ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

三浦しをん「墨のゆらめき」(新潮社)

しをんさん最新作。出る情報を知らなかった為、図書館入荷してから予約したので、

かなり待たされました。

今回のテーマは書道ですね。最近、書道を取り上げた作品って多い気がするなぁ。

この間テレビでやってた『ばらかもん』でしたっけ?あのドラマも書道家

主役でしたよね(一度も観たことはなかったのですが・・・^^;)。書道

パフォーマンスなんかもテレビで取り上げられることが多いですよね。他にも

何かあった気がするんだけど(ど忘れ^^;)。書道家で有名なひとも結構

テレビで観る機会が多い気がする。流行りなのかな?

書道家っていうと、イメージ的には気難しくてきっちりしている人って感じがある

んだけど、本書に出て来る書家は、かなり破天荒。しをんさんらしいキャラクター

って感じがしたな。豪放磊落というか、自由奔放というか。あんまり見た目に気を

使わないけど、実は整った顔立ちでガタイもいい。女性が放っておかないタイプ

って感じ。子供と動物に優しいってのもモテポイントですかね(笑)。いかにも

少女マンガに出て来そうなキャラクターだなーと思いましたね。

ストーリーは、都内の三日月ホテルに勤める続力(つづき・ちから)が、豆腐屋

から化粧品会社を立ち上げ、大企業に成長させた水無瀬源市氏のお別れの会で

使用される招待状の宛名書きを引き受けた、筆耕士の遠田薫に会う為、彼の自宅

を尋ねたところから始まります。散々迷って辿り着いた遠田書道教室で続を迎え

入れたのは、背が高く筋肉質で、役者のように整った顔立ちの男だった。行った

時間はまだ子供向けの書道教室の最中で、続は遠田の指導を眺めながら終わるのを

待っていた。教室が終わり、ようやく依頼の件について話ができると思った矢先、

道教室に通う少年が一人残っていることに気づいた。少年は、遠田にもうすぐ転校

してしまう友達への手紙を代筆してほしいという。遠田は、副業で代筆屋の仕事

もしているらしい。しかし、代筆は出来ても、手紙の文面を考える能力はない

ようで、なぜかその場にいた続が文面を考える羽目に――。

真面目でお人好しの続と、自由奔放な遠田、二人のキャラと関係がとても良かった

ですね。いいコンビだなぁと思いました。遠田が続のどこを気に入って、必要も

ないのに何度も自宅に来させようとしていたのか、そこの説明がなかったのは

ちょっと残念だったけれど、きっと初対面から『何かコイツとは気が合う』と

思ったのでしょうね。小学生の少年のお願いごとに対して、真剣に悩んで向き合う

姿勢から考えても、続が『真面目でいい人』なのはまるわかりでしたもんね。

最初は遠田のことを面倒だと思っていた続も、何度か自宅に通ううちに、少し

づつ打ち解けて行って、仲良くなって行くところが微笑ましかったです。金子信雄

氏に似た飼い猫のカネコさんの存在も良かったですね。一見、ふてぶてしい感じ

の猫ですが、遠田が真剣に書と向き合っている時は絶対に邪魔をしないし、頭のいい

子ですよね。なんとも愛嬌があって、可愛らしかったですね。

遠田が書を書く時の描写はさすがだと思いました。墨独特のあの匂いが漂って

来るような気すらしました。息を詰めるような緊張感の中、流れるような所作で

美しい字が紡がれて行く。こちらまで緊張感が伝わって来るようでした。それを

見守る続の深い感動と尊敬の想いも伝わって来ました。遠田が書と向き合うシーンは、

とても好きでしたね。

だんだん深まって行く二人の関係性に微笑ましい気持ちでいたところに、突然、

終盤になって遠田の方から一方的に続との関係を断つような宣言が言い渡された

ので、面食らわされました。一体何があったんだろう、と心配になりましたが

・・・意外な真相が隠されていました。遠田も内心では忸怩たる思いだったで

しょうね・・・。でも、続が、遠田の思惑をぶち破ってくれて良かったです。

二人の関係性はこれからも続きそうで、ほっとしました。遠田の自宅で、遠田が

用意したご飯を二人で食べる姿が、ほのぼのしててとても好きだったので。

二人に代筆を依頼した遥人君のキャラクターも良かったな。二人との関係も。

子供相手でも、子供だからって態度にならないで、真剣に向き合ってあげるところが

二人の良いところですね。代筆のお礼がうまい棒ってところは、小学生らしくて

可愛らしかったですけどね。

個人的には、自分の字にコンプレックスがあるので、書道に限らず、字が上手い人は

憧れてしまいます。書道って、墨を擦るところから姿勢正しく、きれいな所作でやる

イメージ。猫背で姿勢の悪い私にはハードルが高いって感じするんだよな~。私も、

子供の時に書道やっておけば良かったなぁ・・・。遠田みたいな先生だったら、

楽しく字が書けそうでいいなぁと思いました。

書道の奥深さをしみじみ味わわせてもらえる作品でした。面白かったです。