ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

一穂ミチ「光のとこにいてね」(文藝春秋)

『スモールワールズ』で有名になった一穂さんの最新長編作。本屋大賞にも直木賞

にもノミネートされて話題になっているようですね。『スモール~』がなかなか

良かったので、新刊出てすぐに予約しておいて良かったです。そうじゃなきゃ、

読めるの何年か後とかになっていたかも。

話題になるだけあって、ぐいぐいのめり込んで時間を忘れて読み耽ってしまった。

幼い頃に運命的に出会った結珠と果遠、出会いと別れを繰り返した四半世紀の

物語。育ちも性格も正反対の二人だけど、なぜか惹かれ合い、離れている間も

お互いのことを思い続けて過ごしていた。二人の間にあるのは、友情か愛情か。

なんとも言い尽くせない二人の関係に惹きつけられました。どこにいるのか

わからなくなっても、ずっと忘れずに心の中にあり続ける存在。お互いがお互いの

ことを同じように大切に思っているのが伝わって来て、なんだか胸が苦しかった。

想い合っているのに、それが伝わっていないもどかしさもずっとあったし。

裕福な結珠と貧乏な果遠、二人の育った環境は全く違う。でも、二人とも

家族に問題を抱えているところは共通している。母親が毒親というところも。

だからこそ、二人にしかわかり合えない何かがあったのだと思う。正直、高校で

再会した時も、和歌山で再会した時も、偶然が過ぎないか?と若干引いたところは

ありました。でも、どちらの再会も、特定の人物の意思が介在していて、半分仕掛け

られた再会だったことがわかったので、大分溜飲が下がりました。とはいえ、

和歌山の方はさすがに、そんなに上手く再会できるものかな?とも思いはしたけれど。

結珠と果遠、二人の視点が交互に語られて行くので、お互いにお互いのことをどう

思っているのか、相手はこう思っているのではと不安に思っていることが、相手

視点になってみると誤解だとわかったりと、それぞれの心の動きが細かく伝わって

来て、それぞれに感情移入することができました。人物の心の動きの描写が本当に

うまい。タイトルになっている『光のとこにいてね』のシーンも、こういう意味

だったのか、と胸が締め付けられるような気持ちになりました。同じような表現が

出て来るシーンがその後にも出て来ますが、そこではまた『光』の意味が違って

いたりして、この言葉の使い方が抜群に上手い。情景描写の巧みさも光っていた

と思う。

個人的には、第二章の高校での再会のパートが好きだった。結珠と再会出来たと

浮かれて隣のお姉さんに報告する果遠が可愛かったし、クラスでの立ち位置の違い

から距離を取らなければと容易に話しかけないようにする姿はいじましかった。

それに、終盤で結珠を助ける為に藤野に直撃したところはヒーローのようだった。

まぁ、結果として成功したとは言い難かったけれども・・・。

第二章まで読んだ限りでは、これは今年のベスト作品かも、くらいに思ってました。

ただ、第三章に関しては、なんとなくモヤモヤが残りました。結珠がまさかの相手と

結婚していたところにまずびっくり。いや、結婚したってわかった時点で、相手は

多分その人だろうとは思ったんですけどね。それに、その人で良かった、とも

思ったし。果遠の相手の方が意外だった。もちろん、そこに至るまでにいろんな

出来事があった上だったことが、読んでいくうちにわかるんですけども。一体

どこにモヤモヤが残ったのかというと、最後の果遠の選択に、です。水人との

話し合いの結果なのはわかるのですが・・・やはり、瀬々があまりにも可哀想

ではないのかと。自分の母親と同じようなことをした訳で。あんな風に別れて

しまったら、もう会えなくなってしまう。そこはやっぱり、身勝手な母親としか

思えなかったです。結珠に対しても、最後騙し討ちみたいで後味悪かったし。

ただ、最後の最後、結珠がああいう行動に出るとは思わなかった。そこまで果遠

に対して執着しているとは思わなかった。結珠の執念深さには、ある種の爽快さ

さえ覚えましたけどね。あのあと二人はどうなったのか。どんな結果にせよ、

二人の絆は一生切れることはないのだろう、と思えました。家族よりも深い絆

で結ばれた二人なのだろうな、と。そんな運命の人に出会えるってきっと幸せ

なことなんだろうな、と思わされました。ただ、巻き込まれる家族は迷惑だろう

けど・・・。一番可哀想なのは結珠の夫ですよねぇ。あんないい旦那、なかなか

いないと思うけどなぁ。思いやりあって、理解力もあって。結珠に無償の愛を

注いでくれる。もっと大事にしてあげて欲しいけど・・・それでも、果遠に対する

想いには勝てないっていうね。虚しい・・・。

結珠の弟・直も素直な良い子で好きでした。いろいろと可哀想な境遇で、これから

強く生きていって欲しいと思いましたね。結珠の母親があまりにも毒親過ぎて

引きました。結珠に対しても酷かったけど、直に対しても酷過ぎる。こんな母親

いらないよ、と怒りしか覚えなかったです。せめて結珠と直が和解出来て良かった

です。結珠には、直の味方でいてあげて欲しいです。

 

最後の最後まで息もつかせないくらい、二人の物語に引き込まれました。

ラストは賛否両論ありそうですが。

でも、読み応えのある作品なのは間違いないと思う。一穂さんの筆力が光る作品

でした。