ミステリ読書録

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成田名璃子「東京すみっこごはん レシピノートは永遠に」(光文社文庫)

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大好きな東京すみっこごはんシリーズ、最新巻にして最終巻。これで終わりかと

思うと、とてもさみしい。そして、最終巻は、最終巻らしい一冊としか言いようが

ないお話でした。街の共同台所、すみっこごはんを作った人物の娘としてヒロイン

を勤めて来た高校生の楓にとって、とても辛い出来事ばかりが押し寄せる一作でした。

 

以下、重要な内容に触れています。未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

すみっこごはんの常連さんたちが、一人、また一人と遠くへ旅立って行ってしまう

のは、読んでいる私にとっても寂しいものでした。そして、各章の最後に挿入

される、楓の祖父の独白には、一章ごとに嫌な予感が強くなって行きました。結局、

その予感は現実のものとなってしまう。すみっこごはんの大事な人との別れを何度も

経験した楓にとって、一番辛い別れがこんなに早く訪れてしまうとは。短期間で、

作者はあまりにも多くの試練を楓に与えすぎなんじゃないかと思ってしまうほど

でした。

どんな人でも、人生の新しいステージでは出会いと別れがつきものです。それが

楓にとっては一度に押し寄せ過ぎではありますが、時は移りゆくものです。この

別れは高校三年生という人生の岐路に立つ楓にとっては、仕方がなかったとも

言えるのでしょうね。それでも、すみっこごはんという素敵な場所があったおかげ

で、多くを学び、たくさんの人と出会えた楓は、新しい一歩を踏み出すことが

できました。いつでも帰れる場所があるっていいなぁ、羨ましいなぁと心の底

から思いました。しかも、その場所に行けば、美味しいご飯と素晴らしい仲間

たちに会えるのですから。遠くに行ってしまった人もいるけれど、心は繋がって

いるし、楓が困った時にはみんないつでも心配して飛んで来てくれる。それに、

近くには楓のことが大好きな純也もいてくれますしね。一人になってしまった楓

にとって、純也の存在がいることはとても大きいのではないかなぁ。悲しいのは、

楓自身は純也のことを幼馴染としか思ってなさそうなところ。早く、異性として

意識してあげて欲しいなぁ。

章終わりの、少しづつ弱って行く祖父の心情を読むのが辛かったなぁ。一人残して

しまう楓のことが心配で心配で仕方がないのが伝わって来て。こういう祖父に

育てられたから、楓はあんなに良い子に育ったのでしょうね。

レシピノート紛失の理由は、だいたい想像した通りでした。母親の、楓に対する

深い愛情と優しさを感じました。でも、受け継がれて来たすみっこごはんのレシピ

は、これからも残して行くべきものだと思う。柿本さんが由佳さんの言葉通りに

実行しなくてほっとしました。

出て来たお料理は、今回もどれも美味しそうでした。麻婆豆腐、私も良く作る

んで、作りたくなっちゃった。スパイス炒めて作るすみっこごはんのカレーも

美味しそうだったし、金子さんの作る愛情たっぷり入った家庭味のお稲荷さん

もめっちゃ食べたくなりました。あー、このシリーズ読んでるとお腹すくのよね。

これで読み納めかと思うととてもさみしい。でも、すみっこごはんがこれからも

継承されて行くのは確かみたいだから、いつかまた再会出来るかもしれない。

楓が大学を卒業してすみっこごはんに戻って来たお話とかも書けそうだし。

その時には田上さんも柿本さんも戻って来ているだろうし。まだまだ続いて

欲しい。

そして、その時には、楓と純也に少しは進展があるといいな(笑)。

 

と、この記事を書いた後に、出版社のHPで、すみっこごはんのその後が描かれた

スピンオフ掌編が読めることを知り、読みに行ってみました。

楓と純也のその後のことがばっちり書かれていて、読んで良かった!と思えました。

二人の未来が明るいものであって良かったです。これで完全に完結なんだなと

思わされた作品でもありましたけれどね。