ。篠田さんらしい、郷愁漂う一作でしたね。

 

永嶋恵美『地の果ては、隣』

鉄オタの萌衣は、思い立って聖地巡礼を目的に、サハリン四泊五日の旅に出る

ことに。しかし、同じツアーの客は年齢層の高い人ばかりで、話が合いそうにない。

しかも、楽しみにしていた鉄道乗車体験が運休になり、中止になったという。

ショックを受ける萌衣だったが――。

このご時世に、ロシア旅行をテーマにするって、なかなかチャレンジャーだなぁと

思いましたが、萌衣が旅行に行ったのはコロナの前、もちろん戦争も始まって

いない時のロシア。本来なら、見どころもたくさんある、美しい国なのですよね

・・・。もちろん、食べ物だって美味しいものがたくさんあるだろうし。この

お話の中でのように、日本人が自由にロシア国内を旅行出来たことが、今となって

は、おとぎ話の世界のように遠くに感じられてしまいます。作中で、ツアーに

参加していた老婦人が、『当たり前が当たり前じゃなくなる瞬間なんて、知らない

ほうがいいに決まってる』と萌衣に話すシーンが、心にずっしりと残りました。

作者も、同じように感じていたから、このお話を書いたのだろうなと思いました。

本当に、タイトルのように、この国は地の果てよりも遠いところになってしまった。

一生行けない場所になってしまったであろう事実が、心に重くのしかかって来ました。

 

逗子慧『あなたと鯛茶漬けを』

母が入院している松山の病院で、たまたま拾った劇団公演のチラシがきっかけで、

知り合いになったののさんののさんと私はとても気が合った。ののさんとは

何度も美味しい鯛茶漬けを食べに行った。でも、ののさんも私も環境が変わり、

少しづつ会う機会が減って行った――。

逗子慧さん、十代の頃、姉が読んでいたので何度か読んだことがありました。

懐かしい!ちょっと耽美系とかファンタジーっぽい作品を書かれる方だった記憶が

あるのだけれど(昔過ぎて、記憶違いもあり得るかも^^;)。

最近はどんなものを書いていらっしゃるのかな。本書は普通の現代物で、全然

思っていた作風が違うのでちょっと驚きでした。

鯛茶漬け、私も大好き。美味しい鯛茶漬け食べたくなっちゃった。

 

コロナで、なかなか思うように旅行に行けない日々が続いていたけれど、少し

づつ旅行業界も活気が出て来ましたよね。海外に自由に行けるようになる日も

そう遠くはないのかなぁ。でも、円安がねぇ。ほんと、若い時に海外いっぱい

行っておいて良かったよ。新婚旅行のタヒチなんて(今行けるのかすらわからない

けど)、今行けたとしたら、一体いくらかかるのか・・・当時の3倍くらい

かかりそう^^;;

国内旅行も、来年は少し遠くまで行けたらいいなぁ。こういう作品読むと、

旅行熱が高まっちゃって困るよ(苦笑)。

 

そういえば、アミの会の常連だった光原百合さんがお亡くなりになったの

ですよね・・・。潮ノ道シリーズももう読めないなんて(涙)。それに

追い打ちをかけるように、津原泰水さんの訃報も・・・好きな作家さんの

訃報は本当に打ちのめされた気持ちになります。新作が読めなくなるのが

ただただ悲しい。

ご冥福をお祈り致します。