ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

高野和明「踏切の幽霊」(文藝春秋)

久しぶりの高野さん。新着情報で名前を見かけて嬉しかったです。とはいえ、話題に

なった『ジェノサイド』は結局未だに読んでないのですけども・・・^^;

意気揚々と読み始めたものの、物語が淡々と進んで行くせいか、なかなか物語に

入って行けないまま読み進んで行った感じでした。

物語は、婦人雑誌に読者から投稿された、下北沢のある踏切で撮影された心霊写真と

動画が発端となります。投稿先の雑誌の編集者である記者の松田は、この写真と

動画を取材し、記事にするように編集長から命じられ、調べ始めます。すると、

この踏切では最近、なぜか列車の緊急停止が相次いでいることが判明。そして、

更に調べを進めて行くと、その踏切付近で、一年前に殺人事件が起きていたことが

明らかに。松田は、この写真や動画が本物なのではないかと考え始めます。しかも、

調べを進めているうちに、松田自身も不可思議な怪異現象を経験することに。そして、

松田が行き着いたこの心霊現象の真実とは――。

少しづつ幽霊の正体が明らかになって行く過程はそれなりに面白く読んだのですが、

恨みを持った幽霊の存在が、要所要所で都合良く使われている感が否めず、若干

ストーリーに無理があるように感じました。名前のわからない殺人事件の被害者

がなぜ幽霊になって現れるのか、その謎を追って行くというのがストーリーの

肝ですが、その過程にいまひとつ意外性がなく、ご都合主義的に新たな情報がもたらさ

れるせいもあってか、全体的に読み物としての面白みに欠けるという印象でした。

合間合間に挟まれるガチの心霊現象部分は、相方不在で一人で夜中に読んでいたら

かなり怖かったですけど・・・そこ以外は普通に社会派小説の体なので、いきなり

そこだけホラー小説っぽくなって、作品の中で浮いてる感じがして、異質に

感じてしまいました。

ラストで判明する、踏切の幽霊となって出現した女がなぜ、殺人現場から歩いて

踏切まで行ったのか、その理由の部分はやるせない気持ちになって、胸が詰まり

ましたが・・・。かといって、泣けるってほどでもなく。うーむ。諸悪の根源

である政治家の末路は、自業自得なので胸がすく思いにもなりましたけど、

さすがに都合良すぎじゃない?って思いましたしね。幽霊がこういうことって

出来ないはずじゃないのかなぁ。京極さん曰く。まぁ、フィクションの作品

だから何でもありとはいえ、ね。

時代設定が1994年ということもあり、全体的な古臭さを感じてしまうのは

仕方がないところかな。その当時の方が心霊現象とかが話題になりやすかったし、

婦人雑誌が取り上げてもおかしくない。今の婦人雑誌だったら、絶対こういうネタは

載せないでしょうからねぇ。

高野さんは、『13階段』みたいな、ガチガチの社会派の方が向いているのじゃ

ないかなぁ。変に幽霊という超常現象的な要素を入れたことで、物語が薄っぺらく

なってしまった感が否めない。久しぶりに作品が読めたことは嬉しかったけど、

ちょっと期待していたものから外れていて、残念だった。