ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

早坂吝「しおかぜ市一家殺害事件あるいは迷宮牢の殺人」(光文社)

久々早坂さん。ミステリ好きのお仲間ブロガーゆきあやさんが絶賛していたので、

読むのを楽しみにしていました。

なるほど、なるほど。いろいろ騙されましたねぇ。構成が素晴らしい。序盤は

しおかぜ市一家殺害事件の様子が描かれ、中盤から名探偵・死宮遊歩が体験した、

迷宮牢に閉じ込められた体験談が語られます。しおかぜ市の一家殺害事件の方は、

狂った犯人の思考が理解しがたく、読んでいて嫌悪しか覚えませんでした。

迷宮牢のパートは、六つの迷宮入り事件の犯人を集め、その事件で使われた凶器

を各人に与えて殺し合いを始めさせる典型的なデスゲームを描いたもの。ゲーム

マスターは一体誰なのか。六つの事件の筈なのに、なぜ集められたのは七人なのか。

それぞれの事件の犯人はどの人物なのか。名探偵死宮はこの謎を解けるのか――

という、なかなか古典的な本格風。一人づつ犠牲者が出て行く様子は、まさに

そして誰もいなくなった』的な王道展開。文章も読みやすいのでぐいぐいページが

進みました。集められた七人は、それぞれにキャラは強いけど、好感持てる人物

が一人もいなかった。探偵役の死宮は、名前からして現実離れしてるし。自分を

いちいち『名探偵』と言っちゃうところに引いてしまった。他人を寄せ付けない

美人女医、八十歳超えの気難しい合気道達人のじいさん、軽薄な迷惑系ユーチュー

バー、頭の切れるクールな美人バイオリニスト。なんとなく、それぞれにリアリティ

があるようでないキャラクターだなぁと思いながら読んでました。国語教師の上田

だけはあまり個性のない普通のキャラクターだったけど(まぁ、それも仕掛けの

ひとつと言えるかもですが)。

 

 

以下、ネタバレ気味の感想が含まれております。未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

うーむ。そういうのが全部伏線だったとは。しおかぜ市の事件の犯人が六人の中

に含まれているから、序盤にこの事件のことが描かれているのだと思ってたの

ですけどね。こういうことかーーー!!って感じ。二重三重に騙されていたなぁ。

迷宮牢のパートで、出て来る擬音にいちいち当て字がついてて、それにもイラッと

したんですけどね。そこも、伏線の一つだった訳ですよねぇ・・・。餓田の名前

だけは本名だった訳ですけど、こんな名字嫌だなぁ。餓田の障害についても、

冒頭の場面に戻ると、ちゃんと伏線が張ってあるんですよね。絶妙な表現で。

はー、なるほどぉぉぉ、と思いました。こういう障害があるってことも初めて

知りましたね。方向音痴な人間としては、たまに自分もこういう状態になること

ありますけどね・・・(←えー)。

冒頭の一家殺害があまりにも鬼畜な所業だったので、餓田に天誅が下されて

すっきりしました。でも、◯違いだったなんて・・・被害者一家が気の毒すぎる。

皮肉な結末だけど、最後まで反転させるところはさすがだと思いましたね。

有栖川(有栖)さんへのリスペクトにはニヤリ。有栖川さんも、こういう形で

自分の作品が使われるとは思わなかったのでは?ミステリ作家にとっては嬉しい

でしょうけれどね。

タイトルの二つの事件の繋がりがわかった時は、すっきりしました。構成で

読ませるタイプのこういう作品は大好きです。お見事でした。