ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

一穂ミチ「うたかたモザイク」(講談社)

最近注目している一穂さんの最新作。タイトルにあるように、少し長めのものから、

ショートショートのようなものまで、まさに、さまざまな形を集めたモザイク画

のような短編集。内容的にも、いろんなタイプのお話が入ってます。全部で13編

と、読み応えたっぷり。なにげない日常を切り取ったようなお話から、ちょっぴり

ホラーっぽいのやら、ファンタジックなものやら、ミステリっぽいのやら。一穂

さんって、いろんな引き出し持ってる方だなぁと驚かされました。語り手(主役)

も、動物視点のものや、変わり種ではソファ視点のものなんかもありました。

短編だけにどれもさらっと読めるのだけど、心にぐさりと突き刺さったり、胸が

締め付けられるような切ないものもあり、いろんな感情に心を揺さぶられる短編集

でした。

 

では、簡単に各短編の感想を。

『人魚』

「―あのさ、今まで黙ってたけど、人魚、なんだよね」で始まるお話。書き出しが

秀逸ですねぇ。途中まで、ファンタジーか?と思いながら読んでましたが・・・

なるほど、というオチでした。童話の人魚姫のラストとは違って、微笑ましい結末で

良かった。

 

『Melting Point』

恋人同士の営みをチョコレートのテンパリングになぞらえるとは。なかなかこういう

発想できない気がするな。ショコラティエの恋人がチョコアレルギーとは悲しい。

私の友人にもチョコレートが嫌いな人がいましたけどね(アレルギーではないけど)。

チョコ大好き人間としては、人生の半分損してると思いましたね。

 

『Drrppin' Drops

今流行りの『推し活』がテーマかな。個人的にはアイドルとかに熱狂したことが

ないので、こういう気持ちはあんまり理解できないんだけど、これだけ情熱を

傾けられる存在がいるってある意味羨ましい気もしますね。ラスト、知人の結婚式

で再会した二人のシーンが好きだな。主人公にとっては一生の恥になりかねない

けど、推しと一緒に歌えた記憶もまた、一生心に残るものになるんじゃないかな。

 

『永遠のアイ』

死んだ彼になりすまし、メールを頻繁に送って来るAIのウイルスに縋る主人公の話。

チャットうんちゃらが話題になる今、近い将来本当にこういう詐欺が横行しそう。

でも、もし自分が彼女の立場だったら、同じように、騙されて縋りたくなって

しまうかもしれない。

 

『レモンの目』

主人公が住む部屋に毎日訪れて来る、首にリボンをつけた黒猫。ある日、その猫の

首のリボンに主人公への手紙がくくりつけられていた。手紙の相手は、小学生

の女の子のようだった。黒猫を通して、二人の文通が始まるが・・・。

ほのぼのしたお話かと思いきや。いやー、まさかの結末。こここ、怖すぎるーー!!!

 

『ごしょうばん』

飢えた人のなけなしのご飯を『ご相伴』に与る妖怪、『ごしょうばん』の

話。まさかの妖怪譚。むかしの時代なら、こういう妖怪がいてもおかしくないなぁ。

優しい僧侶の末路が悲しかった。今の飽食の時代だと、ごしょうばんが美味しいと

思えるごはんにはなかなかありつけないでしょうね・・・。

 

『ツーバイツー』

親友同士で、双子の兄弟のそれぞれと結婚し、義理の姉妹になった亜紀と加那重。

それぞれに夫のことは愛しているが、性行為をめぐってそれぞれに悩みを抱えていた。

そこで、加那重は亜紀に自分の夫と寝ることを提案するが。

うーん。こういうのは不貞に入るんだろうか。お互いの利害が一致しているなら

いいのかなぁ。私だったら絶対嫌だけどね。

 

『Still love me?』

十七年間片想いしている従兄が、主人公に会う度に聞く質問。ボーイズラブを描いた

作品です。39歳になった従兄との結末にニヤニヤしてしまった。

 

『BL』

こちらも広い意味でのBL作品。ジャンルとしては、近未来SFって感じかな。

天才のシサクと、その友人であり助手であるニンの物語。シサクが愛する女性、

リピカの正体にも驚いたけど、もっと驚いたのはラストで明かされるニンの本心。

だからBLが出て来たのか、と。こんなに切ない話だとは思わなかったです。

 

『玉ねぎちゃん』

コロナ禍の『不要不急』をテーマにしたショートショート。離婚した片親は、

コロナで自分の子供と面会できなかった時、みんなこの父親みたいな気持ちに

なったんじゃないかな。

 

『Sofa & ...』

ちらっと先に述べたように、語り手がソファという、変わった視点のお話。

どんな時も主人の女性に寄り添って来た赤いソファ。自分の家にあるソファも

こんな風に自分を支えてくれているのかなぁと思ってしまった。ラスト、新しい

家に連れて行ってもらえるのか、私もハラハラドキドキしました。

 

『神さまはそんな優しない』

電車にはねられて命を落とした主人公が、猫に生まれ変わって嫁に拾われる話。

猫の姿でどんなに嫁に話しかけても伝わらず、嫁は猫として自分を猫可愛がり

する。主人公の後悔やら切なさが伝わって来ました。ラストで明らかになる嫁の

秘密には胸をぎゅっと掴まれたような気持ちになりました。ちょっとミステリ的な

仕掛けもあって読ませるお話でしたね。

 

『透子』

これのみ、書き下ろし作品だそう。そんなに長い話ではないけど、心に残る作品。

周りからバカにされている透子という女の子と、彼女が、月一回、祖父の購買して

いる『文藝春秋』を取りに行く書店の店主とのお話。透子も店主も、それぞれに

お互いの為の嘘をついていた。優しい嘘のお話。切ないけれど、温かみのある

作品だった。透子にお勧めの本を教えてくれた少年とのラストも良かった。