恩田さんの最新作。といっても、予約してから大分経ってようやく回って来たって
感じでしたけど(昨年11月の新刊)。最近は予約に乗り遅れてばかりだなぁ。
ちょっと、今までの恩田さんにはないタイプの作品で、斬新な内容でしたねぇ。
主人公の梯結子のキャラクターが抜群に良かったですね。大阪の代々続く廻船問屋
の息子を父に、東京の老舗和菓子屋の娘を母に持つ、四人兄妹の末っ子に生まれた
結子は、タイトル通り、何か問題が起きると『なんとかしなくちゃ』とナゾの使命感に
かられて、いろんな手を使って問題解決を図る子どもだった。問題といっても、結子
自身が何か『キモチワルイ』と感じるかどうかってところが重要で、どんな些細な
ことでも、ひとたびその感情が芽生えてしまえば、それは『なんとかしなくちゃ
いけない問題』にすり替わってしまう。それは例えば大量に捨てられる○クルトの
容器であったり、小学生の頃のお友達を呼んでのお誕生日会での困りごとであったり、
中学の体育館の用具室前の段差であったり。その時々で、結子は持ち前の観察眼と
アイデアを駆使して、その『キモチワルイ』をさらっと解決していく。結子自身は、
それを特別な才能だとも思っておらず、なんとなくやってしまうところがスゴイ。
やはり、育ちの良さが効いているのか。結子自身の素直だけども淡々とした性格
がなんともいえず、飄々とした味があって魅力的でしたね。梯家には面白いしきたり
があって、中学を卒業した年の春、当該人物が亭主を務めるお茶会が開催される。
もちろん、結子の兄や姉も行って来たし、結子が中学卒業した春も結子が企画した
お茶会が開催された。その時の結子のお茶会のテーマが、『融通無碍』だった。
融通無碍って言葉は始めて知りました。これは、『滞らずにものごとが行き来し、
何物にも妨げられない』という意味なのだそう。中学生の結子がよくこんな言葉を
知っていたなぁと感心するばかりでした。この言葉が、結子のその後の人生に
おいてもずっと意味をなしていくことになる。結子の人生のテーマといっても
過言じゃないかもしれないですね。その後も度々この言葉通りに、『キモチワルイ』
滞り(問題)を、さらりさらりと解決して、妨げられないようにしていくのですから。
本書では、そうした結子の大学卒業までが描かれています。今後、第二弾として、
社会人編も出版される予定のようです。高校でも大学でも、結子は目を瞠るような
活躍を次々としていくので、取り上げたいエピソードはたくさんあるのですが、
それはぜひ読んで確かめて頂きたいですね。どのエピソードでも、結子らしい
機転の利かせ方に驚かされますし、感心させられっぱなしでした。高校でフランス人
からフランス語を習い始めたってところもすごいし(しかも、受講料は自分で
アルバイトして稼いだお金で払っていたし)。大学ではなぜかなし崩し的に
城郭愛好研究会に入ることになり、様々な初体験をすることになったり。そこから、
ビジネスに繋がるアイデアを閃かせたり。もう、とにかくバイタリティ溢れる
結子のキャラクターが生き生きとしていて、読んでいてとても楽しかったし、スカッと
しました。こういう人が、日本社会を発展させて来たんだろうなぁと思えました。
友達にひとりいたら、ものすっごく重宝するんじゃないかな。どんな人にも一目
置かれる存在だと思う。逆に、絶対に敵には回したくないタイプ。結子自身はあまり
個性があるような感じでもないのに、気が付いたらすごい存在感を放っているって
感じ?何か問題が起きた時、結子に相談すれば、何とかしてくれるんじゃないかって
思えるというか。とにかく、今までにないタイプのヒロインだと思う。大河ドラマ化
したら面白そうだけどなぁ。
あと、もうひとつこの小説で面白い部分があって、それは、要所要所で作者の
解説のような愚痴のような身の上話のような、語りが入るところ。最初、この
語り手の『私』って誰のことなんだろう?と首を傾げながら読んでいたのですが、
だんだん、読んで行くにつれて、ああ、これ恩田さんご自身なんだとわかるように
なりました。作者が入り込むことで邪魔に感じる場合もあるとは思いますが、
本書の場合は作品自体もコミカルな部分もあったりする分、割合溶け込んでいて、
そこはそこで味があって良かったと思います。人によってはいらないと感じる場合も
あるかもしれませんけどね。結子が大学で城郭愛好研究会に入ったことで、お城解説と
共に、ちょいちょい歴史ウンチクが入るところは、歴史苦手人間としては、若干
読むのが面倒でうんざりしたところもありましたけどね(逆に歴史好きにとっては
楽しめる部分ではないかと)。
社会に出てからの結子は、持ち前の融通無碍精神がさらにいろんな方面で発揮
されて、素晴らしい活躍をすることになるのではないかと推察。読める日が来る
のが待ち遠しい。