ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

有川ひろ「物語の種」(幻冬舎)

有川さん最新作。読者に物語の種となるエピソードやキーワードを投稿してもらい、

それを有川さんが小説にするという企画ものの短編集。他人から生まれた種を、

どう作家有川ひろが芽吹かせるのか。10作の短編が収録されています。

種は、『レンゲ畑の写真』『ヤモリの写真』『結婚40周年で妻に贈った薔薇40本』

等の写真だったり、実際のちょっとした体験談だったり、コロナ禍らしい『リモート

会議』というキーワードだったりと、さまざま。選ばれた種に合わせた、有川さん

らしい物語集になっていると思います。

このお題からこういう物語に発展させたのか~と、読み終えて最終ページに明かされる

『種』の記述を見て、納得したり感心したり。作家としては、お題がある方が

話を膨らませやすかったりするものなのかな~とも思ったり。種として取り上げて

もらえた人は嬉しかっただろうなぁ。でも、10作品中、編集部からのお題だったり

宝塚の俳優さんからのお題だったりも入っているので、せっかくなら全部ちゃんと

素人投稿者からのお題にしてほしかったような気もします。だって、ものすごい

数ある投稿の中からの10編じゃないですか。しかも編集者からのが複数入って

るんだよね。百歩譲っても、編集者が出すのは冒頭の一編で良かったのでは・・・

(こういう感じに投稿してね、という見本の意味も兼ねて)。

あと、六話目の『Mr.ブルー』以降、宝塚の魅力にハマったらしく、関係ない

お題の作品でも、ほとんどが宝塚関係の話に持って行っちゃってるのはちょっと

どうなのかな、と思いました。好きな人はいいだろうけどさぁ。私のように

さほど興味のない人間にとっては、ちょっと飽きてお腹いっぱい状態になって

しまった。ああ、有川さんのこういうところが苦手なんだよな~・・・と再認識

させられた感じ。相変わらず、自分を人気作家として作中に登場させるし(作家名

は出てこないですが、明らかにご自身の作品が出て来る。県庁の広報課を舞台にした

作品とか)。

いやまぁ、実際大人気作家だからいいんだけどさ。自己顕示欲が強いというか、

自分大好きな感じが、ちょっと引っかかっちゃうのですよね・・・(黒べ)。

でも、読書メーターの感想読んだら、ほぼ100%好意的な感想だけだったので。

そう、私がひねくれてるんです。すみません・・・。

もちろん、基本的には読んでいて楽しかったんですけどね(ほ、ほんとですよ?)。

冒頭のSNSの猫中毒の女性のお話なんかは、後輩男子との関係にキュンキュンしま

したし。一番好きだったのは、ヤモリの写真から物語を膨らませた『ぷっくりおてて』

かな。夏休みの間、一人暮らしの祖父の家に預けられた小学生の男の子のお話。

おじいちゃんとの距離が少しづつ縮まって心を通わせて行くところが良かった。

胡瓜と白菜どっちが好き?というお題から発展させた『胡瓜と白菜、柚子を一添え』

なんかも、何かと対立し合う義父母を面白可笑しく描いた一編で、ほのぼのしてて

楽しかったですね。しかも、『ゆず、香る』の続編でしたし。思わぬ再会に

テンション上がりました。あのお話読んで以降、馬路村の柚子に出会う度に、あの

お話のふたりを思い出していたので。

ちょっと引っかかったのは、この企画は人名が登場しないしばりになっているそうで、

物語がすべて彼氏彼女みたいな三人称表記で書かれているところ。いや、それ

自体は別にいいんだけど、そこに、なぜか突然俺とか私、みたいな一人称が入る時が

あって、会話文を誰が話しているのかがわかりにくくて、ちょっと読みにくい

時がありました。三人称なら三人称で統一してほしかった。種となるネタが一般投稿

からのものだから、個人名が登場させられないのかもしれないですけど、別に物語

(フィクション)なんだから架空の名前つけても良かったんじゃないかな、と

思いますけどね。まぁ、有川さん自体、キャラクターに名前をつけるのが苦手

だそうだから、ちょうど良かったのかもしれませんけどね。

まぁ、作者にとっても読者にとっても、面白い企画だったんじゃないかな。